壁(タンク)
飛び出した俺たちに、「イビル・バイコーン」はすぐさま気付いた。
後ろでツキノが遅れて飛び出した音を聞きながら、俺は銃を抜く。
「ツキノ。攻撃の準備してて」
「はい!」
俺が指示を出している間にも、「イビル・バイコーン」はこちらを見ながら鼻息を荒くしていた。
そして、一瞬の間の後。
「イビル・バイコーン」は猛スピードで突撃してきた。
いつぞやの「ヘヴィ・ボア」とは比べ物にならないスピードだ。
そして、串刺しにするように、頭の両角を突きだしている。《ダブルホーン・チャージ》。
あれがクリーンヒットすると、並の中堅プレイヤーは吹っ飛ばされ、HPもごっそり減る。
だが。
シズなら。
「……!」
シズは向かってくる「イビル・バイコーン」の正面に立った。
そして。
「イビル・バイコーン」の《ダブルホーン・チャージ》が、シズにヒットする。
いや、ヒットしたというのは正確じゃない。正確には、シズがその攻撃を受け止めた。
シズは吹っ飛ばされもせず、HPも確かに削れているが、全体の数パーセント程度だ。
シズのクラスは拳闘士。そして役割は壁。
敵の攻撃を一手に引き付け、他の仲間を守る役割。
その役割のために、シズはステータスを特化させている。
「……今だ!」
そして、攻撃の後のほんの一瞬の隙を、俺とツキノは突く。
「《ツイン・バレット》!」
「《スクエア・エッジ》!」
俺とツキノの攻撃スキルが、寸分違わず「イビル・バイコーン」に叩きこまれる。
威力を高めた銃弾と、四連斬撃。
そうしてまたできた一瞬の隙を、今度はシズが突く。
「《破砕拳》!」
シズの攻撃スキルが叩きこまれる。
その威力に、「イビル・バイコーン」が一、二メートル吹っ飛んだ。
拳闘士の戦闘スタイルは大きく二つに分けられる。
ヒット&アウェイ、手数で攻めるタイプと、壁としてステータスを特化し、高威力の一撃を叩き込む、一撃必倒タイプ。
シズは後者の一撃必倒タイプだ。
後退した「イビル・バイコーン」は、体勢を整えると、またそのスピードを活かして突っ込んできた。
「シズ!」
「わかってる!」
《ダブルホーン・チャージ》をまた受け止める。
どうしたってHPは削れてしまうが、大丈夫だ。
シズのHPが削り切られる前に、まず「イビル・バイコーン」は倒せる。
奴はAGIが高すぎる分、比較するとDEFやHPは低い。
さっきの攻撃で、HPの十分の一くらいは削れてる。
問題ない。
「ツキノ!」
「はい!」
ツキノに呼びかけて、俺たちはもう一度、攻撃スキルを叩き込んだ。
「《バースト・ストレート》!」
ツキノの突剣スキルが炸裂する。
俺も《リロード》し、銃を構えた。
「《フル・バースト》!」
全弾の威力を一撃に込めて叩きこむ。
これもかなり効いたようで、「イビル・バイコーン」のHPがぐん、と削られた。
そして。
「《剛牙狼拳》!」
シズの、まるで狼が噛みつくような激しい拳が叩きこまれる。
また吹っ飛ぶ「イビル・バイコーン」。
俺は吹っ飛ぶ様を見ながら、《リロード》した。
○
「終わりだ……!」
シズの一撃が叩きこまれる。
同時にHPが0になり、パンという破裂音がした。
そして、今まで「イビル・バイコーン」が存在していた場所には、ドロップアイテムとウインドウがあった。
その中には、目当ての「イビル・バイコーンの両角」もあった。
「これですね、お目当ての素材」
「だな」
言いながら俺は腕をぐるっと回した。
仮想現実のこの世界で、別に腕を回したからといって骨が鳴るわけでも筋肉をほぐせるわけでもないのだが、なんとなく気分的に回してしまう。
それだけ気疲れしているということだ。ボスクラスの相手と戦ったほうがよっぽど疲れるが。
「目当てのアイテムが手に入ったのなら、さっさと戻らないか? ツキノは用事があるんだろう?」
「そうしましょうか」
「オッケー」
そう結論づけて、俺たちは戻ることにした。
さて、時間は大丈夫なんだろうか。
帰り道の道中、また虫型モンスターとエンカウントし、ツキノが悲鳴を上げたことだけをここに記しておこう。
あと一話くらいでこの章は終わりです。
書き溜めてないので、更新はいつになるかわかりませんが。




