現状
VRMMORPG。
ヴァーチャルリアリティマッシブリーマルチオンラインロールプレイングゲーム。
ようするに、ネットゲーム、MMORPGの進化系だ。
《DIVE》と呼ばれる専用ゲームハード。形としては、バイクのフルフェイスマスクに近い。
それを被り、PCに繋げることによって、俺たちプレイヤーは、仮想世界に文字通りダイブする。
この世界では、五感を完全に仮想世界と繋げることができる。
俺たちは、この世界を“体験”できるのだ。
技術の進歩により、未来の発明でしかなかったそれらが実現され、VRMMORPGというジャンルが確立され、それらは大人気となった。
俺はその「ネットゲームのバブル期」とも言うべき時代からは少し年代がずれているが、そんな俺も、VRMMORPGというのは興味を強く惹かれた。
そして、四年前、小遣いをはたいて《DIVE》を購入した俺は、すぐさまプレイした。
その頃には、VRMMORPGは様々なゲームがあったが、俺が選んだのは、《Last World Online》。
当時最も人気であり、今でも有名度トップクラスであろうゲームだ。
俺は、その世界にダイブした。
新たな世界という、夢と希望と、冒険を求めて。
○
俺は、森フィールドから、現在拠点にしている街「ティアシティ」へと入った。
目的は、いい加減アイテムストレージを圧迫している、不要な素材アイテムを売り払うためだ。
どんなRPGでも言えることだが、基本的にモンスターを倒すと、アイテムをドロップする。
そのドロップしたアイテムで、装備を強化したり、または売って、新しいアイテムを購入するための資金にするだろう。
最新のVRMMORPGであるLWO(《Last World Online》の略称だ)でも、それは変わらない。
様々なプレイヤーやNPCが歩く、ファンタジー物語に出てくるような石造りの街並みを眺めながら、俺は行きつけの店まで歩を進める。
○
《Last World Online》が、人気のある理由。
それは、自由度の高さや、街並み、フィールドなどの創りのクオリティの高さももちろんだが、何より他のVRMMORPGとは違う点があった。
それは、この世界で獲得したオル(LWO内での通貨単位)を、現実の金銭に換金することができるという点である。
10オルで1円。100オルなら10円だ。
つまり、この世界で金を稼げば、現実の世界でも使えるのである。
娯楽の中で、金稼ぎができると聞いて、色々なプレイヤーが飛びついた。
ちなみに、俺はそこまで金稼ぎにご執心なわけではない。
ただ純粋に、このLWOを楽しみたい。その一心でプレイしている。
しかし、一部のプレイヤーたちは、そうもいかないらしい。
このLWOは、今問題を抱えている。
まず一つ。
恐喝。
この世界での通貨は、現実の通貨に換金できる。
そう聞いて、熱心に稼ぐプレイヤーもいるだろう。
しかし、中にはそういったプレイヤーを狙い、暴力などで、無理やり金銭やレアアイテムを出させるという、現実では犯罪である行為に手を染める莫迦共がいるのである。
これが金銭なら、まだいいだろう。しかし、必死に取ったアイテムを奪われたら、たまったものじゃない。
金銭面を抜きにしても、自分が必死になって獲得したアイテムを奪われたら、ゲームへの意気が落ちる。プレイする気が無くなってしまうだろう。
事実、アイテムや所持金を奪われて、ゲームをやめたプレイヤーもいると聞く。
この問題に対しては、運営側が色々手を尽くし、またゲーム内でも、まっとうにプレイしているプレイヤーたちが、そういった犯罪行為をするプレイヤーを駆逐しようと、様々な動きを見せた。そのおかげで、以前と比べてかなり被害は減少した。
しかし、それでも0にはならない。今も運営側やプレイヤーが手を尽くしているが、中々無くならない。
そして、もう一つの問題。
PKだ。
PKは、プレイヤーを殺す行為、もしくはそれをするプレイヤーを指すネット用語だ。
このゲームでは、街などのエリアではシステム上PKできないのだが、エリアを出て、フィールドに出ると、PKができるようになる。
PKされると、されたプレイヤーの所持金やアイテムがドロップする。
それを回収し、自分の物にする莫迦共がいるのだ。
これもプレイヤー側が対処しようとしているのだが、運営側はシステム上認められている行為のため、抜本的な対策を取れない。
中には、ドロップに興味なく、ただPKしたいからPKするプレイヤーも横行している。
標的になるのは、初心者やレベルの低いプレイヤーで、奴らは色んな手を使ってPKする。
Pkされたせいで、ゲームをやめてしまうプレイヤーもいる。
他にも色々細々した問題はあるが、現状最も重大な問題はこれらである。
運営側は、日々届く苦情やクレームに頭を悩ませていることだろう。