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《Last World Online》  作者: 黒藤紫音
3章:仲間・スズ&カノ
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「……本当に、王子様みたいです」

 顔の赤みも落ち着き、俺とツキノ、そしてスズは、カフェのテーブルに座っていた。

 ちなみに、何かあった時に守れるように、俺の隣にツキノが座り、スズはテーブルを挟んで真向かいにいた。

 スズは注文した紅茶を一口飲み、口を開く。


「改めて自己紹介するわね。あたしはスズ。シレンとはまあ……腐れ縁かしらね。なんだかんだつるんでるわ」

「あ、はい。ツキノと言います。「光聖騎士団」に所属してます」

「うん、ワタルから聞いてる。あたしは「スリズィエ」よ」

「「スリズィエ」ですか?」


 スズはそう言って、腕のギルドマークの入った腕章をツキノに見せる。桜をモチーフにしているマークだ。

 ギルド「スリズィエ」というのは、女性プレイヤーだけで構築されたギルドだ。

 スズみたいな奴には天国だろうな。

 ちなみにツキノの「光聖騎士団」のギルドマークは白い剣だ。


「“スリズィエ”……フランス語で、“桜”ですね」

「らしいわね。リーダーが言ってたわ」


 へぇ、そうなのか。

 なんとなく“桜”が関係しているんだろうな、とか思ったが、フランス語だったんだな。

 驚くのと同時に、ツキノの博識さに舌を巻く。

 一応、俺も小学校、中学校、高校と何年も勉強してきているが、そんな言葉は知らなかった。

 というか、それこそ専門の道に進まないとフランス語なんてわからないだろ。


「よく知ってるな、ツキノ……」

「昔読んだフランス小説に書いてありました」

「ちょっと待ってくれ、それたぶんフランス語で書かれてるよな?」

「ええ」


 えええええ。

 フランス語そのままで読んでるのか、それとも訳しながら読んでるのかは知らないけど、どんだけだよ。

 俺なんて日本の小説でも、興味ないとそんなに読まないぞ……。


「あはは、すごいわね、ツキノちゃん。シレンも見習えば?」

「うっさい」


 スズの揶揄に、ぶっきらぼうに返す。

 自分の頭の出来が良くないのは自覚あるから何も言うな。

 って、そういえば。


「スズ」

「何、シレン?」

「お前、カノは?」


 俺がその名前を出すと、スズは、あ、という声をあげた。

 ツキノは、自分の知らない名前が出たからか、きょとんとしている。


「忘れてたんだなお前」

「だって……しょうがないでしょ! こんな可愛い子がいたら誰でもそんな些事忘れるわよ!」

「開き直るな。つかお前にとってカノは些事か」


 とんでもない女だなオイ。

 ある意味通常運転なスズに呆れていると、隣に座っていたツキノが、俺の袖を控えめにくいくい、と引っ張っていた。


「ツキノ?」

「シレンさん……、あの、カノさんって……?」

「ん、俺がつるんでいる仲間の一人だよ」


 簡潔にそう説明する。

 まあもっと詳しい説明は後でするとして、今はスズだ。

 視線をツキノからスズに戻して、視界に入った姿に、あ、と声をあげる。


「カノ」

「え」


 俺の言葉を聞いて、スズは後ろを振り向いた。

 さてはて、そこには、黒髪の男が一人立っていた。

 彼の名前はカノ。俺の仲間の一人だ。


「…………スズ」

「あー……、カノ、元気?」

「…………何、してた?」


 ずいぶんと間が多い話し方だが、カノのこの喋り方はデフォだ。

 怒っているようにも見えるけど。


「…………俺の用事に、付き合うはずじゃなかったか?」

「…ごめん」


 スズが申し訳なさそうにそう謝った。

 そんなスズを見た後、カノは俺とツキノに目をやった。


「…………よう、シレン。それに、「光聖騎士団」のツキノさん。初めまして、だな」

「あ、はい。初めまして、ツキノと言います。貴方は……」

「…………カノだ。シレンの仲間だよ」


 そこまで言うと、カノは視線をスズに戻した。


「…………スズ、行くぞ」

「え、もう? もう少しツキノちゃんとお話を……」

「…………スズ」

「あー、はいはい、わかったわよ」


 カノの、じぃ、と責めるような視線に、スズは白旗を上げた。

 俺がそんな視線を向けてもどこ吹く風なくせに、カノには弱いらしい。

 若干不公平を感じなくもないが、それはひとまず置いておく。


「でも、本当にツキノちゃんとはもっといたい……。あ、そうだツキノちゃん!」

「は、はい?」

「これから暇なら、良かったら一緒に行かない?」


 ずいぶん唐突なお誘いだな。


「一緒に行く……とは?」

「うん。ちょっとあたしたち、これからモンスターの分布調査に行くんだけどさ」


 わざわざ説明する必要もないかもしれないが、分布調査というのは、簡潔に言ってしまえば、どんなフィールドに、どんなモンスターが出現するかを調べる、という物だ。

 基本的に出現するモンスターは固定されているのだが、先日のミミックのように、時々、運営側のお遊びというか、マンネリにならないよう気遣いなのかは知らないが、今まで出現していなかったモンスターが出現することがある。逆に、今まで出現していたモンスターが、出現しなくなるなどということもあるので、情報屋プレイヤーたちは、定期的にモンスターの分布調査を行っている。


「分布調査……、ということは、スズさんとカノさんは、情報屋なんですか?」

「ううん。あたしは違うわ。カノだけよ」

「…………ああ。俺は情報屋だ。「樹の眼」に所属してる」

「「樹の眼」……」


 「樹の眼」。

 このLWOには、情報屋が集まっている「情報屋ギルド」がいくつもある。

 その中でも、「樹の眼」は大きなギルドだ。

 カノは、そんな「樹の眼」で情報屋として活動している。俺たちも、その情報に何度助けられたかわからない。

 カノの右腕には、樹と眼が描かれたギルドマーク付きの腕章があった。


「それでまあ、一人で調査はいくらなんでも危ないからって、あたしに手伝えって言って来たんだけどさ。だからって二人だけっていうのもね。だからツキノちゃんも来ない?」

「えっと……」


 ツキノがチラ、と俺を見る。

 ……まあ、初対面でセクハラしてくるような百合女と、会ったばかりの男と三人じゃ、気まずいだろうな。

 仕方ない。それに、ツキノだしな。


「なあ、俺も一緒に行っていいか?」

「え?」

「…………俺は構わないが」


 俺がそう言うと、ツキノは少し嬉しそうな笑顔を見せた。

 くす、と微笑して、俺はスズに視線を向ける。


「駄目か?」

「……カノがいい、っていうなら、いいんじゃない?」


 すこぶる不服そうである。

 まあ、スズからしたら俺はお邪魔虫だろうしな。カノもいるんだけど。


「…………ツキノさんはどうする?」

「私も行きます。それと、カノさん。ツキノ、と呼び捨てで構いません」

「…………そうか。なら、ツキノと呼ばせてもらおう」


 言い終わると、カノは歩き始めた。


「…………さっさと行くぞ」

「ちょっと待ってよ」


 歩き始めたカノの後を追うスズ。

 俺もその後を追おうと立ち上がると、同じように立ち上がったツキノに、服の袖を引っ張られた。


「シレンさん」

「うん、どうした?」


 俺を見上げて、ツキノは微笑んでいた。


「ありがとうございます。一緒に行くって言ってくれて」

「いや、分布調査は俺にもメリットあるしな。それに……」


 そこで俺は一度言葉を切った。

 ここから先は、言うのがちょっと恥ずかしいが、それでも、ツキノのきょとんとしている顔を見ながら、口にした。


「ツキノなら、いつでも助けるよ」


 俺がそう言うと、きょとんとしていた顔が、ぼっと音がしそうなほどに赤くなった。

 言った俺も、恥ずかしくて、それを誤魔化すように頬を掻いた。


「と、とにかく、行こうか!」

「は、はい……!」


 妙に甘ったるいというか、恥ずかしい空気になってしまったのを吹き飛ばすように、俺は大声を出した。

 ツキノも、ようやく動き始める。

 先に行ってしまったスズの後を追って、俺は駆け出した。


「……本当に、王子様みたいです」


 駆け出した俺には、ツキノがぽつりと呟いた言葉は、聞こえなかった。




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