「デート?」「違う!」
なんだかんだクエストも終わり、報酬ももらった俺とツキノは、カフェに入っていた。
「まだ怒ってる?」
「いえ、ちょっと拗ねてただけですから。でも、あんまりからかわないでほしいです」
「そうだな、気をつける」
でも拗ねてたツキノも可愛かったからもう一回見たい気もする。
そんなこと言ったらツキノが本気で怒りそうだから言わないけど。
「それはそうと。……ツキノは、本当に甘い物が好きなんだな」
「え?」
LWOでは、一応食事もできる。
もちろん仮想現実なので、食べてもリアルの身体が腹ふくれるわけじゃないけど。
味は体感できるので、LWO内では、食事は煙草などのような嗜好品の扱いだ。
「シレンさんは、甘い物は嫌いですか?」
「人並みには。まったく食べないってわけじゃないけど……ツキノほどじゃないよ」
コーヒーを飲みながら、うぇ、とツキノの前に置かれたケーキの量を見て、軽く吐きそうになる。
山と言うほどじゃないが、結構多い。
「美味しいですよ。LWOだといくら食べても太りませんし」
「まあ、五感なんて、結局は電気信号だからな」
少々、身を乗り出して話す。
「各器官が、感じたものを電気信号として脳に送る。DIVEが、仮想世界でのことを脳に電気信号として送ってるから、俺たちはこの仮想世界でも五感を感じることができる。まあ、結局は感じてるだけで、物理的に何かを食べてるわけじゃないから、太りようがないよな」
「太るのを気にしている人には、ある意味夢の世界ですよね」
「確かに」
その理屈で言うと、いくらでも無限に好きな物が食べられる。
まあ100%飽きるだろうけど。
「あ、苦手じゃないのなら……一口食べますか?美味しいですよ」
「え」
ツキノは、そう言ってフォークでケーキを切り分けて、一口大でこちらに差し出した。
……これは、食ってもいいのか?
「はい、どうぞ」
「……あ、あー……」
躊躇う。
いや、だって…女の子からの“あーん”だよ?
そりゃ躊躇うよ。今俺の顔、若干赤くなってると思う。
でも、ツキノの顔を見ると、こてん、と小首を傾げて、なかなか食べようとしない俺を見ていた。
彼女は何も意識していないらしい。
そんなツキノを見たら、意識しているこっちが馬鹿らしくなってきた。
「……いただきます」
「はい」
折角の御厚意なので、ありがたく受け取ることにする。
口を開けて、フォークまで持って行って食べようとする。
と、突然横から手が伸びてきて、パクンと横取りされた。
横取りした犯人の姿を見て、つい半眼になって睨んでしまった。
「……おい」
「んー、美味しいー!」
横取りした犯人は、そんなことをのたまっていた。
ああもう、俺はともかく、ツキノが突然のことに目を白黒させてるだろうが。
「お前な……」
「うっさいバカシレン! こんな可愛い子との間接キスなんて許さないんだから!」
「か、間接……」
「ツキノ気づいてなかったのか……」
ツキノは、自分が何をしようとしていたのか気付いて、顔を真っ赤にしている。
そんなツキノを見て、俺は責めるような視線を乱入した犯人に向けた。
が、そいつは全く悪びれた様子はなかった。
……この女はスズ。
ギルドに入らず、ソロでプレイしている俺がつるんでいる仲間の一人だ。
「で、何しに来た?」
ツキノはしばらく復活しそうにないのでそっとしておくことにして、俺はスズにそう訊いた。
「別に。クエスト帰りに偶然好みの子を見つけたと思ったら、仲間の一人と“あーん”なんてやってたから邪魔してやろうと思っただけよ。あとワタルからちょっと話聞いてた」
「さよけ」
「ええ。……ところで」
そう言うと、スズは視線を俺からツキノに移した。
「ホント可愛いわ……ねえ、ツキノちゃん」
「……え、あ、はい?」
スズに呼ばれて、ツキノは顔を上げた。
まだ、顔は赤い。
そんなツキノの手を取ったスズは、両手でツキノの手を包み込み、にっこり笑って、言った。
「お姉さんと、熱い夜を過ごさない……?」
「くたばれ馬鹿!」
ガン、と空っぽになっていたカップを馬鹿の頭にぶち当てた。
馬鹿は、カップが当たった部分を押さえて、こっちに責めるような視線を向ける。
そんな視線向ける資格あると思ってんのか、どう考えてもお前が悪いだろ。
「何すんのよ」
「そりゃこっちの台詞だ。何初対面の子口説いてんだ馬鹿」
スズ。実はこの女、百合なのである。
可愛い女の子は皆私の物、とかほざいていたのを聞いたことがある。
「別にシレンの物じゃないでしょうが」
「友達が変な道に引き込まれかけてたら誰だって止めようとするだろ。だいたい……」
スズの勢いに目を白黒させていたツキノに目を向ける。
「アバターだぞ。本人の顔かどうかわからないってのに……」
「別にガワが可愛けりゃいいわよ。それにその顔、自前でしょ?」
お前それ見境なしってことじゃねえか、とツッコミかけて、次のスズの言葉にえ、と一瞬息が止まった。
「そうでしょ?」
「え、ええまあ……このアバターはデフォルト設定です」
「やっぱり」
LWOに限らず、VRMMORPGをプレイする時は、自分の分身となるアバターを作成する。
そして、そのアバターは、自分で好きなように設定できる。
リアルでは身長160センチしかないような男が、この世界では180センチの男になれる。そんな世界だ。
そしてその設定をする時は、まず自分の顔、身体が基本となる。
そこから自分の好きなように作っていくのだが……そういうのが面倒だという奴もいるわけで。
デフォルト設定というのは、基本データ、つまり何も設定を弄っていない、自分の容姿そのもののことだ。
そのデフォルト設定のまま、プレイするプレイヤーも、数はそんなに多くないながらもいる。
俺自身そうだし、ワタルもそうだ。スズもそうだし、というか、俺がつるんでいる仲間全員デフォルト設定だ。
そして、どうやらツキノも、そんなデフォルト設定のまま、このLWOをプレイしている一人らしい。
……しかし、まあ……。
「よくわかったなお前……」
「女のカンよ」
羨ましいな女のカン。
そして、俺は自前の物だというツキノの容姿を、改めてよく観察する。
太陽の光を集めてできたような、綺麗な金の長いストレートヘアと、空を思わせる碧い瞳。
顔立ちも可愛らしく、間違いなく美少女だ。小動物系っていうのか?
守ってやりたい気持ちになる。
「スタイルもいいしねー、この胸ちょっと羨ましいわ」
「ひゃああああああああああああああ!!!!」
ツキノはまた可愛らしい悲鳴を上げた。
スズは何を思ったのか、後ろからツキノの胸を鷲掴みした。
意識してなかったからわからなかったけど、ツキノ結構胸あるな……ってそんな場合じゃないだろが!!
「何やってんだこの馬鹿! セクハラの現行犯で憲兵呼ぶぞ!」
「LWOで禁止されてる犯罪にセクハラ行為はないわよ」
「やかましいわ!」
椅子から立ち上がった俺は、ツキノの胸を揉んでいるスズをひっぺがえして突き離し、ツキノを後ろに庇うようにして、二人の間に立った。
「何よ、いいじゃない」
「何がどういいんだ馬鹿」
俺はそう吐き捨てると、後ろにいるツキノを見る。
顔を赤くして胸を押さえていた。若干涙目である。
まあ、そりゃそうなるわな。
「大丈夫かツキノ。ごめん、こいついつもこんな感じなんだ」
「い、いえ……大丈夫、ですから」
「ならいいけどな」
はあ、と溜息を一つついて、スズに向き直った。
「たく、なんでお前はそんなに女好きなんだよ……」
この女も、見た目だけなら間違いなく美少女なんだが。
活動的な茶髪のショートヘアに、同色の瞳。
活発そうな印象を受ける顔立ちは、男女問わず好まれるだろう。ツキノとはベクトルが違うけど、充分可愛いと思う。
しかし、普段の女の子好きやら何やら、残念な要素がありすぎる。
「いいでしょ、人の性癖にケチつけないでよ。というか、何。あんたたちはデートでもしてんの?」
「デッ……、違う!」
「そ、そうですよ! クエストが終わって、ちょっと休憩してただけです!」
「二人っきりのクエスト。そして終わってカフェで休憩。そして公衆の面前で“あーん”。……デートとしか思えないわね」
「……う」
「……あぅ」
客観的な事実を教えられて、顔が赤くなる。
ツキノも同じように、赤い顔を更に赤くしていた。
そして、冷静な頭の片隅で、「あ、確かにデートかもしれない」とか思っている自分がいて余計に顔が熱くなった。
もっとシレンとツキノをいちゃつかせたいです。




