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《Last World Online》  作者: 黒藤紫音
2章:仲間・ワタル
11/45

逃走中

「なあ」

「なんだよ」

「なんでこんなことになったんだっけ?」

「ごめんなさい、私が付き合わせたせいで……」

「いや、ツキノのせいじゃない。運が悪かっただけだよ」

「っつーか、俺ら結構余裕だよな」

「そうでもないけどな」

「まあ、とにかく……」


 そこでワタルは一旦言葉を切って。


 「走れェェェェ!!!!」


 そう叫んだ。


 現在、絶賛逃走中なう。



 平原フィールドで、ツキノの武器の試しをしていた俺たちは、いつしか街から結構離れていた。

 もっとも、ツキノはともかく、俺とワタルはこの辺りのモンスターのレベルなら、さして問題なく倒せるので、何の心配もしていなかった。


「あ、宝箱」


 ワタルがそう言って、その方向を指差した。

 普通のRPGのように、このLWOでも、たまにアイテムが入っている宝箱が、フィールドに置かれていることがある。

 レアなアイテムが入っている宝箱もあるが、まあこんな何もないところにある宝箱なんて、たいした物は入ってないだろうな。


「取って来ていいか?」

「いいんじゃないか? 見つけたお前のもんだろ」


 俺がそう言うと、ワタルはひょいひょいと宝箱まで走っていった。

 前を歩いていたツキノが、それに気付いて振り向いた。


「ワタルさん?」

「宝箱があったんだと」


 その方向を指差すと、ツキノはそっちを見て、ああ、と頷いた。

 両手をメガホンのようにして、大声を出した。


「あ、気をつけてくださいねー! ミミックかもしれませんしー!」

「平気平気ー!」


 ツキノの言葉を聞いても、ワタルはそう言うだけだった。

 ま、見つける宝箱が全部ミミックじゃないかとか思ってたらゲームやってられないし、仮にミミックだったとしても一人でなんとかできるだろ。


「いるよなー、よく。何度相手をしたことか……うざいし」

「まあ、私も相手したくはないですね」


 ミミックの厄介さを思い出して苦笑していると、ツキノも苦笑いを浮かべていた。

 どうやら、彼女も戦ったことはあるらしい。


「あ、でもギルドの定例会で、なんか更に厄介なミミックが出るようになったとか」

「そうなのか?どんなミミックなんだ?」

「えっと……」


 んー、と指を唇に当てて考えているツキノ。

 少しの間の後、ぱん、と手を打った。


「そうです、確か」

「うおりゃああ!!!」


 ツキノが何か言いかけていると、ワタルの怒声が響いた。

 思わず目をそちらに向けると、ワタルが剣を抜いて、攻撃を叩き込んでいたのが見えた。

 ……どうやら、あの宝箱はミミックだったらしい。

 キアアアアア、という奇声が響いていた。

 ……この《Last World Online》を始めてから、どんどん鍛えられた第六感が警報を発していた。


「……なあ、ツキノ」

「……はい」

「……件のミミックって、どんなミミック?」

「……あのですね」

「あん、どうしたよ?」


 俺とツキノが嫌な予感をひしひしと感じていると、ワタルの能天気な声が聞こえてきた。


「……確か、モンスターを呼ぶんです」

「……へえ、どんなモンスターを?」

「……ケースバイケースですが、出会った人が言うには、確か…」

「……確か?」

「……ランダムエンカウントボスモンスターです」


 ツキノがそう呟くのと同時に、ガアアアアア!!!という轟音が響き、ドドドドドド、という地鳴りがした。

 俺とツキノ、ワタルが目を向けると、それはそれは大きな牛のようなモンスターが、こちらに向かって来ていた。

 ……たしか、「カトブレパス」だっけ?


「……なあ、シレン」

「……なんだよ?」

「…………逃げろォォォ!!!」


 言うが早いが、俺とツキノとワタルは、全力で反転して駆け出した。


「なんであんな化け物が来るんだよ! ごく稀にしか出ないんじゃないのか!?」

「俺が知るか! 運営側に言え!!」


 ランダムエンカウントボスモンスター。

 ごく稀にフィールドに出現するモンスターの一種だ。

 普通のランダムエンカウントモンスターは、“レアモンスター”とも呼ばれ、本当にごく稀にしか出現しないが、もしエンカウントし、倒すことができれば、超レアアイテムをドロップする。

なので、もし出会ったら誰もが倒そうと躍起になる。フィールドに出ると、血眼になって探しているプレイヤーもいる。

 が、ランダムエンカウントボスモンスターは、少々勝手が違う。

 確かに、奴らも倒すと超レアアイテムをドロップするのだが、他のランダムエンカウントモンスターと違い、恐ろしく強い。

 フィールドのアベレージレベルに関係なく出現するので、もしこのフィールドは雑魚ばかりだー、と油断している時に出会ってしまったら、確実にアウト。ゲームオーバーだ。

 奴らはそのレベルの高さに加え、固有のスキルを持っている。このスキルがまた反則じみていて、これが奴らの厄介さに拍車をかけている。

 そんなわけで、「ランダムエンカウントボスモンスターに遭遇したら、戦うよりまず逃げろ」が、このLWO内での通説の一つである。

 まあ、ある男はそんな通説を破り、あろうことかソロで撃退したことがあるのだが…そんな真似は俺たちには出来ないので、とにかく逃げる。

 俺たちが言い合いながら、レベルに比例して高いAGIを最大限に使って疾走している中、ふとツキノのことが気になった。

 隣を見ても、いない。

 後ろを見た。……そこそこ後ろを走っているのが見えた。このままでは「カトブレパス」に追いつかれそうである。


「そうかツキノ120台だから俺らより遅いんだ!」

「えええええどうすんだ!?」

「ほうっておけるわけないだろ!」


 急ブレーキをかけ、走っていた方向と逆走する。

 ツキノのところまで走り、彼女の手を掴む。


「俺が引っ張る!」

「は、はい!」


 また反転して走りだすが、元々のAGIの差のせいで、ツキノがつんのめっている。


「わ、わわわ」

「……ああ、もう!!」


 こうなったら仕方ない。

 掴んでいるツキノの腕を引っ張り、彼女の身体を引き寄せた。

 そのまま、彼女の身体を横抱きにする。

 いわゆるお姫様抱っこだ。

 あ、結構軽い。


「あああああの、シレンさん!?」

「ちょっと我慢してくれ!」


 ツキノは嫌かもしれないが、あのまま走っててツキノが転んだら、俺も危なかったし。

 ちら、と後ろを見ると、「カトブレパス」がこちらに猛進して来ていた。

 とにかく逃げる。


「おいシレン、何羨ましいことしてんの!?」

「この状況で何言ってるんだお前!」


 言いながらも、俺たちは走り続けていた。

 走るのに夢中で、ツキノの顔が赤くなっていることには、気付けなかった。



「っつーか、お前のせいだろどう考えても!!!」

「悪かったってぇぇぇ!!!」


 ツキノをお姫様抱っこしながら、とにかく走る。

 走って走って走る。


「あの、シレンさん」

「何!?」


 走りながらなので、若干口調が荒くなった。


「あの、もう大丈夫だと思います。かなり離れてますし」

「え?」


 言われて後ろを見る。

 確かにもうかなり離れていた。というか、影は見えるが、奴はもうこっちを追いかけていない。

 スピードを緩める。


「ワタル、もう大丈夫っぽい」

「え? ……あ、ホントだ」


 ワタルも後ろを見て、奴の様子に気付いたらしい。

 ……どれだけ全力で走ってたんだ、俺たち。


「っはー……」


 ツキノを降ろして、俺は大きく息を吐いてその場に座り込んだ。

 息が荒れていて、整えるために大きく息を吸って、吐くのを繰り返す。


「あの、シレンさん。大丈夫ですか……?」

「あー、大丈夫だよ」

「でも、私重かったでしょうし……」

「いや、全然。すごい軽かった」


 正真正銘の本音だ。

 おそらく俺と同年代だろうに、なんであんなに軽いんだ…。

 逆に心配になる。


「……そうですか?」

「うん。本当に軽かった」

「……ありがとうございます」


 軽い、と言われて嬉しかったのか、ふ、と微笑を漏らした。


「というか、俺にお姫様抱っこされて、嫌じゃなかった?」

「いえ、全然! ……お姫様抱っこなんて、女の子なら誰でも憧れますよ。正直、嬉しかったです。場違いですけど」

「そうなのか?」


 うーん、女の子ってそういう物なんだろか……。

 ……あいつは絶対に違うだろうな。


「嬉しかったんなら、またしようか?」

「え?」

「だから、お姫様抱っこ」


 座りこんでいるので、ツキノを見上げながらそう言った。

 ツキノは、俺の言葉に顔を赤くしていた。


「え、いえ。でも」

「もちろん、君が嫌ならしないよ」


 笑ってそう言うと、ツキノはあぅ……、という声を漏らして、顔を赤くしたまま、小さく言った。


「……では、機会があれば、よろしくお願いします」

「うん。いつでもいいよ」


 そう言って会話が終わる。

 俺は視線を何気なくワタルに向けると、ワタルは苦虫でも食いつぶしたような顔をしていた。


「……なー、俺マジお邪魔?」

「だから、何の話だよ」


 ワタルが何を言いたいのか、まったくもってわからなかった。




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