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曇らせ乙女ゲームの攻略キャラに転生した俺、ヒロインのハーレムに婚約者まで入れられそうなので全力拒否します

作者: 松平 ちこ
掲載日:2026/04/17

 乙女ゲームの攻略キャラに転生した。ライバルを蹴散らして、ヒロインとの恋愛を楽しむ道は――。


「だから! 私は、君に興味無いから!」


「フィロス君、そんなこと言わないで、皆でランチ行こうよ?」


 ハーフアップの髪をふわりとなびかせて、甘い香りを漂わせる女子学生。

 柔らかい胸をフィロスの腕に押し当てて来て、上目遣いでランチに誘ってくる。普通の男子ならば、これで堕ちてもおかしくないだろう。


 ――そのランチには、好感度アップの惚れ薬でも盛られてるんだろ!?


 誘われてから、一度も行ったことは無い。彼女の周りには他にも攻略キャラがいて、ハーレムエンドを目指しているのかと思わせるほどだった。

 王子のお気に入りとして目をかけられてる彼女は、すでに多生の無礼は見逃される立場になっていた。


 ――皆で、ってなお怖いわ!


 前世、妹がドハマりした乙女ゲーム【ラブ・フォトタクシス】通称《《くも恋》》。攻略キャラ一人に固定してルートを進んでいくと、キャラの愛が重く病んでいくことが多い。

 王道乙女ゲームならヒロインが光になるのに対して、このゲームはヒロインが闇へと引きずりこんで来るようなものだ。ゆえに曇らせというワードが付けられた。


 ――俺は、そんなルートに仲間入りしたくない!


 妹が攻略のために、好感度アップのアイテムやプレゼントを駆使していたが、リアルでされると恐怖でしかない。

 得体の知れない物を、ほいほいと受け取るなど言語道断だ。


「ファライナ嬢、私は以前からお断りしています! 私は今日も、いつものように婚約者とランチをすると約束していますから!」


「フィロス君、私の名前覚えててくれたんだね!」


 ――だあぁぁああ! 話を聞けぇぇえ!


 表情をうっとりとさせ、さらにねっとりと絡みついてくるファライナを引き剥がし、フィロスは距離を取る。なぜ彼女と同じクラスになってるのか。


 ――違うクラスなら、逃げることも簡単なのに!


「ファライナ嬢、きっと王子殿下や他の令息たちが席を取ってお待ちですよ! 私のことは気にせず、彼らとお楽しみください。では失礼します!」


 教室の入口で、もはやお決まりとなりつつある断りのテンプレートを叫ぶと、フィロスは走って逃げた。


 ――今行くから、俺の天使!


 フィロスが向かったのは、ひっそりとした専門科目用の一室。ガラリと扉を開けると、気づいた少女が立ち上がって出迎えてくれる。

 さらりとブロンドの長髪が揺れた。まっすぐに流れる金色とピンと伸ばした背筋が、品の良さと凛々しさを醸し出していた。


「フィロス様、お待ちしていました」


「……アレティア、お待たせ」


 翡翠の瞳が嬉しそうに細められて、花が咲くようにはにかんだ表情に、ドキリとフィロスの胸が高鳴る。いつ見ても想い人は綺麗だ。


「ごめん、いつも待たせて」


「気にしないでください、フィロス様。私のことはお構いなく、一度お誘いを受けても良いのですよ?」


 遅くなる理由を謝れば、アレティアはそう笑いかけてくれる。


「嫌だ。アレティアと一緒に食べたい。その為に、この部屋の使用許可を取ったんだ」


 中庭やカフェテリアなど昼食の定番とも言えるスポットは、ファライナとの遭遇が危惧された。

 初めて彼女に接触された時、突然乙女ゲームを含めた前世を思い出した。未来の曇らせ展開から逃れるため、フィロスはすぐに対策を講じた。


 ――だいたい、俺はアレティア一筋なのに。


 攻略キャラであるフィロスは、伯爵家の嫡子。剣の成績が非常に優秀だが、座学がいまいちだった。

 一方アレティアは上級生で、とても勤勉だ。周囲から邪魔されず、彼女に勉強を教えてもらうためだと担任に頼み込んだ。

 この部屋は、専門を持つ担任にあてがわれた部屋の一つだった。


「私としては大変嬉しいのですが、フィロス様の立場が心配です……」


「いやいや、婚約者がいる身でどちらが正解かなんて、明白だよ。俺は、アレティアが好きなんだから」


「……はい。あ、フィロス様。こちら本日の昼食です」


 さらりと想いを告げれば、アレティアはポッと顔を赤らめた。そんなところも可愛い。おずおずと差し出されたのは、バスケットだ。中身は彩り豊かなサンドイッチ。


「わぁ、今日もすごく美味しそう。いつもありがとうな」


「いえ、そう言ってくれるのはフィロス様だけですから。令嬢としては、はしたないですもの」


 モジモジと困ったように手を交差させて、眉を下げたアレティアが微笑む。

 仕草一つ一つが可愛くて仕方なくて、フィロスは笑顔を返した。


「アレティアは学んだことを実践しているだけなんだから、貶めるやつがいたらいたら言って。俺に出来ることをするから」


 アレティアは薬草学を学んでから興味が講じて、屋敷でも薬草を育て手ずから軽食を作るようになった。フィロスがそれの実験台を買ってでた。


 ――好きな子の手料理の機会、逃す手はないよなぁ!


 こんな可愛い婚約者の笑顔を奪う者がいるなら、フィロスは喜んで権力と実力を使おう。

 身分が高い相手だろうと、戦い方を変えればフィロスでも対応は出来る。


 ――攻略キャラだからって、皆が皆、ヒロインを好きになるとか思うなよ。




 ◇◆◇◆◇◆◇




「フィロス君~」


「……フィロスさま」


 ガラリと開けた扉に手を掛けて、目に飛び込んできた部屋の光景に、フィロスは度肝を抜かれる。

 珍しく妨害に遭わなかったことを幸運だと思いながら、ランチに浮かれていた先ほどまでの自分を殴りたかった。


「……ファライナ嬢、何のつもりですか」


「フィロス君が悪いんだよ。婚約者にばっかり構うからぁ」


 ――それのどこが悪い。


 家同士仲が良く、幼少期に決められた婚約ではあったが、過ごすうちにフィロスはアレティアが好きになった。

 こんな可愛い婚約者を放って、ヒロインに向かうゲームのフィロスの方が屑だろう。


「だからね。婚約者と私が仲良くなれば、フィロス君も私に、優しくしてくれるでしょう?」


 ニタリと笑ってファライナは、寄り添うように身体を密着させてアレティアに触れる。

 少し潤んだ目をした彼女は抵抗せず、ファライナを見つめている。いつもピシッと着ている制服を少し着崩して、鎖骨が覗いていた。

 自分から進んでフィロスの前ではだけるならばドキリとしたであろう姿に、今はただ苛立ちしか湧かない。


 ――俺じゃなく、アレティアを堕としたのか。


 上級生で接点がない。学校内で会うのは、徹底して昼休みのこの部屋だけにしていた。

 イチ男爵家に過ぎないファライナの力でここには辿り着けない。攻略キャラの誰かの手を借りたのだろう。フィロスの油断した結果だった。


「フィロスさま、ファライナさんはいい人ですよ。いつもお断りするのは、やっぱり失礼です。これからは、皆で一緒に楽しむのもいいと思います」


 妖艶に微笑むアレティアに、フィロスはギリと歯噛みする。

 憎悪の眼差しでファライナを見つめれば、彼女はそれさえ嗜虐の笑みで返してきた。


「……アレティア、行こう」


「――っ!」


 フィロスは上着を脱いで、アレティアに掛けると手を引いた。ビクりと静電気でも走ったように身をよじらせて、彼女は息を詰める。


「……ふぁ、っ」


 聞いたこともない声が、アレティアの口から漏れる。薄暗くてフィロスは気づいてなかったのだ。

 近くで見れば、火照った頬、うすっすらと汗ばんだ肌には髪が張りついていた。その反応から、何かを盛られたのは確実だった。


「家から正式に抗議させていただく」


「アレティアは嫌がって無いのに? 女同士仲良くしてただけだよ?」


 フィロスが殺気を込めて告げても、ファライナは堪えた様子がない。

 彼女の取り巻きによって、おそらく揉み消されるのだろう。


「フィロスさま……?」


 熱に浮かされたようなアレティアの声に、フィロスはなるべく優しく声をかける。


「大丈夫だよ、アレティア。君の意思に沿わないことはしない。治すから、少しだけ我慢して?」


 そう言ってフィロスはアレティアを抱き上げる。彼女は衆目に晒せる状態ではなかった。むしろ、誰の目にも触れさせたくない。

 好感度アップのアイテムの対になる、減少やリセットのアイテムがゲームにはある。ルート変更や予期せぬ上昇に使われる救済処置だ。


 ――アイテムの手がかりくらいは、学校にもあるはずだ。


 フィロスは部屋を出る前に、一度だけ振り返りハッキリと宣言する。


「――ファライナ嬢、貴女は俺の敵だ」


「えー。酷いなぁ、私はフィロス君も大好きだよ?」


 一貫したファライナの態度に、背筋に冷たいものを感じながら、フィロスはそれに答えず保健室へと向かった。

 あの教室は、もう使えない。アレティアとの婚姻は、卒業後に行うことになっていた。

 新しい隠れ場所を、探さなければとフィロスは考える。


「アレティア、どうし――」


 不意にアレティアがフィロスの服を引っ張ったため、前を見ていた視線を下げれば彼女に口づけされた。

 驚きに目を見開いてフィロスは、アレティアを見る。彼女は悲しげに顔を歪ませて、涙が一筋流れていた。


「……フィロスさま。お慕い、しております。あの人を好きにならないで、下さい」


 唇を離して、アレティアが切実な声で訴えてくる。フィロスは頭が真っ白になりかけたところをなんとか持ちこたえて、その涙の意味に気づく。


 ――さっき。


 ファライナの言葉にフィロスが無視をしたことを、アレティアは斜め上に勘違いしたのかもしれない。

 フィロスは彼女の目尻に口づけをして、涙を拭った。


「ありがとう。俺が好きなのもアレティアだけだから」


「本当、ですか……?」


 ファライナのことなど、フィロスにとっては嫌悪でしかないのに、アレティアは奪われまいと必死だった。そんな彼女がとても愛おしい。

 偽り混じりの、この可愛いアレティアの誘惑にそのまま身を任せたいほどだ。


 ――俺の理性が、一番予測不能だな。


 妹からの聞きかじりのゲーム知識、フィロスはそれを駆使して対抗することを決意する。アレティアを傷つける者は、例え自身であっても許されない。


「ああ、アレティア。君を曇らせたりしないよ。君の輝きは、蝶のように美しいのだから」


「ふふ、フィロス様ったら」


 ファライナは例えるなら攻略キャラたちの誘蛾灯。そんな彼女の魔の手から、アレティアの身も心も、そしてフィロス自身も守りきってみせる。

 フィロスがいつまで抗い続けられるのか、負けられない戦いが幕を開ける。


もし、この作品を少しでも楽しんでいただけたなら、 ぽちっと応援していただけると、今後の活力になります!

リアクション、感想などもあれば、お気軽にどうぞ!

読んでくださり、ありがとうございました!(*^^*)

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