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パンツを笑うものパンツに泣け!――俺はパンツで無双する――  作者: 藤七郎(疲労困憊)


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第23話 王女のお願い


 男装の令嬢イザベルに案内されて砦を歩いた。

 そして案内された先は、砦の四階にある執務室だった。


 机や棚のソファーセットのあるそこそこ広い部屋。

 太い木の柱に灰色の石壁があり、壁には絵や剣が飾られている。床には赤い絨毯が敷かれており、大きな窓には白いレースのカーテンが風で揺れていた。



 イザベルは窓際の執務机ではなく、部屋の隅にあるソファーセットに俺たちを招く。


「気楽に座ってくれたまえ。何か飲むかね?」


 俺とフローリアは並んで座る。ソファーは柔らかくて腰が沈んだ。


「いえ、おかまいなく」


「俺もなんでもいい」


「ならば茶にしておくか。――茶を三つ頼む」


「はーい」


 部屋の壁から幼い女の子の声がした。

 木の柱の中に不思議なパンツの気配を感じる。

 妖精がいるようだ。



 イザベルはテーブルを挟んで向かい側にあるソファーにどさっと腰掛けた。長い足を組む。


「で、話とは?」


「お願いがあります。王都奪還のために兵を挙げていただけないでしょうか?」


「残念だがそれはできん」


「なぜです!? 橋が落ちたからでしょうか?」


「あの程度の橋、エルフの使う精霊魔法ならば、大地や樹木の精霊を使っていつでも復旧できる」


「でしたら、なぜ!」


 フローリアは勢いのあまり、白いワンピースを揺らして前のめりになっていた。

 イザベルは落ち着いて細い顎を撫でつつ渋い声で答える。


「我輩はこの砦を動けぬ。ここにいる者たちは戦闘員ばかりではないからな」


 イザベルがチラッと壁を見る。

 太い木の柱からすり抜けるようにして子供ぐらいの背丈の妖精が出てきた。フリルのついたメイド服を着ていて、背中には透明な羽根がある。

 掲げたトレイには湯気の立つカップが三つ乗っていた。


 妖精はちょこちょこと歩いてきて俺たちの前にカップを置くと、お辞儀をしてすぐに木の柱へと戻っていった。



 俺はカップに手を伸ばしつつ尋ねる。


「魔物の被害から逃げだした妖精や亜人間たちをかくまっているのか」


「そうだ。この砦は防波堤であり、避難小屋であり、新しい生活を送る場所でもある」


「さっき上から見たが、町や畑もあったもんな」


 イザベルが白い歯を光らせて不敵に笑う。


「ふっ、それだけではないぞ? 誰でも利用できる病院や、人や妖精や魔物たちの子供が通う学校もある」


「魔物までいるのか!?」


「瘴気から生まれた闇の亡霊は論外だがな。まあ、法を守り、正しく暮らすのであれば、来る者は拒まん。ふははははっ」


 イザベルは大きく口を開けて豪快に笑った。綺麗に並んだ白い歯が光る。偉そうな態度に似合う、器の大きな人物だと俺は思った。



 隣に座るフローリアが悲し気に微笑む。


「さすがですわ、辺境伯……」


 俺はフローリアを元気づけるため力強い声で言った。


「気にするな。俺のパンツがあれば援軍がなくても問題ない。ハインリッヒを倒せばいいんだろう?」


「ですが、トランは強いとはいえ、魔力は無尽蔵ではありません」


「確かに……ハインリッヒと戦う前に魔力を使い切っても問題だな」


 俺は先ほどのウィズダとの戦闘を思い返した。何度も復活する死者の群れにかなり魔力を消耗させられた。

 イザベルが顔を曇らせて言う。


「少しの兵ならば出せる。しかし、大群に少数を差し向けても無意味だ。無駄死にになるだろう」


 ――確かにその通りだ。

 戦力の圧倒的な差がある限り、少しの兵など役に立たない。


 ――いや、待てよ?

 俺は、ふと思いついてイザベルに話しかけた。



「何人かは兵を借りられるんだな?」


「それならできるが、たいし出だせんぞ?」


「いや、戦う訳じゃない。ただ各地や隣国に兵を潜ませて、内乱を扇動してもらえたらどうかと思ってな。王女と最強の魔導師が三魔将を倒した、今こそ立ち上がるとき、と」


「ほう? そうなると、どうなる?」


「魔王は鎮圧のために軍勢を分けざるを得なくなる。俺の戦う戦力が減るだろう」


「なるほど! それならば協力できそうだな! さすが史上最高の大賢者だと言っておこう」


「大賢者はやめてくれ。勤めを果たせなかった男だ」


「ふむ。まあよい。いずれ人々が好きなように呼ぶだろう――それよりも地図をここへ」


「はーい」


 イザベルがパチンと指を鳴らすと、また木の柱から返事がして妖精が現れた。

 女の子のようだが先ほどより小さく手のひらサイズだ。


 透明な羽をパタパタ動かしてて本棚へと飛ぶ。

 そして筒状に丸めた大きな紙を持ってきた。


「どぞですー」


 テーブルに置くと羽をはばたかせて柱へと戻っていった。



 イザベルは豪快に紙を引き延ばす。

 大陸の西側を記した地図だった。


「王都に近すぎてもすぐに鎮圧されるな。こことここがいいか」


「少し離れていますが、街道の要衝の街で蜂起すると良いかもしれません」


 フローリアが細い指先で地図の一部を指し示した。

 イザベルが顎をなでながらうなずく。


「よし、それでいこう。トランよ、ほかに意見はあるか?」


「すまないが山から下りてきたばかりで、状況には詳しくない。二人に任せる」


「よかろう、任された。あとは配下の者にも意見を出させて、扇動する街を決定しよう」


「頼んだ」


「では、そろそろ宴の用意もできただろう。楽しんだらいい」


「わかりました。ありがとうございます」


 お礼を言いながらフローリアが立ち上がった。しかしひざが抜けるようにふらつく。

 俺はとっさに手を伸ばして彼女の華奢な腰を支える。


「大丈夫か?」


「ちょっとめまいがしただけですわ」



 イザベルが形の良い眉をひそめてフローリアをみる。


「どうした? 体調が悪いのか?」


「慣れない野宿をさせたからな。疲れがたまってるだろう。途中で熱も出したし」


「大丈夫です。皆の前で挨拶をしなければいけませんし、これ以上迷惑をおかけできませんわ」


「挨拶は夜でもかまわんではないか。今は休むといい」


「ですが……」


 否定する口とは裏腹に、俺の腕に寄りかかるフローリア。立っていられない様子。

 俺は少し心配になりつつ疲れの見える美しい顔を見下ろして言う。


「イザベルの言うとおりだ。無理したら意味がない」


「わかりました。では、少し休ませてもらいます」


「それがいい。客室を教えてくれ」



 イザベルが壁に向かって命令する。


「おい、案内してやれ」


「はーい」


 かわいらしい声とともにメイド服を着た子供の背丈の妖精が出てきた。

 短い手足を振って扉へと向かう。


「こっちですー」


 部屋を出ていこうとする俺にイザベルが声をかけてくる。


「王女を休ませたら、中庭に来てくれ」


「わかった。またあとで」


 王女の力ない体に腕を回して退出した。


次話は明日更新。

→『第24話 相手を思う心のすれ違い』

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