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パンツを笑うものパンツに泣け!――俺はパンツで無双する――  作者: 藤七郎(疲労困憊)


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第22話 辺境伯イザベルとファナ


 俺は三魔将ウィズダを倒した後、辺境伯領の砦から飛び立った白馬を見ていた。


 隣ではフローリアが少しはしゃぐ声で話す。


「ペガサスですわ。なんて美しいんでしょう」



 ペガサスたちは俺たちの傍へ優雅に着地した。

 先頭のペガサスに乗る金髪に緑色の目をした美しい女性騎士が一礼しつつ言った。


「やはりフローリアさまでしたか」


「まあ、ファナさん。お久しぶりですわ」


「ご無事で何よりです」


「辺境伯はご健在でしょうか?」


 ファナは整った顔立ちに苦笑を浮かべる。


「ええ、元気が良すぎるぐらいです。――で、こちらの方は?」


「こちらはわたくしの恩人であり、偉大な魔法使いトラン。トラン、こちらはわたくしの従妹に当たるファナさんです」


「初めまして、ファナ。俺はトランだ」


「こちらこそ初めまして、私はファナーニャ・デ・キャストリアと言いますわ」



 続いてフローリアがミーニャを紹介する。


「こちらは知ってる通りメイドのミーニャですわ」


「にゃ」


 ミーニャが返事とも言えない声で鳴いた。

 ファナは俺を見て頭を下げる。金髪がさらりと流れて長い耳がのぞいた。

 でもどこかしらフローリアに似ていた。


「トラン様。圧倒的な力で魔王軍を蹴散らされる様子を見ておりました。辺境伯軍一同、感服いたしました。辺境伯が会いたがっております。どうぞペガサスに乗ってお越しください」


「わかった」


 俺は鐙を踏んでペガサスにまたがる。

 翼があるので首の根本に座った。


 フローリアとミーニャも別のペガサスに乗る。

 先頭のファナが肩越しに振り返って言った。


「では、落ちないようにお気をつけください」


 その言葉と同時にペガサスたちが白い翼を広げ、大空へ飛び立った。

 風が頬を撫でては俺の短い黒髪を激しく乱す。

 フローリアは片手で桃色の長い髪を押さえていた。



 眼下の深い谷を越え、四頭のペガサスは砦の城壁を越えていく。


「おっ」


 砦の内側を見たとたん、俺は思わず声を漏らしていた。

 砦は想像よりも広く、三重の城壁が取り囲んでいる。

 砦の本丸に近いところには兵舎や倉庫などがあったが、二つ目の壁の向こうには普通の街が広がり、三つ目の壁の向こうには畑があった。

 なんだか町と周辺の田畑を丸ごと取り込んで守っているような砦だった。


 ペガサスは兵士たちの集まる本丸へと向かう。

 壁際の広場などで兵士たちが何か叫んでいるが、声が混ざりすぎて言葉になってない。



 そして盛大な歓声や拍手の中、俺たちは本丸にある中庭へと降り立った。

 すぐに兵士たちをかき分けて、怖いぐらいの美男子が現れた。

 緑の短髪に長い耳。手足の長いすらりとした体型に飾りと勲章の付いた軍服を着ている。


 だが、近づいてくると胸が揺れていることに気づいた。


「ん? 女性か?」


 男装の美女は傍まで来ると偉そうに胸を反らした。さらにハスキーな声で高笑いする。


「ふははははっ! 初めましてだな、トラン! そなたの魔法、見事だったぞ! 我輩はこの砦を預かる辺境伯イザベル・デ・キャストリアだ。絶世の男装令嬢と自任している」


「自称かよ」


「ふん、事実を言って何が悪い? だいたい我輩に対する口の利き方がなっておらんな」


「悪いが俺は山で一人暮らしてたんだ。もう礼儀作法は忘れたよ」


「いいだろう、実力に免じて許そう――で、フローリア王女。無事で何よりだ」


「お久しぶりですわ、キャストリア辺境伯。お元気そうで何よりです」


 ペガサスから降りたフローリアが白いドレスの裾を摘まんでお辞儀した。



 俺は首を傾げつつ尋ねる。


「イザベル。俺のことを知っているのか?」


「当然だろう? ちょっと前に王女のご学友としてパンツ魔法の大賢者候補がいたが、出奔したと噂に聞いている」


「ちょっと前って……十年前だぞ?」


 イザベルが、ふっと鼻で笑う。そんな傲慢な態度も美形には似合っていた。


「千年生きるエルフにとっては十年前など昨日のことにすぎん!」


「エルフ!? そういや耳が長い……あ、ファナもか」


 俺はファナを見て、さらに周囲の兵士たちをみた。

 全員人間かと思っていたが、半数ぐらいは耳が長い美形の男女だった。


 よく見れば、もっと違う種族もいた。

 体が半透明の美女。子供の背丈ぐらいの髭男。

 魔法の教科書で覚えた記憶が正しければ、ドライアードやブラウニーのはずだった。

 もっと小さい人型のピクシーや、逆に大きな岩肌の巨人ロックジャイアントもいた。



 俺は感心しつつ隣にいるフローリアに言う。


「いろいろいるんだな。エルフが人間の国に仕えているのか」


「というか、仕えていただいていると言ったほうが正しいですわ。王国の西は、危険な魔物が多数住む闇の半島につながっていますから、キャストリア辺境伯に守っていただいているのです。そのため王に匹敵する権威を持っています」


 フローリアの言葉に、イザベルが胸を強く叩いた。軍服の下の胸が揺れる。


「その通り! 闇皇帝竜ダークエンペラードラゴンが半島で死んだが、その亡骸から漏れ出た瘴気で異形の化け物があふれた。王国から援助をもらう代わりに、エルフ族が率先して防いでやってるのだよ。ありがたく思うがよいぞ、ふははははっ!」


「なるほどな。国境なのになぜ街が谷の王国側じゃなく、向こう側なのかと思ったが。魔物を防ぐ防波堤のためなんだな」


 イザベルが大きな瞳を着ラット輝かせる。


「ふふん、見ただけで気づいたか。なかなかの人物だな。ちなみにあの谷もエルフたちが造ったのだよ」


「そんなこともできるのか。すごいな」


「我が輩に抜かりはないっ、ふははははっ!」


 イザベルは腰に手を当てて反り返って笑った。

 フローリアが桃色の髪を揺らして一歩前に出た。すみれ色の瞳に真剣な光が宿っている。


「キャストリア辺境伯、テルティア第一王女のフローリアとしてお願いがございます」


「ん? なんだね。言ってみるがいい」


 フローリアがしなやかな手つきで俺を指し示す。


「こちらのトランが、魔王軍三魔将をすべて倒しました」


「なんだと! まことか!?」


「はい。バルバドスもゲーラも」


「それはすごい……魔王軍は勢力半減どころではないな! ――、よし、今宵は宴を開こうぞ!」


 居並ぶ兵士たちが「わぁぁ」と喜びの声を上げる。


「肉だ! 肉を!」「酒も出そう!」「お祭りです?」


 にわかに当たりが騒がしくなった。

 人やエルフや妖精が、小走りに宴の支度を始める。



 フローリアが髪を乱して焦り出した。


「お、お待ちください、辺境伯! 三魔将が消えた今こそ反撃の――」


 しかし遮るように前に出したイザベルの手によって、フローリアは言葉の途中で口をつぐんだ。

 イザベルは白い歯を見せて不敵に笑う。


「わかっておる。しかし、花が咲かねば実は成らぬ、とエルフのことわざにもあろう? まずは戦いの勝利を祝いつつ、部下たちの疲れを癒す。話は別室で聞こう」


「ありがとうございます」


 フローリアは桃色の髪を揺らして頭を下げた。

 俺はうなずきつつ言う。


「フローリアも今日のところは安全なこの砦でゆっくり休んだ方がいい。大変な逃避行だったんだから」


「そうですね、トラン。お気遣いありがとうございます」


「では、ついてくるがいい。ファナは王女たちの泊まる部屋を用意しておけ」


「はい、お母様」


「ん。ベッドメイク手伝う」


 ミーニャが長いしっぽをしなやかに立てつつ言った。目に真剣な光が宿っている。

 ファナは慌てて首を振る。


「手柄を立てた客人に手伝わせるわけには……」


「あたしは王女直属メイド。王女様の身辺整理はあたしがする」


 ミーニャは無表情ながら、鼻息荒く答えた。



 ふっ、とイザベルが鼻で笑う。


「仕える主人のために、味方の陣地であっても手を抜かず警戒する。見上げた心がけだ。良いメイドを持ったな」


「はい。ミーニャは自慢のメイドですわ」


 王女の言葉に、ミーニャの猫耳が嬉しそうにぴこぴこと動いた。 

 ファナは苦笑しつつ肩をすくめた。


「わかりました、ミーニャさん。こちらへ」


「ん」


 ファナガ先に立って歩き出す。ミーニャがメイド服を揺らしてついて行った。

 俺とフローリアはイザベルに従って砦の奥にある階段へと向かった。


次話は明日更新。

→『第23話 王女のお願い』

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