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パンツを笑うものパンツに泣け!――俺はパンツで無双する――  作者: 藤七郎(疲労困憊)


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第2話 パンツ下山


 朝日が照らす山奥に、大きな爆発音が響いた。

 木々から小鳥の群れが飛び立ち、地面は揺れて春の野花が散る。

 音がした山の中腹には土煙が風に舞っていた。



 新しくできた巨大なクレーターの中心で、十七歳の俺は目を見開いて呆然としていた。

 山暮らしのため、ごつごつした武骨な手になった、手のひらをじっと見る。


「そんな、まさか……そういうことだったのか……パンツは、パンツとは世界を超える存在だったのか――ッ!」


 俺は十年、山に籠ってパンツ魔法の修行に明け暮れた。

 そしてたった今、爆心地の中でパンツの真理に到達したのだった。

 結局のところ、パンツを極めてもパンツはパンツだった。しかし極めた先にある真のパンツを俺は見た。


 俺は空を見上げた。青空に白い雲が流れていく。

 山間を吹き抜ける心地よい春風が、俺の黒髪とぼろきれのようなシャツとズボンをもてあそんだ。


「パンツは、恥ずかしがっていいもんじゃないかった……パンツこそ偉大だった……俺が、いや、全人類が間違えていた! ――パンツほど崇高なものはなかったんだ!」


 パンツを恥ずかしがっていた過去の自分こそが恥ずかしいと思った。 

 ――これからは胸を張って堂々と生きていこう。……それに。



 俺はクレーターから一歩踏み出した。

 もう、修行することはなくなった。山を下りよう。

 もちろん行く当てはなかったけれども。……フローリアとの約束も今さらだろう。貧しい村出身の俺なんて、とっくに忘れているかもしれない。


 両親に会いに行くか? いや、合わせる顔がない。

 王宮に召されるときは村を上げて送り出してくれた。故郷から賢者が出たと祝ってくれた。

 それなのに、今さらパンツを極めてきましたと言ったところで、何にもならない。いや、パンツはすごいんだが、現状ではパンツのすばらしさは伝わらないだろう。

 両親が元気に生きていてくれたらいい。それだけが望みだった。



 憂鬱な気持ちになりかけたが、頭を振って気を取り直す。

 ――生きていくためには冒険者ギルドに行って、冒険者になるしかないのだろうな。

 今の俺なら十分、冒険者としてやっていけるだろう。


 俺はズボンを下にずらして自分のパンツを見た。

 とたんにステータスが浮かび上がる。

 こんな感じだ。


----------------------------------------

名前:トラン   属性:パンツ


職業:賢者Lv90


戦闘スキル:【パンツ属性魔法:極級】【投擲:初級】

補助スキル:【パンツ鑑定】【狩猟:中級】【料理:初級】


筋力:C 敏捷:A 知恵:SS

HP:1200  MP:4500

----------------------------------------


 パンツを極めた結果、パンツを見るだけでステータスが見れるようになった。

 他人のステータスもパンツを見ればわかる。

 ちなみに教科書には魔法は初級中級上級とあると書いてあったが、その上に超級と極級があった。

 内容ではなく、コラムに伝説の魔法について書いてあったが、それが参考になった。


 そして俺は山を下りるため、少ない荷物を取りに粗末な小屋へと向かった。


       ◇  ◇  ◇


 日が西にだいぶ傾いたころ。

 山奥から出た俺はパンツ魔法で速度アップしつつ最寄りの町リグノスへとたどり着いた。

 王国の辺境に位置するこの町は高い外壁に囲まれており、近隣では一番の大きさがあった。

 辺境の農作物や木材、山の幸が集う町。そして冒険者が集まる町でもある。


 人の流れとともに大きな門を通って町へと入った。

 町の中央は石畳の大通りが続き、両側には数階建ての建物が並んでいる。


 しかしすぐに俺は内心、首を傾げた。

 活気がなかった。行き交う人々は言葉少なく、みんな暗い顔をしてうつむいていた。

 通りに面した店は半分ぐらい閉っており、開いている店も客が少ない。


 ――いったい何が? こんな感じだったろうか?

 昔、貯まった獣の毛皮を売りに来たときはもっとにぎやかだったはず?

 荒くれ者――冒険者たちの姿も見かけないな?

 不思議に思いながら大通りを歩いていく。



 ――と。

 突然大通りに野太い声が響いた。


「そっちに行ったぞ!」


「にゃ」


 目を向けると、メイド服を着た猫耳少女が大勢の男たちに追われていた。肩で切り揃えた黒髪を揺らす、細身の少女。歳は十五歳ぐらいか。

 すらりと長い足を短いスカートから覗かせて駆けている。

 頭の上の黒い猫耳がピッピッと動き、腰の後ろあたりから生えた細くて長い尻尾がしなやかに揺れていた。


 もうひとつ目を引いたのは、追いかけている男たちだった。

 豚の鼻に豚の耳。ぶひぶひ言いながら走っている。太った体にまとった粗末な鎧がガシャガシャと鳴っていた。

 ――あれは、魔物の豚魔族オーグじゃなかったか? なんで街中に……。


 猫耳少女は逃げていたが前方から来たゴブリンたちに遮られた。

 横道に逃げようとしたが、トカゲの顔をしたリザードマンに跳ねのけられる。

 結果、少女は道路に面した建物へ、壁を背にして追い込まれた。

 魔物たちが半円に取り囲み、その中から一回り大きな豚魔族が舌なめずりしながら一歩前に出た。


「へっへっへ……もう逃がさねぇぞ」


「にゃ――っ」


 メイド服を着た猫耳少女が腰に下げた鞘から素早く包丁を抜き放った。黒髪と黒い尻尾を揺らして包丁を構える。

 しかし多勢に無勢。壁際に追い込まれて縮こまっていく。


 俺は周囲を見渡したが、誰も気にした様子はない。むしろ目を合わさないようにして、足早に去っていく。

 ――よくわからないが、この町の人たちは魔物が街中を我が物顔で歩いても当然だと思っているらしい。

 面倒に巻き込まれるのはごめんだなと思ったが、見捨てるわけにもいかない。


 とりあえず事情を聴いてみるため、少女を取り囲む魔物たちに近寄った。

 彼らの背後から声をかける。


「なあ、ちょっといいか?」


 大柄な豚魔族が、豚鼻を鳴らして振り返る。濁った眼を細めて俺を睨んだ。


「なんだ、てめぇは? 文句あるってのかよ?」


「いや、文句はないが、何をしているのかと思ってな。人間の街で魔物が少女を大勢で追い掛け回すのはいろいろおかしいだろう?」


「はあ? てめぇ、ふざけてんのか! この国はよう、魔王軍のものなんだよ!」


「えっ!? 魔王軍!?」


 俺が驚くと、豚魔族が訝しそうに上から下まで俺を見た。


「どこの田舎もんだよ。戦いに負けたんだよ、この国は。俺たちが一番偉いんだ」


「ほう、そうだったのか。すまないな。今、山から下りてきたところなんだよ」


「田舎もんかよ、さっさと消えろ」


 豚魔族は俺から目を逸らすと、猫耳少女へと向き直った。

 俺はさらに彼らに近づいた。


「事情は分かったが、少女を大勢で囲むのはおかしくないか? リンチにでもするつもりか?」


「うっせぇな! こいつは悪い奴だ! 俺たちに逆らったんだよ! 痛い目見るのは当然だろ!」


 怒鳴る豚魔族を無視して、俺は壁際に追い込まれた少女を見た。


「本当か?」


 少女は儚げに首を振る。頭の上のメイドカチューシャと、肩で切り揃えた黒髪がさらさらと揺れ動いた。


「違う。何もしてない。あたしはただ旅をしてただけ」


「ああん!? そんな見え透いた嘘が通用するとでも思ってんのかよ! お前の素性はバレてんだよ!」


 豚魔族が怒鳴ると、近くにいたゴブリンが下卑た笑みを浮かべつつ喋った。


「隊長。可愛い声を鳴かせながら尋問しちゃいましょうや」


「お、そうだな……ふひひ、いたぶりながら悲鳴を楽しむとするかっ」


 豚魔族は長い舌で唇をなめながら少女へと近づき、手を伸ばしていく。

 なんだか見ていられないので、俺は右手を頭上に掲げた。


「言っても聞かなさそうだな。――下着縛縮パンツバインド


 俺が右手の指をパチンと鳴らすと、とたんに魔物たちが股間を押さえてしゃがみこんだ。


「「「ぎゃああああ!」」」


 パンツが収縮して股間を圧迫する魔法だった。彼らの生殖器は万力のような力で締め上げられてるに違いない。

 石畳の地面をのたうち回る彼らを放っておいて、俺は少女に手招きした。


「今のうちにこっちへ来るんだ」


「にゃ」


 少女は小さく鳴いて、見かけによらない素早い動きで俺の傍へ来た。尖った猫耳がピピっと動く。

 それから俺は手を下に降ろして魔法を解除した。



 豚魔族がまだ股間を押さえながら、濁った眼で睨み上げてくる。


「て、てめぇ……逆らって許されるとでも思ってんのかっ!? 謝るなら今のうちだぜ……? 俺たちの強い仲間が四六時中襲うことになるんだぜ? なんせ俺らは魔王軍なんだからよ……?」


 なにかとてつもないことをしでかしてしまったような気がした。でもこいつらに恐怖は感じない。

 というか、味方が強いからイキってるだけの雑魚に思えた。

 それに俺は自分の直感を曲げる気はない。こいつらのパンツは薄汚れている。


 そこで俺は豚魔族を見下ろしつつ言いきった。


「許しを乞う気などない」


「「「な、なにぃ!?」」」


 魔物たちが全員、声をそろえて驚いた。

 俺は静かに見下ろしつつ言う。


「俺が気に入らないと言うのなら、何度でも俺の前に現れるがいい。――その回数分だけ、貴様らの股間を爆破する」


「ひぃっ!」「な、なんて奴だ!」「俺たちを脅す気か!?」


「脅し? おかしなことを言う。俺は事実を述べたまでだ――信じられないと言うならば、証拠を見せてやろう」


 俺は下げていた手を前へと上げた。

 魔物たちの顔が怯えで醜くゆがんでいく。


「や、やめ!」「やめてくれっ」「悪かっ――」


「――下着爆破パンツバースト


 俺は指をパチンと弾いた。

 その瞬間、彼らの股間が盛大に爆発した。


「「「ぎゃああああ!」」」


 魔物たちは白目をむき、口から泡を吹く。

 そして股間を抑えつつ前のめりに倒れた。

 石畳の上でぴくぴくと痙攣するばかりで、誰も動こうとはしなかった。



 俺は隣にいる猫耳少女に話しかける。


「大丈夫だったか?」


 けれども猫耳少女は、呆然と黒目を見開いたまま俺を見上げていた。その小さな唇から言葉がこぼれる。

「おった――いや、見つけた……」


「え?」


「やっと……見つけた……」


 次の瞬間、猫耳少女はメイド服のフリルを揺らして俺の胸に飛び込んできた。黒い尻尾がぴーんと立っている。

 さらに細い腕で抱き着いて、顔や額を俺の胸にこすりつけてきた。まるで猫の仕草だった。

 俺は途惑ってしまい、呆然と立ち尽くしかない。


「お、おい、どうした? なにがなんだか……」


「あなたはトラン」


「え? ――そうだが。なんで名前を知っている?」


「王女さまの大切な人」


 胸に額をこすりつけながら淡々と喋った。無表情で言葉数が少ないから途惑う。

 ――なんだかよくわからないが、俺や王女を知っているみたいだった。

 ふと、周囲を見ると、街の人たちが絶望を顔に浮かべて俺たちを見ていた。


「た、倒した」「なにやった!?」「一瞬で倒した……」「やべぇ、もう終わりだ」「なんで、そんなぁ……」


 興奮している人がいる。驚愕している人もいる。呆然と泣いている人たちもいた。

 まったく意味がわからなかった。ただ、厄介なことになったらしいと言うことだけはわかった。

 とにかく現状を理解するための情報が欲しい。



 俺は胸に抱き着く猫少女に言った。


「このまま、ここにいるのはまずそうだ。逃げよう」


「わかった――こっち」


 猫少女がしなやかに動いて歩き出す。何気ない動作なのに動きが素早い。

 立てた黒い尻尾の先を少し曲げつつ、足早に路地裏へと入っていった。

 俺も慌てて後に続いた。


次話は夜更新。

→『第3話 新たな決意』

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