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パンツを笑うものパンツに泣け!――俺はパンツで無双する――  作者: 藤七郎(疲労困憊)


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第18話 死者の決意


 満月の照らす森の中の広場。

 野営していた俺たちは黒装束の男に襲われたのだった。



 広場の反対側に立つ男を警戒して、俺は手の中に魔力を溜めつつ尋ねる。


「フローリアを連れ去るんじゃないのか?」


「王女の居場所を探れと命令されたまでだ。明日の朝一番に報告させてもらう」


「すぐじゃないのか」


「ウィズダ様は辺境領への移動で疲れているだろうからな。それにしても、ミーニャと言ったか」


「ん。なに?」


「テルティア王国の西側に獣人がいるとは珍しいな。獣人領でもないのに。家族はいるのか?」


「たぶん死んだ」


「そうか。それは寂しかったな」


 男は同情するような声色で言った。



 ところがミーニャは肩で揃えた黒髪を揺らして首を振ると、淡々と答えた。


「ぜんぜん。王女様に出会えたから」


「王女に?」


「そう。今のあたしは、トリティア王国第一王女直属メイド」


 胸を反らしながら淡々と言った。

 どこかしら自信にあふれた態度だった。


 男は羨望交じりの優しい声で言った。


「そうか……よい主人に巡り合えたのだな」


「にゃ」


「では、さらばだ――土遁、砂隠れの術」


 ぼふっと男の足下から爆発が起きて砂煙に包まれた。

 煙が晴れると、もう男の姿はなかった。



 俺はパンツの気配に集中する。


「この周囲にはいないな。すごい早さで遠ざかってる――ミーニャ、怪我はないか?」


「にゃ、大丈夫」


 ミーニャは包丁を腰の鞘に収めるとそばへ来た。

 俺は頭をかきつつ、疑問を口にする。


「なんだか戦うと言うより、指導しているみたいだったな」


「ん。変な敵」



 ふと気が付くと、いつ拾ったのかミーニャは丸太を抱えて持っていた。

 すうっと通った鼻を近づけて匂いを嗅いでは、黒い瞳でじっと見つめる。


「どうした?」


「ん。理由。これ」


 ミーニャが丸太の真ん中辺りを指でつまむ。

 よく見ると黒い糸が結ばれていた。


「これは……髪の毛か?」


「そう。これで引っ張って身代わりにした」


「よく切れなかったな」


「魔力流して強度を上げたっぽい」


「なるほど、それで髪の毛か。自分の体の一部なら流しやすいものな」


「これなら魔力少ない人でもできる。ほかにもいろいろ。魔法っぽいけど動きが早いだけとかあった。真似できる」


「人ができる動きじゃなかった気がするけどな」



 フローリアが白いドレスを揺らしてそばへくる。


「トラン、ミーニャ。お怪我はありませんか?」


「大丈夫だ」「ん、問題ない」


「それはよかったです……とても珍しい魔法を使われていましたもの。心配でした」


「知っているのか、フローリア?」


「ええ、学院の世界魔法史の授業で習いました。確か大陸の東の果てにある魔術だったはずです」


「ずいぶんと遠いところから来たんだな。ミーニャの知り合いみたいだったが」


「知らない。死体に友達はいない」


「え? どういうことだ?」


「あの男、かすかに死臭がした。たぶん死んでる」


「死体を操る死霊術師がいるってことか」


 俺の言葉に、フローリアが気味悪そうに体をすくめた。


「どうされます? 移動しますか?」


「うーん、報告は明日の朝だといっていたし、何となくだが大丈夫だろう。パンツの寝床は造ったところだし、フローリアは休んでくれ」


「はい、わかりました」


「ミーニャと俺で見張りだな。ミーニャ、先に寝るか?」


「んー、後でいい」



 そう言うなりミーニャは広場の真ん中まで行って、足をすっと前に出したり、武器を構える格好をしたり、体をひねったりなど、戦いの練習を始めた。


 今戦ったばかりの、謎の男の動きをトレースしているようだ。

 男の教えが、なんらかの刺激になったらしい。


「そうか。じゃあ夜更けに起こしてくれ」


「にゃ」


 ミーニャはこちらを見もせずに、演舞のような動きを続ける。

 俺とフローリアは顔を見合わせて苦笑すると、寝床のある大木の影へと向かった。


       ◇  ◇  ◇


 一方、すっかり夜も更けた頃。


 辺境伯領の端に、巨大な要塞が闇夜にそびえていた。

 高い城壁が幾重にも取り囲み、断崖絶壁に面している。

 深い峡谷を繋いでいた石造りの橋は途中から落ちており、誰も渡れなくなっていた。

 深い谷が天然の要害になっていると言えた。


 谷の東側に大きな天幕がいくつか建てられている。

 魔王軍の旗が夜空に翻る。


 そのうちの一つ、一番大きな天幕の中にはまだ明かりがともっていた。

 中には黒いローブを来た少年ウィズダと胸元が大きく開いた服を着たネビュラがいた。

 中央には作業机があり、皿やランプが置いてある。

 周辺には棚や箱が乱雑に置かれていて、薬品の瓶などが無造作に詰まっていた。



 ウィズダは作業台の上に太い骨を置くと、ペン型のナイフで模様を彫っていく。

 ネビュラは妖艶な肢体をくねらせて箱に入った骨を手に取っては調べている。大きな胸の谷間が揺れた。


「ウィズダさま。まさか橋が落ちているとは思いませんでしたね」


「辺境伯も思い切ったことをするもんだよ。それだけ他のぼんくらと違って魔王軍を危険視していた証拠だろうけどね」


「やっかいな相手ですね」


「こんなことならゲーラに空から攻撃してもらったほうがよかったね。やれやれだよ」


 ネビュラが選んだ骨を作業台の上に載せる。太い骨ばかりだった。


「ここにある材料だけで足りますか? 本国から送らせても良いですが」


「いいよ。十分さ。材料は勝手に増えるからね。くくくっ」


 ウィズダが幼い顔に邪悪な笑みを浮かべて作業を続ける。

 ネビュラは彼の様子を見て嬉しそうに目を細める。


「あの砦には一万人ほどいますものね」


「人以外にも色々いるみたいだ。嬉しい誤算だよ」


「しかし橋が落ちていては攻め切れません。北か南へ兵を出して、断崖を大きく迂回しますか?」


「いや、正面から攻めつつ、部下を忍び込ませようと思う。なんせ僕の部下は優秀だからね」


「世界中から集めた手勢ですものね」


 二人が目を見合わせ笑いあう。



 そのとき、天幕の入り口の布が動いた。

 背の高い黒ずくめの男が入ってくると、片膝をついて黒い頭巾を被った頭を下げる。


「ウィズダさま、戻りました」


「王女はいないようだね? どうだった?」


「王国の北西の森の中でございます。国境を越える可能性が出てきたかと」


「連れてこれなかったのかい?」


「パンツ魔法が思いの外、強敵でありました」


「ふぅん。その割には……まあ、いいや。場所がわかるなら手下を連れてさらってきてよ」


「はっ。御意に」 


 男は素早く立ち上がり、背を向けた。

 しかし体の陰で音もなく短刀を抜くと、素晴らしい勢いで振り返ってウィズダに切りかかった。



 ――が。

 ウィズダは微動だ似せず、作業を続けた。


「無駄だよ」


「ぐっ!」


 ウィズダの細いのどに切っ先が当たる直前、男の動きが止まった。

 同時に全身が炎に包まれた。

 倒れ込んで床を転がる。しかし炎は消えなかった。


 ウィズダが幼い顔に残忍な笑みを浮かべて見下ろす。


「下僕が反抗したら燃えるように仕組んであるんだよ。知らなかった?」


「人として、親らしいことを何一つできなかったことへの報いだな……」


 床に横たわった男はもう動こうとせず、ただ満足そうな笑みを浮かべた。



 その様子に眉をひそめるウィズダ。

 高い声を荒らげて言う。


「なに笑ってんのさ! 敗北者なんだよ、君は!」


「国が滅ぼされたとき、主と共に私も死んだ。生き恥を晒しながらも本当に死ぬ機会を探していただけだ」


「それが今だって? おかしなことを」


「ふっ――抜け忍になってでも愛に生きるべきだった……でも、もういい」


 炎がマスクと頭巾を焼き尽くす。現れた素顔は黒い瞳に黒い髪、鼻筋の通った美男子。でもどこかミーニャに似ていた。

 そのまま整った顔立ちに満足そうな微笑みを浮かべて、炎に包まれて崩れ去った。



 ウィズダが不満そうに見下ろしてチッと舌打ちした。


「失敗した。動きだけを止めるようにしておけば良かったね」


「あら、どうしてでしょう?」


 ネビュラが腰を妖艶に振りながらウィズダに近づく。

 ウィズダは下唇を噛みつつ悔しげな声で言った。


「手下が急に反逆するなんておかしいんだよ。パンツ魔法に洗脳解除のような効果があるのかもしれない」


「確かに。くだらない魔法ですが、未知の魔法でありますものね」


「触媒になったパンツを調べれば魔力の痕跡がわかっただろうけど、燃えてしまった」


「残念でしたわね。ですがウィズダ様ならどんな相手だろうと負けませんわ」


 大きな胸を揺らしつつ、背の低いウィズダにもたれ掛かる。



 ウィズダは気にした様子はなく、考えながら話す。


「まあ、そうだろうけどね。パンツ魔法は侮らない方が良さそうだ。こいつの報告も信用できないかな。対策しておこう」


「どうされるので?」


「ドラゴンゾンビの制作はいったん休止して、魔法石と杖を用意してよ。隅の箱に入ってるはず」


「はい、ウィズダさま」


 ネビュラは腰を揺らして色気を振りまきながら部屋の隅へ向かった。

 子供の背丈ほどの杖と、手のひら大の石を持ってくる。


 それから二人は作業台を挟んで杖と石に模様を刻んでいった。


次話は明日更新。

→『第19話 辺境伯領攻防戦』

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