第16話 村からの逃走
昼の日差しが真上から降る、俺の生まれた村。
母に会っていると、村人が集まってきているのを下着探知で知った。
どうやら俺たちの訪問がバレたらしい。
注意を払って侵入したが、誰かに見られたんだろう。
まあこんな小さな村は全員知り合いなので、部外者は即座にわかってしまう。
王国が魔王軍に負けたことは伝わっているのだろうか?
村長ぐらいは知っているのかもしれない。面倒なことになる。
俺は二人に言った。
「村人が集まってくる。急いで出よう」
「はい、トラン」「にゃ」
ミーニャが手早く袋の口を縛って背負う。
入り口へ向かおうとすると、なぜか母が悲しそうな顔で言った。
「泊まっていかないのかい?」
「ごめん。やるべきことがあるんだ」
「そうかい。……もう本当の闘いからは逃げるんじゃないよ」
「――わかってる。じゃあ、また」
俺たちは急いで家を出た。
十五人ほどの村人たちが谷のほうから上がってくるのが見えた。
そこで俺は逆方向になる、尾根へと向かう細い道に向かった。
地の利があるので道は知っている。
しかし村人たちが駆け足で追いかけてくる。
「待て、貴様! 何者だ!」
仕方なく俺は振り返って叫んだ。
「俺はトランだ!」
「トラン!? ――あのトランか!」
村人たちは驚く人が多かった。
しかし吹き出して笑う奴もいる。
パンツのことを知っているらしい。当然か。
別の若い村人が口を開く。
俺と同じぐらいの歳と思われる。なんとなく昔遊んだ誰かに似ていると思った。
「確かに面影がある。トランだな、懐かしい――だが、あとの二人は?」
「ただの知り合いだ。冒険者仲間みたいなもんだ」
俺の適当な言葉に、村長が眉をひそめて言う。
「ほう、そうか。もう知ってると思うが、この国は魔王軍の支配下になったそうでな。私のところにも通達が来ている。ある人を見つけたら褒美が出るそうだ」
「関係ないな」
「じゃあ、証明してくれ。フードをとってもらえるか?」
「どうして?」
「桃色の髪の女性を見つけたら褒美が出るそうだ」
「彼女の髪は赤色だ」
しかしフローリアは、はっとしてフードの端をつかんで深く被った。
答えを言ったようなものだった。
「だったら確認してもいいよな?」
村人たちが道をはずれて横に広がり始める。俺たちを囲むように。
俺は肩をすくめるしかなかった。
「確かに。だったらもう仕方ないな」
「なに?」
魔力を集めた右手を頭上高く掲げた。
「――下着幻惑!」
右手がカッと眩く光る。
次の瞬間、無数のパンツが宙を舞った。
蝶のようにひらひらと舞い、村人たちの目を眩ます。
「今のうちだ!」
「はい!」「にゃ!」
俺たちは山の尾根に続く細い道を駆け上がる。
途中で転びそうになるフローリアを支え、ついでに背負った。
「下着飛行」
ぐぐっとパンツが力強く持ち上がった。
俺とミーニャは葛折りの道を縦に突っ切って尾根まで駆け上がっていく。
「逃げたぞ!」「早い!」「トランにあんな力があるなんて!」
下の方から村人たちの驚きの声が聞こえたが、どんどん遠ざかっていった。
「このまま山を越えて、西へ向かおう」
「にゃ」
「はい」
激しく揺れる王女の丸みを背中に感じつつ、山の急斜面を上り続ける。
しばらくして山の尾根に出た。
高い青空の下、どこまでも続く緑の森が眼窩に広がる。
――森の中に紛れてしまえば、もう村の連中は追っては来れないだろう。
俺はまた道なき斜面へと一歩踏み出そうとした。
その時、背負っていたフローリアが、優しく呟いた。
「トラン、落ち込まないでくださいね。私が付いていますから」
「大丈夫だ」
「いつかきっと、皆さんはわかってくれますわ」
「そうだな。そのためにも俺はもう逃げない」
「ありがとうございます、トラン」
「じゃあ急斜面を降りるから、しばらく喋らずしがみついていてくれ」
「はいっ」
俺の首に回した細い腕に力がこもる。彼女の体温が背中越しに伝わってきた。
俺は息を一つ大きく吸うと、気合を入れて山の斜面を駆け下りていった。
次話は明日更新。
→『第17話 親との再会2』




