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パンツを笑うものパンツに泣け!――俺はパンツで無双する――  作者: 藤七郎(疲労困憊)


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第15話 親との再会1


 翌朝。

 最後の朝食を終えた俺たちは早々に出発して北に向かった。


 日が高くなる頃、ようやく山を越える。

 峠から見下ろすと木々に覆われた山肌が続き、山の谷間には五十軒ほどの小屋のような家が建つ、柵に囲まれた小さな村が広がっていた。


「あそこが俺の村だ」


「トランが生まれ育った村なのですね」


 俺の背中に負ぶさるフローリアがどこか楽しそうな声で言った。


「まあ、なにもない村だ」


「畑を耕し、家畜を育てる。人々の日々の暮らしがあるじゃありませんか。とても尊いことですよ」


「王女様が人々の暮らしを考えていたとは驚きだ」


「なにを言うんですの。おろそかにしていい仕事なんて、この世にありませんわ」


 フローリアの迷いのない言葉に、素敵な統治者になるんだろうなと密かに思った。



 そのまま三人で山を下りていき、村の傍まで来る。

 村は魔物除けの堀と柵で仕切られていた。

 まだ村には入らず、茂みに隠れつつ外から様子をうかがう。


「変わったところはなさそうだな――ミーニャはどう思う?」


「魔物兵士の匂いはしない」


「そうか。まだ主要都市にしか、魔の手は及んでないんだな」


「辺境泊が抵抗していますし、王国全体に兵を割く余裕はないのでしょう」


「なるほど。では、フローリアは目立つからフードを被ってくれ」


「はい、わかりました」


 フローリアは素直にフード付きのローブを着る。

 ミーニャが黒い尻尾を立てつつ言う。


「あたしは?」


「何しても目立ちすぎるだろうから、もうそのままでいい。家は村のはずれ、東の山沿いだから」


「わかった」


「じゃあ行こう――下着探知パンツサーチ


 俺は手のひらを会わせて魔法を発動した。


 無数のパンツの位置が正確にわかる。

 パンツを極めた俺は魔法を使わなくてもパンツの位置を把握できたが、魔法を使えばより高い精度で位置と数がわかった。



「だいたい畑や牧場に出てるな」


 ミーニャが何か気になったのか、尖った猫耳をピコッと立てて無表情のまま尋ねてくる。


「その魔法、どこまでパンツがわかる?」


「半径数百メートル、この村を覆うぐらいなら余裕だ」


「そうじゃなくて」


「ん?」


「パンツの状態はわかる?」


 ミーニャの素朴な質問に、俺は胸を張って応える。


「当然だ! 染みや匂い、しわの数まで把握できる!」


「変態やん」


 訛り言葉でのツッコミ。

 フローリアが頬を染めて服の上から下腹部辺りを抑える。


「は、恥ずかしいですわ」


「何も恥ずかしがることはない! 人の顔が人生の証明書ならば、パンツは日常生活の証明書! 生きてきた人生に負い目がないのなら、堂々と晒していいんだ!」


 俺の意見にフローリアは恥ずかしがりながらも頷く。


「な、なるほど……一理あります」


「そこ認めたらあかんやん――もうええ、行こ行こ」


 呆れたミーニャの声を受け、俺は先導するように先に歩いた。


「こっちだ」



 柵を越えて村に入ると、木々や草の茂みを利用しつつ、姿を隠して移動した。

 しだいに懐かしの我が家が見えてくる。茶色い土壁と粗末なかやぶきの小屋。屋内は土間と部屋が二つあるだけ。手入れが行き届いてないせいか、周囲の家に比べてぼろく見える。


 家の周囲には身を隠せる場所がないので、俺たちはそそくさと家に入った。

 入ってすぐは土間で、手前に竈や水の壷がある。奥の部屋には粗末な棚があり、真ん中にはテーブルがあった。そこに年老いた母が座っていた。色数の少ない粗末な服。手元では内職の糸を紡いでいる。


 俺たちに気がついて顔を上げた。


「ん、どちらさん……え?」


 立ち上がって俺の顔を見つめる母。しわが多くなり頬もたるんでいたが、母に違いなかった。

 少し恥ずかしさを感じつつ言う。


「母さん、ただいま」


「と、トラン……!?」


 母は驚きで声や体を震わせつつ、よろよろと歩いてくる。なんだかとても小さい人に見えた。子供の頃は見上げるほど大きかったのに。


「そうだ。トランだ」


 母の顔が泣きそうにゆがんでいく。


 久しぶりの再会。懐かしさで喜んでくれるのかと思った。

 しかし母は傍まで来ると顔をゆがめて怒鳴った。 


「今まで、どこほっつき歩いてたんだい! 逃げたって聞いて、みんなに迷惑かけて!」


「うっ――ごめん。――父さんは?」


「父ちゃんは、とっくの昔に死んだよ! あんたがねぇ! 笑い物になって父ちゃんとっても悲しんで! 探しに出て――それで! この親不孝者!」


 母はますます顔をくしゃくしゃにして泣いた。俺を責めつつ、いなかったときの事情を説明していく。

 しなびた握り拳は俺の胸をぽかぽかと叩き続けた。昔とは違う弱々しい力が、悲しかった。

 俺のせいで村八分状態になってしまい、父は俺を信じて探しに出かけた。そして帰らぬ人となってしまったそうだ。



「知らなかった……すまない」


 俺は謝ることしかできなかった。――全部俺のせいだ。

 何も言えなくなっていると、フローリアが傍へ来て母に言う。


「お母さま、トランは一度は逃げたかもしれません。ですが、再び王国の力になろうとしてくれています」


「あんた、何者だい?」


 母は泣きやんで、いぶかしげな目つきでフローリアを見た。



「えっと……わたくしは」


 フローリアは口ごもりながら俺をちらっと見た。整った眉尻が下がり、戸惑っている様子が伝わってくる。


 俺は適当にごまかした。


「まあ、その。冒険の仲間だ」


「ええ、そうですわ、お母さま」


「冒険者になったって言うのかい? パンツ属性で」


「知っていたのか」


「そりゃ、あんた。捜しに来た役人や騎士に聞いたよ。国中どころか、世界中の笑い物になってるそうじゃないか。王国の恥だって」


「そんなことありませんわ! トランはとても立派なお方です! 守れなかったわたくしが悪いのです! トランは、何も、何一つ悪くありません!」


 フローリアが身を乗り出してまくし立てた。その必死な姿を見ていると驚くとともに過去のことが思い出された。


 ――馬鹿にされた学院でただ一人俺を庇ってくれた幼い少女の姿。


 そうだ。もう逃げてはいけないんだ。

 俺は戦う。戦いに勝てば名誉を回復できる。

 それが失意の中、亡くなった父さんへの手向けになるはずだ、きっと。


 同じ過ちは二度としない!

 俺は、こぶしを握り締めつつ歯を噛みしめた。



 考え事をしている間も、フローリアは俺がどれだけ素晴らしい人かをさらに説明していた。

 母はその勢いに押されて一歩後ろ下がる。


 そこへミーニャが急に傍へ聞て、ずいっと一歩踏み込んだ。

 さっきから話に加わらずに、ずっと室内をうろついて匂いを嗅いでいたのに。


「食料、欲しい。固いパンと干し肉。保存がきくやつ」


「な、なんだい、あんた。不躾だね」


「ん。よく言われる」


「獣人かい? 親のしつけが悪いね」


「親は知らない。たぶん死んだ」


「おや、そうだったのかい。そいつはすまなかったね」


「別にいい。それよりごはん」


「あるように見えるかい? だいいち親不孝者に食べさせるご飯はないよっ」


 母は拒絶の中に憤りを混じらせて答えた。


 俺は諦めつつも、もう一回だけ頼んだ。


「お粥の材料だけでも、もらえないか?」


「おや、誰か調子が悪いのかい?」


「彼女が病み上がりなんだ」


 フローリアに手を向けて示す。

 母はフローリアをじろじろ眺めたが、本当に体調が良くないことに気づいたようだ。

 ため息を吐くと壁際にある棚に近寄った。下側の戸を開けて麻袋を取り出す。



「これを持ってお行き」


 テーブルに広げると芋が転がりだした。

 ミーニャがメイド服を揺らして近寄る。すばやく背負い袋に芋を入れていく。

 俺は右手に魔力を集めつつ、テーブルに近寄った。


「代金代わりといっては何だが。今はこれぐらいしかない――百下着生成ハンドレッドパンツクリエイト


 テーブルの上に百枚のパンツが山のように着みあがった。

 母は目を丸くしつつとがめる。


「こんなにパンツもらっても、どうしろって言うんだい!」


「ほんま、それな」


 ミーニャがボソッと呟いたが気にしない。

 パンツという素材だからすぐには考えが及ばないだけで、貧乏な村ではどんな布地も貴重なはずだ。


「売ったり物々交換、もしくは雑巾にでもしてくれ」


「ほんと、何の役にも立たない魔法だねぇ」


 母は呆れたように吐息を吐いた。



 しかしフローリアが首を振る。フードが強く揺れた。


「そんなことありませんわ、お母様。パンツ魔法はとてもとても偉大な魔法でした」


 母は、きょとんとした顔でフローリアを見る。


「お嬢ちゃん、トランとずっと一緒にいたのかい?」


「え、はい」


「うちのバカ息子は、少しは役に立ったのかい?」


「少しどころじゃありません。救世主ですわ」


「そうかい。あんた、いい人だね」


「そんな。こちらこそ急に押し掛けてしまってすみません。このお礼は必ずしますから」


「いいってことよ。こんなどうしようもないバカ息子をかばってくれた人は初めてだよ……ありがとうよ」


 母が初めて微笑んだ。俺にも見せたことがない、安堵したような笑み。


「はい、お母さま」


 フローリアの声が嬉しそうに響いた。フードの下で笑みを浮かべていそうだった。



 そのとき、俺の下着探知パンツサーチが異変を察知した。

 大勢のパンツが集まって、この家に向かってきている。

 俺はチッと舌打ちしつつ、どうするか考えた。


次話は明日更新。

→『第16話 村からの逃走』

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