第14話 三魔将ウィズダ
トランとハーピィが戦っていた、一方その頃。
王国の西にある森林地帯の中の道を、ぞろぞろと不気味な集団が歩いていた。
みな一様に押し黙り、咳払い一つしない。一点を見つめて、黙々と歩いている。
先頭には馬に乗る二人組がいた。
大きな胸の谷間を強調した服を着た色気のある女性が手綱を握り、その前に真っ白な短髪の少年が座っていた。
少年は女性にもたれて大きな胸に頭を埋める。
「まったく。魔王様は人使いが荒いね。せっかく新しい研究に取りかかったところなのに。辺境なんて行く気がしないよ」
「あら、ウィズダさま。急がなくてもよろしいので?」
「気乗りしないね。辺境領にはめぼしい実験材料はいないんだから」
「そういわずに。きっと楽しいことが見つかりますわ。なんといってもウィズダ様は天才なのですから」
「だといいけどね、ネビュラ……いつになったら掴めるのやら」
少年ウィズダは少し疲れた声でつぶやく。
ネビュラと呼ばれた女性が首を傾げて少年の顔を後ろから覗き込む。
「何がでしょう、ウィズダ様?」
「法則の向こう側にある真理だよ。もう少しのはずなんだ」
「ええ、下位の現象魔法、中位の物質魔法、高位の概念魔法。あらゆる魔法を修得されましたものね」
「物理法則が表とするなら魔法は裏の法則。裏を極めて真理を見れば、世界も魔法も自在に操れる。いや、生み出せるようになる。僕の理論は間違ってない!」
「その通りですウィズダ様」
美女は腕の中のウィズダを抱きしめるようにして言った。
ウィズダは目に強い光を宿しつつ、歯を噛みしめる。
「僕の考えに反対した奴らを見返してやるっ」
「あら? まだ生きてる人がいました?」
「いいや。当然、真理を探るための実験台にしてやったさ」
「さすがですわ、ウィズダ様」
二人は、ふふっと笑いあう。でもどこかしら冷酷な響きが声にこもっていた。
――と。
急にウィズダが真剣な顔に戻って上体を起こした。白髪が柔らかく揺れる。
「――ん?」
「どうされました?」
「連絡だ」
ウィズダは耳に手を当てて前傾姿勢になる。何かが聞こえている様子。
耳から手を離すと、またネビュラの胸にもたれる。
「困ったね。ゲーラもやられたそうだよ」
「まさか! 三魔将が続けて二人も! ――パンツ魔法はそんなに強いと言うことですか?」
「下品な魔法だけに何か裏があるのかもしれない。でも困ったのはそれだけじゃないんだ」
「どうしたのでしょう?」
「街道より遙か北にいたってことさ。てっきり辺境伯のところに逃げ込むと予想してたけど、別の可能性が出てきた」
「別の?」
「国外に出て助けを求めるかもね。三魔将を二人倒したことを取引材料にして。それだけの強さがあるなら話に乗る国も出てくる」
「確かに、困りましたね……どうされます?」
「まあ、そのために僕の部下がいるんだ。大陸中から集めた優秀な部下がね――影狼たち」
ウィズダが指を手をぽんぽんと叩いた。
すぐに全身黒ずくめの男たちが現れる。その数、十人ほど。女もいるかもしれない。
背の高い男が進み出る。マスクと頭巾で顔を隠しており、目元だけ開いている。
「ウィズダ様、ここに」
「逃げた王女を探してきてもらえるかな? 桃色の髪でフローリアって言うんだ。魔法はとても珍しい花属性だよ」
「王女の行き先は?」
「西の辺境伯だと思ってたんだけどね。街道を使わずに国外へ脱出するみたいなんだ。できそうなら連れ返ってくれてもいいよ?」
「御意」
一瞬にして黒い影が四方へ飛んだ。
馬上でウィズダが延びをする。
「彼らに任せておけば安心だね。五体満足のまま殺して良かったよ」
「バラバラにした方がおもしろい組み合わせができたかもしれませんのに」
「あ、そうだね。下半身を蜘蛛にしてもおもしろいかも」
「蜘蛛人間を人為的に作り出すのですね。さすがウィズダさま」
「辺境に行くのが楽しみになってきた。さっそく材料を集めなきゃ」
ひひひっと狂気じみた笑みを浮かべるウィズダ。
子供らしさとはかけ離れた、凄惨な笑みだった。
次話は明日更新。
→『第15話 親との再会1』




