第12話 三魔将ゲーラ襲来!
夜になって雨が上がった。
洞窟の中では相変わらず俺はたき火の傍で番をして、ミーニャは薬草粥の入った小鍋をかき混ぜていた。
フローリアはまだパンツに包まれて眠っている。
会話もなく、俺は燃え続けるたき火を見ていたが、ふと気になったので尋ねる。
「ミーニャ」
「にゃ?」
急に呼ばれたミーニャの猫耳がピコッと立った。
「食料に余裕はあるか?」
「明日の朝までなら」
「辺境伯爵のところまで、一~二日はかかるんじゃないか? 途中で食料を補給できる町か村があればいいんだが……」
自分で言いながら、たぶん無理だろうと思った。
多くの町や村は魔王軍の兵士たちでいっぱいだろう。
ミーニャが尻尾を緩やかに揺らしながら言う。
「イノシシでも狩る?」
「俺たちは良くても、病み上がりのフローリアが肉をがっつり食べるってのは、きついんじゃないか?」
「むう。確かにそうかも」
無表情のままで答えるミーニャ。
動揺が見えないので、深刻な事態なのにせっぱ詰まっているようには思えなかった。
「しかし、食べないと体力が回復しない。でも魔王軍が――」
ふと、俺は思いついて、口を閉ざした。
ミーニャが首を傾げる。黒髪がさらっと横に流れた。
「トラン?」
「王都から西に向かい、それから北に来た」
「うん。北に行くほど山が増える」
「山を一つ超えたら、俺の生まれた村がある」
「にゃ?」
「俺の親に頼んで食料を融通してもらうのはどうだろうか?」
ミーニャは黒い瞳で、じーっと俺を見てくる。
「できる?」
「わからない。でも街道の町や村は魔王軍の手が伸びているはずだ。へんぴな村のほうが、まだ安全だろう」
「ん。わかった。それで」
淡々と答えるミーニャ。視線は俺じゃなく、フローリアを見ている。
そのとき、フローリアが呻くとうっすらと目を開けた。
「とらん、みーにゃ」
「起きたか」
ミーニャが、にゅっと手を伸ばして指を丸めた猫手をフローリアの額に置いた。
「熱、下がった」
「そうか。それはよかった。じゃあ、少し食べようか」
俺はたき火の傍に置いてある小鍋に手を伸ばした。
しかしものすごい勢いでミーニャに奪われた。黒目を炯々と光らせて言う。
「ダメ」
「なんでだよ」
「王女様の世話はあたしの仕事」
「なるほど」
無表情ののまま鼻息荒く答えるミーニャに、直属メイドとしての自負をみた。
俺はゆっくりと立ち上がった。
「じゃあフローリアは任せた」
「どこへ?」
「さっきから空にパンツが浮いているんでな。見てくる」
ミーニャの雰囲気が変わった。手が動いて腰の包丁を確認している。
「わかった」
「トラン、気をつけて」
「大丈夫だ。俺のパンツを信じろ」
二人の心配そうな声を背に、俺は洞窟を出た。
雨上がりの夜空は、透き通るほどに澄んでいた。
星の輝きがいつにもまして強い。東の空からは大きな月が上ってきている。
そして見上げる上空に、星の輝きを隠すように大きな鳥のシルエットがいた。
――ハーピィか?
女性の上半身に鳥のような翼と足。胸と腰を粗末な布で覆っている。
俺を見下ろして頷くと、のどを反らしてひときわ高く鳴いた。
「ケ――ンッ!」
何をしたのか、と思う前に、四方から無数の影が集まってくる。
みるみるうちにたくさんのハーピィたちが星空を覆い隠していく。
茶色に灰色、くすんだ色が多いためか、月明かりを隠していく群がおぼろげな雲のように感じられた。
「……仲間を呼んだか」
攻撃が届きそうにない。
試しに地面に落ちている石を拾って上空へ投げてみる。
山で小動物を取るときに培った投擲術。
なかなかの速度が出たが、ハーピィーたちはあざ笑いながら軽々と避けた。
――やっかいだな、これは。
顔や体格は人と同じぐらいだが手が鳥の翼のようになっていた。
一言にハーピィーと言っても種類があるようで、人の姿に近いものから、くちばしのある鳥に近いものまでいろいろいた。
しかしパンツをはいている以上、俺の敵ではない。
焦ることもなく空を見上げていた。
――と。
空を埋め尽くした群の中から、一体のハーピィーが前に出てきた。
羽ばたきもせずに空中に浮かんでいる。
白い翼を背中に持つ、黒髪の美しい女性。
胸と腰だけを羽毛が覆っていて、ほとんど人と同じ姿をしていた。
翼と腕があり、まるで天使のようだ。
ただ、長い黒髪が逆巻くように激しく揺れている。まるで風に包まれているかのようだった。
彼女は高らかに笑いながら言った。
「ようやく見つけましたよ、フローリア王女。そこに隠れておられるんでしょう? 王都を捨ててどこへ逃げる気ですか?」
「お前が三魔将の一人ゲーラだな。王女と話したければ、俺を倒してからにしろ」
俺の言葉に、ゲーラは目に侮蔑の光を浮かべて吐き捨てた。
「お黙り! パンツ男! バルバドスを倒した程度で私に勝てると思わないことね!」
「パンツをないがしろにすると、足下をすくわれることになるぞ? 足首に絡まるパンツのようにな!」
「ふんっ。あなたの手の内など対策済み! 空の支配者たる私になすすべなくやられなさい!」
その言葉に、俺は彼女の持つ違和感の正体に気づいた。
驚きで目を見開きながら声を上げる。
「パンツをはいてない! ――いや、脱ぎ捨てただと?」
「くくく。パンツ魔法破れたり! 履いてなければ何もできまい! ――お前たちも!」
「ケーン!」「ギャギャッ」「グワッグワッ」
羽ばたくハーピィーたちは器用に鉤爪のついた足を動かして、腰巻の下から一斉に下着を脱ぎ捨てた。
月明かりの差す中、夜空に無数のパンツが桜吹雪のように舞い散った。
次話は明日更新。
→『第13話 パンツの恩恵は無限大』




