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美少女アルケミストの世界

 「というわけだから、今日一日はこれ着ててくれ」

 「わかりました……」


 あり合わせを合成して錬金した服をアルトに与えた俺様はアルケミストの仕事へと繰り出した。

 女の子の服に慣れないせいか、はたまた女の子にされたことに対する文句がまだ言いたいのか、アルトは消沈気味だ。

 まあいい、どうせすぐに美少女でいることの良さを知ることになるからな。


 俺様の仕事場となる工房は家のすぐ隣にある。

 アルケミストたちにとって自分の工房を持つことは一定以上の実力を持つ証だ。

 俺様はこの工房のマスター、アルトはマスターである俺様の助手として働きながらアルケミストとしての下積みをしているというわけだ。


 「なんかまだ手付けてない依頼ってあったっけ?」

 「一件残ってますね。除草剤の合成です」


 俺様がアルトに尋ねるとアルトは記録簿を見返して報告してきた。

 アルトはアルケミストとしての腕はそれなりだが事務としてはなかなか優秀で、依頼の受付や仕事の進捗管理、薬の合成に使う材料調達の交渉などを一手に担ってくれている。

 その能力が俺様がアルトを助手に付けている理由の一つだ。


 「除草剤の依頼っていつ受けたっけ」

 「一昨日ですね。納期は明後日までです」

 「じゃあそれからやってくかー」


 今日の仕事は除草剤の合成からだ。

 俺様の影響で人体錬金のイメージが先行するようになったがアルケミストの主な仕事は薬の合成と金属や宝石の錬成だ。

 俺様ぐらいの実力があってもそれは変わらない。


 「材料は?」

 「昨日調達しておきました」

 「じゃあいつもの場所に用意してくれー、器具用意してくる」


 仕事に取り掛かると二人しかいない工房が少しばかり賑やかになる。

 この前までの俺様一人の状態から見違えるようになった。

 おまけにアルトが美少女になったおかげで見栄えもいい。

 

 合成の準備を進めていると工房に備え付けられたベルが鳴った。

 ベルは工房に客が来たことを知らせる装置だ。

 これが鳴るということは工房に新しい仕事が持ち込まれるということである。

 

 「応対で外れます」


 アルトがいつものように来客の応対に向かった。

 顔なじみの客ならきっと美少女になったアルトに対して何かしらの反応を示すだろう。

 俺様はこっそりと様子を覗きに行った。

 

 「いらっしゃいませ」

 「あれ?貴方新人の子?」


 俺様が表口の方に聞き耳を立てたところ、どうやら来客はうちのお得意様のようだった。

 よくうちに宝石の原石を持ち込んでは錬成を依頼してくるおばさまだ。

 初めて見る美少女化したアルトに対して驚いているようだ。

 

 「あの、私アルトです」

 「えーっ!?あのアルトくん!?随分とかわいらしくなっちゃってー!」

 「昨夜の内にマスターにやられてまして……」

 「ハレちゃんに?まぁあの子なら確かにできちゃいそうだものねー」


 おばさまは美少女化したアルトのことをあっさりと受け入れるとその容姿を褒めちぎった。

 おばさまは俺様がここに工房を構えて間もないころからの常連客だから俺様の性格についても熟知している。


 「あ、そうそう。またお仕事頼んでもいい?」


 おばさまは淀みなく話題を切り替えるとアルトに仕事の相談を持ち込んできた。

 デスクの上に固く重いものが置かれる音が聞こえる。

 今回も何かを錬成する仕事のようだ。


 「何かの原石みたいなんだけどね、おばさんわかんないのよー。ハレちゃんに錬成してもらえる?」

 「掛け合ってみます。少々お待ちください」


 アルトはいつも通りな堅物な応対をすると俺様の方に向かって来た。

 俺様は先回りして工房に戻り、さも当然のように作業中のように取り繕う。


 「マスター、いつもの方から原石の錬成の依頼が来てますが」

 「受けていいぞ。ただ一件先に受けてる依頼があるから取り掛かりはその後になることだけ伝えといて」

 

 おばさまからの依頼は最優先で受けるべき仕事だ。

 というのも、おばさまは報酬の羽振りが非常にいいからだ。

 俺様が仕事で得る稼ぎの四分の一から三分の一ぐらいはおばさまからの報酬といっても過言ではない。

 

 俺様からの伝言を受けたアルトが折り返したところでもう一度聞き耳を立てに行った。

 するとアルトとおばさまは何やら話をしている。


 「男の子のアルトくんもなかなかよかったけど、今のアルトちゃんも可愛くていいわねー。おばさん応援したくなっちゃう」

 「そ、そうですか?ありがとうございます……」

 「これはおばさんからのプレゼント、女の子ならアクセサリーの一つぐらいは付けとかないとね」


 どうやらおばさまから何かアクセサリーを貰ったみたいだ。

 いいなぁ、俺様ですら貰ったことないのに。

 アルトも容姿を褒められることについてはまんざらでもなさそうだ。

 おばさまは上機嫌な足音と共に工房を去っていった。


 「何貰ったの?」

 「ペンダントなんですけど、これってプリズムクォーツですよね」

 

 アルトは呆然としながら恐る恐る手にしたそれを俺様に見せてきた。

 彼女の手のひらの上には七色に光る針のようなものが埋まった宝石があしらわれたペンダントがあった。

 間違いない、プリズムクォーツだ。

 プリズムクォーツはこの世界で最も高価とされる宝石の一つで、アルケミストによる錬成以外で取り出すことはできないとされている。

 今アルトが持っているサイズの個体でも売れば二、三年は遊んで暮らせる上にまだ多少余るぐらいの代物だ。

 

 「あのおばさんっていったい……」

 「こりゃおばさまさま、だな」


 こんな代物をあっさりと無償で渡してしまえるおばさまの経済力に俺様はアルトと二人で戦慄するのであった。

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