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劇団『暁の星』
かつて伝説と呼ばれた役者が在籍していた劇団。
幼い頃、彼女の演技に魅了された私は役者の道を志し、そしてこの劇団に入団した。それが十歳の時である。
「緊張は……していないみたいね」
「大丈夫です!緊張よりも楽しみの方が上回ってますから!」
「ふふっ、さすがシェリーね」
ちなみにシェリーというのは、私の劇団での名前だ。芸名、とでも言えばいいのだろうか。
「だってようやくチャンスが巡ってきたんですよ?緊張なんてしている場合じゃないです!」
私は現在十七歳。
劇団に入団してからすでに七年が経過していたが、実は私はまだ一度も舞台に立ったことがない。
長かった。
私よりあとから入った子がどんどん初舞台を迎えていくなか、どうしてだか私だけはまったく舞台に立つことができなくて。何度悔しい思いをしてきたことか。
私に才能がないから?だから舞台に立たせてもらえないの?
そう思って直接団長に聞いてみたけど、今はまだその時じゃないと。
じゃあその時はいつなのかと聞いても、すまないと言うだけ。
だから正直辞めようと思った時は何度もあった。
でもいざ辞める、そう口にしようとするとどうしても言えなくて。
ああ、やっぱり夢を諦められないんだって改めて実感したのだ。
伝説と呼ばれた、クララベルみたいになりたいという夢を。
「今回が初めての舞台で、しかも主演だものね。今まで本当によく頑張ったわ」
「レベッカさん……」
それから私は裏方に徹しつつ、確実に努力を積み重ねてきた。
そして入団七年にして、とうとうその時がやって来たのだ。
「衣装もすごく似合ってる」
「えへへ……」
レベッカさんとは違い、地味な顔に女性らしさの少ない体型だけど、別にそれについては悲観していない。
そういえばルース様にもよく地味とは言われていたけど、この顔はすごく化粧映えする。
ちょっと寂しい胸元も、布を詰めれば大きさは自由自在!
そしてさらにカツラを被れば、私は色んな人間になることができるのだ。
「でもねぇ」
「?」
「そのメガネはさすがに外さないといけないけど……その、大丈夫なの?」
「あー……」
レベッカさんは私の瞳の色の秘密を知っている数少ない人間だ。だからレベッカさんの心配は分かる。
でも私は今回の出来事で思うところがあった。
実はあのメガネぶっ飛び事件は、もう一ヶ月も前のこと。
それにもかかわらず、この一ヶ月の間何も起こらなかったのだ。
最初の一週間は生きた心地がせず、次の一週間も心穏やかではいられなかった。
しかしその次の一週間にはあれ?と疑問を抱くようになり、最後の一週間はもしかしたらと希望を抱いた。
これはもしや気づいていないのでは?
王家からのお達しが出されたのはもう十年も前のこと。
ぶつかった相手の顔は見ていないものの、学園の制服を着ていたので生徒であることは間違いない。
もしも相手が私より歳上の十八歳だとしたら十年前は八歳。年下であれば六歳……
ということはだ。お達しなんて覚えていない、または知らなかったという可能性もあり得る。
先ほど言いそびれたが、王家からのお達しというのは、赤い瞳を持つ者を王太子殿下の婚約者にするという信じられないもの。
なんで王太子殿下の婚約者を瞳の色で決めるんだって。
しかも身分は問わないときた。
次期国王の婚約者なんだからある程度の身分は必要でしょうに!と突っ込んだものである。
この国に赤色の瞳の人間が何人いるかなんて分からない。
でもあまり見かけない色だから、めずらしいことには違いなくて。
もちろん王家が探しているのが、私ではないことは分かっている。
でも瞳の色をさらしたまま生活をしていたら、どんな面倒ごとに巻き込まれるか分かったものではない。
だから王太子殿下の婚約者が見つかるまでは、瞳の色を隠そうとあのメガネをつけるようになったのだ。
幸いなことにその頃の私はまだお茶会のような社交の場に出ていなかったため、家族や使用人以外に私の瞳の色を知る人はいなかった。
そのおかげで今日まで無事に過ごしてこれたのである。




