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案内されるままエセル様のあとをついてきたが、ずいぶんと奥まで来たようだ。
城に入ったばかりは何人もの使用人や文官を見かけたが、この辺りには誰もいない。
(本当にここにいるの?)
奥に行くにつれて、なんだか自分がこの場にいるのが場違いのように感じ、不安になる。
なんと言えばいいのか、ここは私みたいなただの小娘が足を踏み入れてはいけない不可侵領域……そんな気がするのだ。
もう城の見学とか、呑気なことを考えている場合ではない。
「着いたよ」
「!」
そう言ってたどり着いた扉の前。
その扉を見た私はエセル様に問いかけた。
「……本当にここですか?」
城のことなど知らない私でも、これくらいは見れば分かる。
この扉……そんじょそこらの扉とは一千を画している。
「そうだよ」
「……もしかしてこちらには国の重鎮の方でも……?」
こんな奥に応接室があるとは思えない。
もしかしたらここは誰かの部屋なのかも。
ただそれが誰かは分からないが、間違いなく私みたいな偽物が会っていいような人ではないと思う。
「うーん、そんな大したことはないから大丈夫だよ」
大したことないって……というか否定はしないのね。
そもそも少し考えれば分かることだった。
王族であるエセル様の側にいられる人間なんて、高位な存在以外あり得ない。
今は事情があって傍にいてくれるが、本来はこうして一緒にいていい相手ではなかった。
最近は一緒にいるのが当たり前になっていて、そのことを忘れていたのだ。
「えっと……確認なのですが、本当に私が会っても大丈夫なんですか?」
でもここまで連れて来てもらったのに、今さら無理だなんて言えない。
だから念のため確認してみたのだけれど……
「もちろんだよ。あの人も君に会いたがっていたからね」
「え?」
私に会いたいってどういう……
「さぁ、もう中で待っているから行こうか」
「あっ……」
少し心の準備をと口にする前に、エセル様が扉を叩いた。
――コンコンコン
「私です」
『どうぞ入って』
部屋の中から聞こえてきたのは女性の声。扉に隔たれていてもよく通る美しい声だ。
(あれ?この声どこかで聞いたような……)
どこだっただろう。
もう少しで思い出せそうな気はするが、その少しの時間さえも私には残されていなかった。
「失礼します」
――ガチャ
無情にも開かれた扉。
私の緊張は最高潮に達し、心臓が早鐘を打っている。
適度の緊張は気を引き締めるのにちょうどいいが、極度の緊張は何をやってもうまくいかないもの。
このままでは、何かやらかしてしまう可能性が高い。
そして相手は間違いなく私よりも高貴な存在。もし失敗すれば命が……
(ううん、それはダメ)
ここで人生を終わらせるにはいかない。
私には叶えると決めた夢がある。
それに思い出すんだ。今日ここに来たのはどうしてかを。
息を吸ってー、吐いてー……よし!役者は根性だ。
エセル様のあとに続く。
「彼女がシェリア・ハジエット嬢です」
「初めまして、シェリア・ハジエットと申します。本日はお忙しいなか……」
「ああ、そういう堅苦しいのは結構よ。あなたがあのシェリアちゃんね」
(……シェリアちゃん?)
「母上。いくら非公式の場とはいえ、挨拶はきちんと最後までしてください。ほらシェリアが困っているでしょう?」
(え……母上?)
「仕方ないじゃない。噂のシェリーと会えるってすごく楽しみにしていたのよ?むしろこれでも抑えている方なの」
(シェ、シェリー?)
ちょっと待ってほしい。情報量が多すぎて頭がついていかないんですけど。
いくつか気になる点はあったけど、一番気になったのはエセル様の母上発言。
えっと、母上ってお母様ってことよね?
エセル様は王太子。王太子のお母様ということは?
「お、王妃陛下……?」
「あら?私が誰かって教えてあげなかったの?」
「教えたら彼女が緊張してしまうかと思って……」
「だから王妃っていう肩書きは好きじゃないのよね~。まぁ今さら仕方ないわね……それじゃあ改めまして。私はベルティーナ・クライトス。この国の王妃よ。シェリアちゃん、これからよろしくね」
……嘘でしょ?まさかエセル様の師が王妃様だなんて……。
ねぇ、誰か嘘だと言って!
しかし私の願いは虚しく散り、このあとさらなる衝撃を受けることになる。




