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「それでね七日後なんだけど、予定はどうかな?」
「七日後……そうですね、特に予定はないので大丈夫です」
劇団の練習には毎日行っているけど、一日くらい休んでも問題ないだろう。
「よかった。じゃあ七日後の放課後、教室に迎えに行くね」
「はい、分かりました」
きっとすごい人なんだろう。そんな漠然とした考えを抱いていた私だったが、この時はまだ知らなかった。
まさかそのすごい人が、本当にすごい人だったなんて。
そして七日後の放課後。
エセル様にエスコートされ馬車に乗り込んだ。
最初は緊張していたが、ここ最近はエセル様にエスコートされるのにも慣れてきた。
「わぁ……!」
城に来るのはデビュタント以来。
その時はすごく緊張していて、こうしてしっかりと城を見る余裕はなかった。
今も緊張はしているが、舞台に立った経験のおかげかまだ心にゆとりがある。
学園を卒業したら私は貴族籍を抜け、役者として生きていくつもりだ。
そうなれば城に来る機会なんて数年に一度行われる『王室興業』くらいしかない。
だからこれはまたとない機会。今のうちにこの美しい城を目に焼き付けておこう。
「ふふ、気に入った?」
「あっ」
そうだった。城の見学に夢中になっていたけど、隣にエセル様がいたんだった。
それなのにキョロキョロと……きっと子どもみたいだと思われたに違いない。
「すみません。城に来る機会なんて滅多にないのでつい……」
「構わないよ。こんなに楽しそうに見てくれる人はそういないから、単純に嬉しくてね」
「お、お恥ずかしいです……」
うっ……さすがに見すぎだったね。反省しないと。
「気にしないで」
「ですが」
「だってこれからここが君の家になるかもしれないでしょ?それなら今のうちにしっかり見ておいた方がいいだろうしね」
「へっ!?」
私の家って……いやいやいや、ないでしょ!
それは本当の婚約者の場合であって、偽恋人の私には関係のない話。
……きっとこれは、エセル様なりに私の緊張を解そうとしてくれたのだ。要するにただの冗談。
「エセル様でも冗談なんて言うんですね~あはは……」
冗談の規模が壮大過ぎて焦っちゃったけど、そうに決まってる。
「……冗談じゃないんだけどね」
「え?今なんて……」
何か言ったような気がしたが、小さくてよく聞こえなかった。
「ううん、何でもないよ」
「……そうですか」
エセル様の言葉を聞き逃すなんて、弛んでいる証拠。
これからは一言一句聞き逃さないように、気合いを入れないと。
(よし!)
私は気づかれないよう、小さく気合いを入れたのだった。




