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「えっ……城にですか?」
昼休み。
今日は話があるからと、学園内にあるエセル様の部屋で昼食をとっていた。
「うん。前に演技の手本になった人に会わせてあげるって言ったの覚えてる?」
「あ」
そういえば初めてのデートに向かう馬車の中で、そんな話をした覚えがある。
でもあれは、エセル様が気を遣ってしてくれたあの場だけの話。
だから本当に会えるわけはないと思っていたので、すっかり忘れていた。
「遅くなっちゃってごめんね。その人結構忙しい人でなかなか都合がつかなくてさ」
「い、いえ!覚えていてくださっただけでも嬉しいです」
ちなみに今ここにエリーはいない。
あれからラストル男爵は正式に爵位を剥奪され、辺境の地へと送られた。
王族を侮辱するなど大罪だ。むしろこれくらいの処罰で済んでよかったと言えるくらい。
元男爵は最後まで自分は知らなかった、だから悪くないと言っていたようだが、エセル様本人に暴言を吐いたのだ。
もはや言い逃れなどできない。
しかしここで問題が出てくる。それがエリーの処遇についてだ。
たとえあんな人間でも、エリーにとっては肉親なわけで。
ただ男爵家が取り潰しになった今、エリーは男爵令嬢ではなく平民となってしまった。
イルミナス学園には平民の生徒もごく少数であるが在籍している。
でもその生徒は、平民の中でもとりわけ裕福な家の子ども。
親がいないエリーにはとてもではないが、学園に通うだけのお金を用意することができなかった。
『別に問題ないわ』
ただ当の本人は学園に通えなくなったことを特に気にしていなかったが。
『だってこれまではずっと平民として生きてきたんだもの』
むしろ親しい人もおらず、悪女と周りから嫌われながら学園に通う方が辛かったそうだ。
『ただシェリアと会えなくなるのは寂しいけど……』
そう。私も寂しい。
でもエリーは生きていくために働かなくてはならない。
初めは私の家で働くのはどうかと考えてはみたが、やはりそれはやめた。
友達だからと優遇すれば他の使用人たちの不満が溜まるだろうし、家で働けばどうしても主従関係になってしまう。
何が彼女にとって一番いい選択か。
そこで思いついたのが『暁の星』で働くこと。
働くというより、所属するという言い方の方がしっくりくるか。
劇団に所属しているのは役者だけではない。
舞台で使う小道具や衣装を作ったりする制作係。
舞台により臨場感を持たせるために、効果的な音や光を使い分ける効果係。
そしてこれまでにない新たな舞台を生み出す脚本係など。
さまざまな係が存在している。
舞台は役者だけで作れるものじゃないからね。みんなの力があってこそ素敵な舞台を作ることができるのだ。
以前エリーは舞台を観ることが好きだと言っていた。
だから団長に相談してみたのだが、やる気があるのなら大歓迎とのこと。
それをエリーに伝えると、
『本当?嬉しい!』
という感じであっという間に決まった。
今は劇団の寮で生活しながら、毎日を忙しく過ごしている。
『いつか私が書いた脚本を、シェリアに演じてもらうのが夢なの』
そう嬉しそうに話してくれた。
その日が来るのが今から待ち遠しい。




