30
あのあとラストル男爵は、王族を侮辱した罪で王宮に連れていかれた。
エセル様が王太子だと知った時のラストル男爵は、それはそれは間抜けな顔をしていた。
そりゃあ王太子殿下相手に下等だなんて言っちゃったしね。
あれだけの暴言を吐いたのだ。さらには危険な思想までも。
おそらく男爵は爵位を剥奪され、辺境の地へ送られることになるだろう。
そして……
「エリー!」
彼女のもとへ駆け寄る。
「無事でよかった……」
ようやく彼女の手を握ることができた。
「……」
しかし彼女はうつむき黙ったまま。
さっきは目を輝かせていた時もあったけど、今はそんな雰囲気ではない。
どこか具合でも悪いのだろうか。
「エリー、どうしたの?どこか具合でも」
「……どうして」
「え?」
「どうして私を助けてくれたの?」
投げかけられた疑問。
その言葉からは、あまりに純粋な疑問の色がうかがえる。
どうして助けてくれたのか。
彼女は本気でその理由を理解していないらしい。
この想いは私の一方通行だったのかな。
でも言葉にしてちゃんと伝えたことはなかったかもしれない。
それならここではっきりさせよう。
「どうしてか分からない?」
「っ……ええ」
「本当に?」
「……分からないわ。だって私はあなたに迷惑しかかけていないし……」
はて、それはなんのこと?
「えっと、迷惑って?」
「……あなたの婚約者を奪ったわ」
いや、それは感謝してるって前に言ったよ?
「それにあなたの後を付けたり」
それも理由があってのことだったし、もう気にしてない。
「挙げ句、王太子殿下との時間を邪魔したわ」
邪魔だなんて思ったことない。
むしろ三人で過ごせて楽しいなって、エセル様やエリーの都合なんて考えずに勝手に思ってたくらいだ。
「そして今日のことも……」
悪女のエリーしか知らなければ、彼女がこんなに繊細な心の持ち主だなんて気づけないだろう。
でも私は知っている。
これまでも友達を作ろうと思ったことはあった。
でも演技の練習に家の仕事にと忙しく、それどころではなかった。
それに心のどこかでは、私が役者になりたいと知れば、変わり者だと指を指されるだろうと分かっていた。
だから一人でいることを選んだ。
でもエリーは、はじうま令嬢と揶揄されている私と仲良くしてくれる。
それに私の演技が好きだと言ってくれた。
その時、私という一人の人間を認めてくれる人がいることをとても嬉しく思ったのだ。
学園で彼女と親しい人はいない。
彼女はつい最近までは市井で暮らしていたのだ。
それが突然貴族令嬢として学園に放り出されたれ、人の婚約者や恋人を奪わなくてはならなかったなんて……とても心細かっただろう。
だから私だけでもあなたの味方だって伝えたい。
あなたのおかけで私も強くなれたんだと。
「エリー聞いて」
「っ」
「私がここに来たのはね、あなたが私の大切な友達だからよ。それ以上でも以下でもない。これが私の本心よ」
「……友達?」
「そうよ。私はエリーのことを友達だと思っていたのだけど……エリーは違う?」
「わ、私はシェリアが友達だったらいいなって……」
そう言って照れるエリーがあまりにも可愛くて。
「本当に?それなら私たちは両想いね。ふふっ、嬉しいわ!」
「きゃっ!シェ、シェリア!?」
私は嬉しさのあまりエリーに抱きついた。
今の喜びを表現するにはこれしか思いつかなかったのだ。
「あっ、ご、ごめんなさい。嬉しくてつい……」
さすがに抱きつくのは嫌だったかもしれない。
これで嫌われたらどうしよ――
「えっ!?」
嫌われる心配をしていたら、まさかエリーから抱きついてくるなんて。
これは嫌われていないってこと?でも……泣いてる?
「……ねぇシェリア」
「……何?」
「あのね……ありがとう」
「!」
「助けに来てくれてすごく嬉しかった」
「……エリーを助けることができたのはエセル様がいたからよ。私一人では何もできなかったわ」
エセル様がいなければこうして無事にエリーを助けられなかっただろう。
「ううん、そんなことない。私のヒーローはいつだってシェリア一人よ」
だけどエリーは私をヒーローだと言ってくれる。
「エリー……」
「悪女のシェリア、すごくかっこよかった。もっと見ていたいくらいだったわ」
「本当に?」
「ええ本当よ」
大して役に立てなかった私を責めるわけでもなく、むしろかっこよかったと褒めてくれる彼女。
……なんだかくすぐったいね。
「一人で抱え込まないでね」
「うん」
「何かあったら相談すること」
「うん」
このくすぐったさにはまだなれないけど……でもこういうのも悪くない。
「これからよろしくね、エリー」
「うん。こちらこそよろしくね、シェリア」




