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「嘘……」
……ちょ、ちょっと待って。今のは聞き間違い?
それとも私の切実な願いによって生み出された幻聴?
だって婚約破棄って、婚約を破棄するってことだよね?
え。そんな一言で婚約破棄ってできるものなの?
「はっ!嘘なんてつくわけないだろう?俺はお前との婚約を破棄して、新たにエリーと婚約するんだからな!」
「……エリーですって?」
学園でその名前を知らないものはいない。
ついさっき、昼休みにもその名前を耳にしたばかり。
どうやら気づかぬうちに、この男も彼女の毒牙にかかっていたらしい。
……まぁこれまでこの人が何をしていようとも、全然気にしてなかったからなんだけどさ。
それにしても彼女、こんな男にまで色目を使うなんて……逆にすごいわね。
「ダサくて冴えないお前とは違って、エリーは美しく華やかでこの俺にふさわしい!」
「……」
えっと、これは本気で言ってるのかな?
あの彼女がこの男と婚約ですって?それは絶対にないでしょ。
間違いなく彼女は、こんな男で満足するようなたまじゃない。
きっとこの話はこの男が勝手に言っているだけで、婚約破棄なんてあり得な――
「いくら婚約破棄されたからってエリーに嫉妬するなよ?女の嫉妬ほど醜いものはないからな」
「……は?」
はい?この男は何を言ってるの?え?私が嫉妬?
それこそ絶対にあり得ないんですけど!
誰がこんな、人の夢の邪魔をして金を貪るだけの男に嫉妬するっていうのよ!
寝言は寝てから言ってくれないかしら。
……ああ、今なら昼休みの彼女みたいに汚らわしいモノを見る目ができそうな気がするわ。
はぁ……こんな男が婚約者だなんて……そりゃあ恋なんてできるわけないじゃない。
「じゃああとはお前の方で処理しておけよ?」
それに言うだけ言ってあとは丸投げって……信じられない。
婚約は家同士の約束だ。それを一方的に破棄するなんてできるわけ……いや、待てよ。
私は最初からこの婚約を望んでいない。
それに両親だって特にこの婚約を望んでいるわけじゃない。
ただものすごーくお人好しな両親が、相手からのごり押しを断れなくて婚約しちゃっただけ。
だから我が家としては、婚約破棄をしたとしても何の問題もない。
……それならこのチャンス、ものにするしかないんじゃない?
(たしかアレが鞄の中に……)
私は急いで鞄に手を伸ばし、ガサゴソと中身を探すと……
「あった!」
そう言って私が鞄から取り出したのは一枚の封筒。
「な、なんだ?」
ルース様は戸惑っている。そりゃ突然封筒を出されても何のことだか分からないだろう。
でも私は今すぐに喜びを全身で表現したい気分だ。
「それではこちらにサインを」
封筒を開け、そこから一枚の紙を取り出す。
ここで油断しちゃダメよ、私。
完璧に、そして最後までちゃんと演じきらないと。
「これは?」
「これは私たちの婚約に関する書類です。そして、えーっと……ここ。ここに私とルース様がサインをすれば婚約を解消することができます」
「そうなのか?」
「はい」
さぁ、さっさとサインを……
「……どうしてそんなモノをお前が持っているんだ?」
チッ。
頭が少ーし弱いルース様なら、今の説明だけでいけるかと思ったんだけど残念。
まぁごもっともな疑問ではあるんだけど。




