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「悪女?」
「もちろん本当に悪女になるわけじゃない。悪女を演じるんだ」
「悪女を演じる……」
「そう。君は男爵家の娘に婚約者を奪われた悪女。悪女にそんな愚かなことをすれば、当然報復が待っているだろうね」
「!」
なるほど。エセル様が何を言いたいのか分かった。
私が悪女 ……未知の世界だ。
でもやらねば。演じることが唯一私にできること。
「さぁ着いたよ」
「!」
エセル様の声にハッとする。
窓の外を見ると、そこには小さな屋敷が。ここがラストル男爵家のようだ。
「私はここで待っているよ」
エセル様がいれば、すぐに問題を解決できるだろう。
でも私の個人的な都合に、王家の威光を利用するなどもってのほか。
これは私の問題だ。私の力で解決しなければ意味がない。
「分かりました」
馬車を降り、門の前に立つ。
果たして間に合ったのか。またエリーに会うことができるのか。
「エリー……」
祈るような気持ちで歩みを進めていく。
そうしてあともう少しというところで、声が聞こえてきた。
『離して!』
今のはエリーの声だ。よかった、まだここにいた。
『いい加減にしろ!お前が金持ちの男を連れてこないのがいけないんだろう!』
『あんたの借金なんて私には何の関係もないでしょ!』
『はっ!そんなこと言っていいのか?お前の母親の骨なんて捨ててもいいんだぞ?』
『くっ……』
しかし状況はあまりよくはなさそうだ。
早くエリーを助けないと……
そう思い扉に近づいたその時、
――バンッ!
「ほらさっさと歩け!今から夫の元に連れていってやるんだからな」
「嫌!離して!」
勢いよく開いた扉から、腹が大きく飛び出た男とエリーが姿を現した。
エリーは男に腕を捕まれている。痛そうだ。
「……ん?一体ここで何をしている!」
その様子を見ていた私に男が気づいた。
さぁここからだ。
「ごきげきげんよう。あなたがラストル男爵かしら?」
「あ?なんだお前は。学園の生徒のようだが……」
「シェ」
エリーも私に気がついた。
でもここでエリーと親しげに話すわけにはいかない。
どうか気づいてと目で合図を送る。
「!……」
よかった。気づいてくれたようだ。
しかし目には戸惑いの色が見える。
どうしてここにと言いたげだ。私も聞きたいことがたくさんある。
だから今はこの場を乗りきらなければ。
「私はあなたの娘に用があって来たの」
「娘にだと?」
「ええ。あなたの娘にお礼をしなければと思ってね」
「お、お礼ですか?」
お礼と言った途端男爵の態度が軟化した。きっといい意味でのお礼だと思っているのだろう。
もしかしたら金が手に入るかもしれないと。
でもそれは勘違いだ。
「あ、あの、あなたはどちらの家の……」
「ああ、私はハジェット伯爵家の者よ」
「ハジェット!」
大して権力もない我が家の名前を聞いて喜んでいるのをみると、予想は当たっているようだ。
我が家はお金だけはあるからね。
「それで?娘はどこにいるのかしら?」
「あ、ああ!大変失礼しました。こちらにいるのが我が娘です」
そう言ってエリーを前へと付き出した。
見える範囲ではあるが、どこか怪我をしているような様子は見受けられない。
しかし髪は乱れ、服は汚れている。
「あら、エリーさん。その姿はどうしたの?」
「あっ……これは」
「いや、見苦しくてすみませんね。娘はちょっと抜けておりまして、先ほどうっかり転んでしまったんですよ。ははは!」
おそらく無理やり連れ出そうとしたのだろう。
そしてエリーはそれに抵抗した。
先ほど聞こえたやりとりからも、エリーがこの結婚を望んでいないことは分かる。
さぁ、ここからが悪女の見せ場だ。




