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「顔が赤いよ?」
「っ!こ、これはエセル様が」
「照れるシェリアもかわいい」
「~~っ、もうエセル様!」
「ははっ、ごめんごめん」
そんなやり取りのあと、エセル様から詳しく話を聞いた。
話によれば、エリーは父であるラストル男爵とメイドだった母との間に生まれた子どもで、ラストル男爵は遊びで手を付けたメイドが身籠ったのを知ると、身一つで屋敷から追い出したのだそうだ。
それでもエリーの母親は一人で子を産み、一人でエリーを育ててきた。
しかし二年前、穏やかに暮らしていた親子の前に再びラストル男爵が現れる。
ラストル男爵は多額の借金を抱えており、その借金を返済するために昔捨てたメイドが生んだ子どもを使うことを思いついたのだ。
エリーを学園に通わせ、そこで金持ちの子息を捕まえ結婚させる。そうすれば借金はなくなり、さらには支援まで……
エリーの容姿は非常に整っている。これなら貴族子息にも見初められるかもしれない。
そうして母親を人質に取られたエリーは、学園で男を次々とろう絡するしかなく。
ただ私たちの年頃では、婚約者や恋人がいるのが当たり前。
だからエリーはすでに相手がいる人を狙うしかなかった。
そしてその結果生まれたのが、悪女エリー・ラストルというわけだ。
「だけど彼女の母親はつい一月程前、病気で亡くなっている」
「一月前……あ」
そういえばあの時、エリーは「お母さん」と言っていた。
まさかそんな理由があったなんて……
「人質だった母親が亡くなったのにもかかわらず、彼女が男爵の元から逃げないのは、おそらく母親の遺品や遺骨をたてに脅されているのだろう。返して欲しければ金持ちの男を連れてこいとね」
「ひどい……」
なんて卑劣なのか。
親子二人の幸せを壊し、挙げ句には母親も未来も奪おうとするなんて。
「でも今回、いつまで経っても男を連れてこない娘に男爵が痺れを切らしたみたいでね。以前から彼女を後妻にと望んでいた金貸しに嫁がせることにしたんだ」
「でもそれって……」
「そう。結婚なんてただの方便。実際は借金のかたに売られるってこと」
「そんな!」
「退学届けを出したのが昨日。それなら今日にも彼女は連れていかれてしまう可能性がある」
「っ、エリー……」
エリーはいつも笑っていた。だからまさかそんな深刻な事態になっているなんて思いもしなかったのだ。
そしてそれにまったく気づかず、友達ができたと浮かれていた自分に腹が立った。
膝の上に置いた手に力が入る。
手のひらに爪が食い込むが、エリーの受けた痛みを思えばこんなもの痛くもない。
どうすればエリーを助けられる?
どうすれば……
「大丈夫」
力強く握り込んだ手に、そっと暖かな何かが触れる。
何かと視線を手に向けると、そこには私の手を優しく包み込む大きな手が。
「あ……」
触れる彼の手から感じるたしかな温もり。
「シェリアなら彼女を救える」
どうしてだろう。
つい先ほどまでは自分は何もできない、そう思っていたのに、彼の言葉を信じたいと思うのは。
「私が?どうやって……」
「それはね……君が悪女になるんだ」




