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私の名前はシェリア・ハジェット。イルミナス学園に通う二年生だ。
家は一応伯爵位を賜っているけど、権力なんてものには無縁の家。
私自身も権力、名声、名誉……そういった類いのものには一切興味がない。
ただそんな私にも夢はある。それもとてつもなく大きな夢が。
私の夢……それは王都一、いや国一番の役者になること!
貴族令嬢が何を馬鹿なことを言ってと、笑われることは分かっている。
でも私はどうしても役者になりたい。
あの日見た彼女のように、スポットライトの中央で輝く存在になりたい……そう思ってこれまで日々努力してきた。
令嬢たちには馬鹿にされたけど、さっきのあれだってそう。
だって演技の幅を広げるためには、たくさん表現を身につけないといけないでしょう?
だからああやって色んな人のやりとりを参考にさせてもらっていたのだ。
え?あのやりとりが参考になるのかって?
それに対する答えは、イエスだ。
舞台で人気の演目と言ったらやっぱり恋愛もの。だから私みたいな恋愛初心者にはすっごく参考になる。
だって平坦な物語は見ていてもつまらないでしょう?
山あり谷ありあるからこそ、見ている人を楽しませることができると思う。
最近はそういう演技も上手く演じられるようになってきたって、自分自身手応えを感じているところ。
……ただ恋愛ものの定番かつ醍醐味である、甘~い演技だけは苦手なんだよね。
もちろん苦手だからってそのままいたんじゃ、国一番の役者なんて夢のまた夢。
だから苦手を克服しようと、演技の参考になりそうなカップルを探してはいるんだけど、なぜか学園で見かけるカップルのほとんどが修羅場真っ最中なんだよね……トホホ。
まぁできることなら一番は自分で経験するのがいいんだけど、相手がねぇ……
あ、そうそう。参考にさせてもらう時はもちろんきちんと気は遣っているよ?
邪魔にならないように、ちゃんとはじっこで見学しているし。
でもそんなことを知らない人たちからは、はじうま令嬢だなんて言われているんたたけどね……
はじうまっていうのははじっこで野次馬しているから、らしい。
はじっこにいるのは……まぁたしかにそうなんだけど、野次馬なんて失礼しちゃう。
そんな下品なことをするわけないのに。
……でもね、それを他人に理解してもらおうとは思っていない。
だから誰に笑われようとも、私はこれからも努力をやめるつもりはない。
いつか私が国一番の役者になった時にみんな驚けばいい。
だけど一つだけ。努力だけではどうにもならない問題が存在していて。
この問題を解決しない限り、この夢が叶うことは絶対にないんだけど……
「シェリア・ハジェット!」
午後の授業も終わり、帰り支度をしていると、教室に突然大きな声が響いた。
一体誰がと、みんなその声の主に視線を向けていることだろう。
でも私はそうはしない。なぜならこの声の主が誰なのか嫌でも分かっているから。
「……」
「おい!聞いてるのか?」
なんでわざわざここに来るの?ああ、嫌だなぁ……
でもこれは無視するわけにもいかない状況か。仕方ない。私は役者、私は役者……よし。
「ごきげんようルース様。本日はいかがなさいましたか?」
普段の私からはあり得ないほど、愛想のいい笑顔で挨拶をする。
ほら、これなら文句ないでしょう?
「はぁ。相変わらず冴えない顔をしてるな。いい加減そのダサいメガネくらい外したらどうなんだ」
……相変わらず失礼な人。愛想よく挨拶したっていうのに、文句を言うとか何なのよ。
まぁたしかにこのメガネはちょっとおしゃれじゃないかもしれないけど、あなたには関係ないこと。
それに顔のことは、大した顔じゃないあなたには言われたくないんですけど!……ってううん、ダメね。
できることなら文句の一つくらい言ってやりたい。でも今の私は役者だ。ここはグッと堪えないと。
「……申し訳ございません。何分目が悪いもので、これがないとよく見えないんです」
もちろん嘘です。視力は悪くありません。むしろいいくらいです。
でもそんなことをわざわざ言う必要はないので、これでいい。
この手の人は、謝っておけば勝手に納得してくれるはず。
「まぁいい。もうお前の顔を見る必要もなくなるからな」
ほらね?
こういう俺は偉い!とか、俺が世界の中心!みたいなタイプの人にはとりあえず下手に出ておけばいい……って、あれ?
「……もう顔を見る必要がない?」
「そうだ」
「え?でもルース様は……」
この人は私の婚約者、ルース・カステッド様。
近い将来役者になる夢を諦めて、生涯を共にしなければならない相手……
それなのにこの人は一体何を言って――
「仕方ないだろう?私は真実の愛に気づいてしまったんだからな!」
「……は?」
「彼女こそが私の運命……!だから決めたんだ。私は真実の愛を貫くため、シェリア・ハジェット!お前との婚約を破棄する!」




