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「……エ、エセル様?」
驚くことに、目を開けた先には王太子殿下がいた。
「大丈夫か?」
(えーっと……)
目をつむっていた数秒の間に、一体何があったのか。
私を取り囲んでいた令嬢たちの顔色は悪く、手を振り上げた令嬢なんて今にも気を失いそうなほど怯えている。
そして怯えている令嬢の腕をつかんでいる王太子殿下……なるほど。
こういうのは舞台でも見たことがある。
ようするに今の私はさしずめ、ヒーローに助けられたヒロインってところか。
ヒロインって柄ではないのは分かっているけど、もしかしてこれは王太子殿下が作ってくれた練習の機会なのでは?
それならば逃すわけにはいかない。
「なぜ彼女に手を上げた」
「そ、それは……」
「それにたった一人をこんな大勢で囲んで……一体何をしようとしていたんだ」
鋭い視線と低い声。
普段温厚な王太子殿下の知られざる一面。
「わ、私たちはただ……」
「うっ、うっ……」
中には泣き出す令嬢も。
(本当に怒っているみたい)
演技だと分かっていても、こっちまでドキッとするほどリアルだ。
まさか甘い演技以外もできるなんて……これは負けていられない。
王太子殿下に憧れているであろう令嬢たちには申し訳ないけど、今の私は彼の恋人なのだ。
「エセル様、どうか手を離してあげてください」
「この者は君に手を上げようとしたんだ。それなのに許すのかい?」
「許すわけではありません。ただ」
「ただ?」
恥ずかしい……でもそんな羞恥心は捨てないと。
さぁ覚悟を決めて言うのよ、私。
「たとえ私のためであっても、エセル様が他の女性に触れているのは嫌なんです!」
どうだ、彼は私のモノ発言は!
素の私なら絶対に言えないけど、恋人なら言っても大丈夫だよね?
王太子殿下がこの発言に乗ってくれるとありがたいんだけど……
「……それなら仕方ないね」
そう言って王太子殿下は令嬢から手を離してくれた。
ホッ……よし。ここからうまくこの場を収めて……
「へ?」
しかしどうしてだか令嬢から手を離した王太子殿下が私に近づき、そして肩を抱き寄せたのだ。
(ち、近い!)
昨日も手を繋いだりあーんしたりしたけど、こんなに近いのは初めてで、心臓が激しくドキドキしている。
これは緊張?驚き?
「いいか?彼女は私の大切な人だ。彼女に何かすれば絶対に許さないからな」
ひ、ひぇー!
隣にいるから顔は見えないけど、声から怒っているのが分かる。
「さぁ行こう」
「……ええ。皆様ごきげんよう」
今ここで宣言したことにより、昨日の噂が事実であったと、多くの人に知らしめることができた。
……ただ本当にこれでいいのかな?
王太子殿下は優しく聡明なお方。これまで浮いた話はひとつもない。
もちろん本人の性格もあるだろうけど、一番は体裁を考えてのこと。
だからこんなことで、これまでの印象を悪くしなくてもと思ってしまう。
それとも何か考えがあるのかな。
「さぁ着いたよ」
そんなことを考えているうちに、自分の教室の前にたどり着いた。
あれ以上絡まれないように教室まで送ってくれたようだ。
「ありがとうございます」
「もう少し一緒にいたいけど、もうすぐ授業が始まるから行くよ」
「はい」
「昼食は一緒に食べよう。迎えにいくから待っててね」
きっとさっきの件について話があるのだろう。私もちゃんもお礼を言いたかったからちょうどいい。
できれば今すぐ言いたいところけど、さすがに周囲の目があるから難しいしね。
「分かりました」
……それにしてもあれだけ本気で怒った演技をしたあとなら、引きずっててもおかしくないのに。もういつも通りの優しい殿下に戻ってる。
王太子殿下は気持ちの切り替えまでも思いのままね。はぁ、羨まし――
――チュッ
「それじゃあまたあとでね」
王太子殿下が私の髪にキスを落とす。
(なっ!?)
助けてもらった時もドキドキした。
だけど、それと比にならないほどのドキドキを残し、王太子殿下は去っていったのだった。
ストックがなくなったので更新止まります。




