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伯爵令嬢シェリア・ハジェットの夢~はじうま令嬢は、舞台の上で輝きたい~  作者: Na20


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「……エ、エセル様?」



 驚くことに、目を開けた先には王太子殿下がいた。



「大丈夫か?」



(えーっと……)



 目をつむっていた数秒の間に、一体何があったのか。

 私を取り囲んでいた令嬢たちの顔色は悪く、手を振り上げた令嬢なんて今にも気を失いそうなほど怯えている。

 そして怯えている令嬢の腕をつかんでいる王太子殿下……なるほど。

 こういうのは舞台でも見たことがある。

 ようするに今の私はさしずめ、ヒーローに助けられたヒロインってところか。

 ヒロインって柄ではないのは分かっているけど、もしかしてこれは王太子殿下が作ってくれた練習の機会なのでは?

 それならば逃すわけにはいかない。



「なぜ彼女に手を上げた」


「そ、それは……」


「それにたった一人をこんな大勢で囲んで……一体何をしようとしていたんだ」



 鋭い視線と低い声。

 普段温厚な王太子殿下の知られざる一面。



「わ、私たちはただ……」


「うっ、うっ……」



 中には泣き出す令嬢も。



(本当に怒っているみたい)



 演技だと分かっていても、こっちまでドキッとするほどリアルだ。

 まさか甘い演技以外もできるなんて……これは負けていられない。

 王太子殿下に憧れているであろう令嬢たちには申し訳ないけど、今の私は彼の恋人なのだ。



「エセル様、どうか手を離してあげてください」


「この者は君に手を上げようとしたんだ。それなのに許すのかい?」


「許すわけではありません。ただ」


「ただ?」



 恥ずかしい……でもそんな羞恥心は捨てないと。

 さぁ覚悟を決めて言うのよ、私。



「たとえ私のためであっても、エセル様が他の女性に触れているのは嫌なんです!」



 どうだ、彼は私のモノ発言は!

 素の私なら絶対に言えないけど、恋人なら言っても大丈夫だよね?

 王太子殿下がこの発言に乗ってくれるとありがたいんだけど……



「……それなら仕方ないね」



 そう言って王太子殿下は令嬢から手を離してくれた。

 ホッ……よし。ここからうまくこの場を収めて……



「へ?」



 しかしどうしてだか令嬢から手を離した王太子殿下が私に近づき、そして肩を抱き寄せたのだ。



(ち、近い!)



 昨日も手を繋いだりあーんしたりしたけど、こんなに近いのは初めてで、心臓が激しくドキドキしている。

 これは緊張?驚き?



「いいか?彼女は私の大切な人だ。彼女に何かすれば絶対に許さないからな」



 ひ、ひぇー!

 隣にいるから顔は見えないけど、声から怒っているのが分かる。



「さぁ行こう」


「……ええ。皆様ごきげんよう」



 今ここで宣言したことにより、昨日の噂が事実であったと、多くの人に知らしめることができた。


 ……ただ本当にこれでいいのかな?

 王太子殿下は優しく聡明なお方。これまで浮いた話はひとつもない。

 もちろん本人の性格もあるだろうけど、一番は体裁を考えてのこと。

 だからこんなことで、これまでの印象を悪くしなくてもと思ってしまう。

 それとも何か考えがあるのかな。



「さぁ着いたよ」



 そんなことを考えているうちに、自分の教室の前にたどり着いた。

 あれ以上絡まれないように教室まで送ってくれたようだ。



「ありがとうございます」


「もう少し一緒にいたいけど、もうすぐ授業が始まるから行くよ」


「はい」


「昼食は一緒に食べよう。迎えにいくから待っててね」



 きっとさっきの件について話があるのだろう。私もちゃんもお礼を言いたかったからちょうどいい。

 できれば今すぐ言いたいところけど、さすがに周囲の目があるから難しいしね。



「分かりました」



 ……それにしてもあれだけ本気で怒った演技をしたあとなら、引きずっててもおかしくないのに。もういつも通りの優しい殿下に戻ってる。

 王太子殿下は気持ちの切り替えまでも思いのままね。はぁ、羨まし――



 ――チュッ



「それじゃあまたあとでね」



 王太子殿下が私の髪にキスを落とす。



(なっ!?)



 助けてもらった時もドキドキした。

 だけど、それと比にならないほどのドキドキを残し、王太子殿下は去っていったのだった。


ストックがなくなったので更新止まります。

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