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デートという名の特訓を終えた翌日。
いつものように学園に行くと……
「ちょっと!どういうことなのよ!」
まぁこの展開は予想していました。
おそらく私は時の人になっているだろうって。あ、もちろんよくない意味でね。
そしてその予想通り、朝からご令嬢たちに絡まれています。
「どうしてあんたが王太子殿下と一緒に街にいたわけ?」
ごもっともな質問です。
なんせ昨日のデートは一切の変装はなし。私も王太子殿下も、学園を出た時のままの姿だったわけで。
これが私一人だったのなら誰も気にしないけど、いかんせん王太子殿下は目立つ。
輝く金髪に王家の証である碧眼、それに容姿も極上……馬車から降りた瞬間にバレました。
あの時の歓声――というよりも悲鳴と表現する方が正しい?――はすごかった。
そんな周囲が王太子殿下の隣にいる女に気付かないわけもなく。
王太子殿下と手を繋いでいるあの女は一体誰なのか……それはそれは女性から羨望と嫉妬の視線を集めまくりましたよ。
多分一生分くらいかな……お腹いっぱい。
まぁそれが昨日のデートの目的の一つだったから、気にしたり落ち込んでいたりはしないのだけど。
面倒な縁談を回避したい王太子殿下と、恋人役のクオリティを上げたい私。
そのためには私たちが恋人(演技)であることを、周囲に知らしめる必要があったのだ。
変装なしの王太子殿下が、突然街に現れれば間違いなく噂になる。さらにこれまで浮いた話の一つもなかった殿下の隣に、女の姿があればなおさらのこと。
そして街に学園の生徒がいれば言わずもがな。こうしてあっという間に、学園内で噂になっているというわけだ。
「ねぇ、聞いてるの?」
そして今現在、教室に向かう廊下で五人の令嬢に取り囲まれている。
「あ……はい」
王太子殿下の恋人役になるからには、当然平穏な学園生活とはおさらばになるのは分かっていた。現に今こうして絡まれているしね。
え?それでいいのかって?
もちろん面倒だよ?女同士って色々あるし。
でも構わない。
これまでは婚約者という足枷のせいで、夢の続きを見ることができなかった。
だけど今は違う。夢を諦めなくていい。
それならじっとしているなんてもったいない。
役者は経験を積んで成長するもの。
私はこれから世間の荒波に揉みに揉まれ、もっと成長してやるんだから!
「それで、まさか王太子殿下とデートしていたなんて言わないわよね?」
その手始めがこれってわけね。
こういう時はどう対応するのが正解なんだろう。
実際はデートでもなんでもなく、ただ演技の練習をしていただけ。まぁそんなこと言えるわけないけど。
それにしても昨日のデート……うん、なかなか刺激的だったね。
もちろん勉強にはなったけど、おかげさまで昨夜は一人羞恥で悶えましたよ。
私はこれまで数えきれないほどたくさんの舞台を観てきた。
だからたとえ恋愛経験はなくても、恋人ってこんな感じなんだろうな~という形はなんとなくあった。
……あったんだけど、昨日のデートで私のそれは間違っていたことを思い知りましたよ。
ただ手を繋ぐだけなのになぜか指を絡ませてくるし、
(私の知ってるのと違う!)
一緒にお茶をしても、お茶を飲まずにずっと私の顔を見ているし、
(お茶が冷めちゃう!)
なんならケーキを『あーん』って……
(いや、自分で食べられますから!)
ちょっと歩いてお茶しただけなのにこれです。
もちろん練習だから私も本気でやったよ?
でもレベルが違いすぎた。王太子殿下は浮いた話なんてなかったはずなのに、手慣れているというか……きっと婚約者のおかげなのかな。
それだけ婚約者を愛しているのだろう。
それなのに期間限定ではあるものの、王太子殿下の恋人を名乗るのは婚約者さんに申し訳ない気持ちになる。
でもこれは契約だ。
やると決めたからには最後までやりとげなければ。
「ええ。その通りですけど……何か問題でも?」
周囲にいる生徒たちも気になっているようだし、ここははっきりさせておこう。
そうすればあとは勝手に話を広めてくれるはずだ。
「なっ……なんて生意気なの!」
「あなた何様のつもりよ!」
「そんな嘘をついて、ただで済むと思っているの!?」
まぁ信じたくない気持ちは分かる。王太子殿下はみんなの憧れだもんね。
でも残念なことにこれは嘘なんかではなく、紛れもない事実なのだ。
「そう言われても、私はただ事実を言っただけですし」
この令嬢たちが誰かは分からないけど、王太子殿下の恋人ならおどおどした姿を見せるべきではない。毅然とした態度でいないと。
……まぁそのせいで手を上げられる可能性はあるんだけど。
「っ……はじうま令嬢のくせに口答えするなんて!」
そう言って一人の令嬢が手を振り上げた。残念ながら予想通りになってしまったらしい。
ぶたれる覚悟をして目をぎゅっと瞑る。だが……
(……あ、あれ?)
いくら待っても衝撃が来ない。あの勢いならもうぶたれててもいいはずなのに。
そう思いそっと目を開けてみると……




