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「どうやってか。うーん……」
そう言って黙ってしまった王太子殿下。
やってしまった。気にせず聞いていいと言われたからって、それを真に受けてはダメだったんだ。
「も、申し訳ございません!とんだ失礼なことを……」
「あ、違う違う!失礼だなんて思ってないから。ただなんて言えば言いかなって悩んでただけなんだ」
「……そう、なんですか?」
「うん、そうだよ。だから本当に気にしないで。ね?」
「っ!わ、分かりました!」
「よかった」
もう本当にこの人は……ねぇ、確信犯なんですか?
わざわざ最後に微笑まなくたって……それもあんな極上の微笑みを。
あんな顔を見たら、誰でも勘違いしちゃうでしょうに。
私は王太子殿下が演じているのを知っているから勘違いしないけど、それでもさすがに今のはドキッとしてしまった。
「それでさっきの質問の答えなんだけど、私は立場上どうしても普段から演じることが多くてね」
「それは……大変ですね」
普段から演じる、か。
私は演じることが好きだから、役者の道を志したけど、そうではない人が普段の生活から、自分を押し殺して仮面を被らなければならないのはすごく疲れそうだ。
「まぁ本当はこういうことは言うべきじゃないんだろうけどね。でもそれなりに楽しんでやっているから特段大変ではないかな」
「そうなんですか?」
「うん。まぁそう思えるのは、近くに最高のお手本がいたからなんだけどね」
「お手本……」
お手本とは家庭教師のことを言っているのだろうか。
でも演技を教える家庭教師なんて聞いたことはないし、一体誰が彼に演じることを教えたのか。
「もしかして気になる?」
「あっ!えっと……はい」
そりゃあもちろん気になる。
できることなら私もその人から教えを乞いたいくらいだし……
「そっか。それじゃあそのうち会わせてあげるよ」
「えっ!?い、いいんですか!?」
相手の許可は……ってそうだった。
この人は王太子。許可なんて必要なかったね。
「もちろん」
「わぁ、ありがとうございます!」
王太子殿下の師にとっては迷惑な話だろうけど、ぜひ会って極意を学ばせてもらおう!
ああ、今からその日が楽しみだ。ふふふ……
「……君と出会ってから演技なんてしていないんたどね」
「え?何か言いましたか?」
「ん?なんでもないよ。あ、ほら着いたみたいだね」
「あ……」
気づけばいつの間にか馬車は止まっている。どうやら目的地である街に着いたようだ。
「さぁお手をどうぞ」
差し出される美しく大きな手。
この手を掴んだら、私は王太子殿下の恋人になる。
そうなればきっとこれからの生活は一変することになるだろう。
心ない言葉を投げられたり、もしかしたら嫌がらせをされるかもしれない。
でもそれがなんだっていうのか。
覚悟?そんなものは昨日のうちに済ませておいた。
諦めていた夢に手を伸ばせるところまできたのだ。
ただ始まりはどうであれ、これがチャンスであることには間違いない。
それならこのチャンスをものにして、私は役者としてさらに成長してみせようじゃないか。
私の夢は国一番の役者になること。
これくらいは乗り越えてみせないとね。
さぁ演じるのよ。私は王太子殿下と運命的な恋に落ちた女。
「ええ、行きましょう……エセル様」
「……ああ、行こうか。シェリア」




