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馬車に乗り込み、王太子殿下が口を開いた。
「街に着くまでまだ時間があるから、少し話をしようか」
「あ、はい。お願いします」
「私たちの設定なんだけど、先日運命的な出会いをして互いに恋に落ちたっていうのはどうだろう」
「運命的な出会い、ですか……」
運命的……というよりか衝撃的の方が正しいと思う。
わざわざ言わないけど、木に抱きつく女を見てしまった殿下の心境は間違いなく衝撃的だっただろう。
でもまぁ真実がどうであれ、恋人役を演じるからには運命的の方がロマンチックだ。
どうせ私たちの本当の出会いなんて、誰も知らないのだから。
「いいと思います」
「よかった」
「ですが、もし詳細を聞かれた場合はどうすればいいでしょうか」
演じる上で役の設定はとても大切なことだ。だけど、今回の場合はあまり設定を盛り過ぎると身動きが取れなくなる可能性もある。
だから詳細はある程度ぼかした方がいいと思うのだけど……
「そうだね……『二人の大切な思い出だから秘密にさせてほしい』……これでどうかな?」
「っ……い、いいと思います!」
「それじゃあこれでいこうか」
「はい……」
……す、すごかった!
色気というかなんというか……ただの設定だって分かっているはずのに、本当に好きな人との大切な思い出なんだなって納得しそうになってしまった。
どうして王太子殿下はこんなにも演技がうまいんだろう。
やっぱり上に立つ人って、誰でもこんななの?
「……その」
「ん?何か分からないことでもあったかな?」
「あ、えっと……」
聞いてもいいのかな?でもこんなこと聞いたら失礼なやつって思われたりしない?
「気にせずなんでも聞いてほしいな」
うっ……や、優しい。
類いまれなる頭脳に美しい容姿。性格も非の打ち所がないし、それでいて尊い血筋であるにもかかわらずおごったところはまったくない。
それに演技の才能も持っているだなんて……まぁだからこそ、この笑顔の下にどんな打算を隠しているかは分からないけど。
ただなんでも聞いてもいいと言うのなら、ここはお言葉に甘えさせてもらおう。
「その……殿下はずいぶんと演じることがお上手なようですが、それはどうやって身につけたのかなと」
これまでたくさんの役者を見てきたから、見る目には自信がある。
そんな私が、一瞬で王太子殿下の演技に魅了された。まるで本当に私を大切な恋人だと思っているかのように。
現実ではあり得ないことだって分かっている。それなのにそんな風に思わせてしまうほどの演技。
きっと王太子殿下が役者を志せば、すぐさま階段をかけ昇りトップスターとなるだろう。
だけど彼は王太子。一生役者になることはない。
それなら今はとてつもないチャンスなのでは?
不本意な始まりだったけど、今の私は王太子殿下の恋人役。
だからこうしてでそばにいる間に、少しでもその極意を自分の物にすることができれば……え?それはずるいって?
いやいや、そんなことはない。役者の世界ではよくこう言われるのだ。
『背中を見て学べ』ってね。




