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「……その」
「ん?」
「王太子殿下の事情は理解しました。ですが先ほど利害が一致したとおっしゃってましたよね?一体私には何の利益があるのでしょうか」
王太子殿下に利益があることは分かった。
でも私には?
引き受けるしか選択肢はないけど、それならばせめて利益は明確にしてもらわないと……
「あれ?さっき言ったよね?」
「え?」
さっき言ったって……
「君は私の恋人役だ。だから私に恋をしている演技をしなくてはならない。でもね、それは私も同じさ」
「!そ、それって……」
「そうだよ。君は演技力を磨くために私を利用すればいい。悪い話じゃないと思うんだけど……」
嘘……さっきの言葉は本気だったの!?てっきり冗談だと思っていたのに……
まさか私が得られる利益が、練習相手だなんて!
喉から出るほど欲しい。でも相手は王太子殿下だしさすがに……いや、でも?
いくら命令だとしても、これは歴とした契約になるんだよね?
それなら双方に利益があって然るべき……だよね?
「どうかな?」
うっ……そんな美しい顔で微笑むのは反則でしょ!
この人絶対分かっててやってる。どんな表情をすれば人の心を揺さぶれるのかってね。
「……王太子殿下は役者に向いてますね」
「そうかな?まぁ生まれた頃から身近にそういう人がいたからかもね」
生まれた頃から?
それって幼い頃から多くの観劇に触れていたってこと?
羨ましい。
こちとら幼い頃から資金管理で忙しかったし、王家からのお達しのせいで自由に過ごせなかったっていうのに……いや、違うか。
これはただの嫉妬だ。才能の塊である王太子殿下がただうらやましいだけ……うん、やめよう。
そんなこと考えるだけ無駄だ。いくら考えたって、私は私でしかない。
生まれ持った才能を羨んでいる暇があるなら、その時間も努力しないと。
そうじゃなければ、国一番の役者になるなんて到底無理な話だ。
たしかに王太子殿下の話にはメリットがある。
でも当然デメリットもあるわけで。
正式な婚約者が発表されたら、私は王太子殿下に捨てられた哀れな女となる。
そうなれば今後確実に良縁は望めないだろう。
それに安全面。果たして私の身の安全はどの程度保証されるのか。
王太子殿下の恋人役となれば、私は多くの女性から目の敵にされることは間違いない。
陰口を言われるくらいならどうってことはないが、痛かったり苦しかったりするのは嫌だ。
ただ王太子殿下がその辺りをどう考えているかまでは分からない。
殿下からしてみれば、私はちょうどいいタイミングに現れた都合のいい女。
ただれだけのこと。
きっとそのあとのことなんて気にもしていない。
だから最終的に私が得られる利益は少ないだろう。
(……ただそれでも)
どうせ婚約解消した身だ。元より良縁なんて望めない。
それに私は役者として身を立てることを望んでいる。それなら結婚しない方が好都合。
だから哀れな女になろうとも構わない。
「……分かりました」
「!」
「そのお話、お受けします」
それよりも今私が一番望んでいるのは、演技力の向上。
それなら王太子殿下であろうと利用できるものは利用しないと。
「よかった。じゃあ早速詳しい打ち合わせなんだけど……あーそろそろ休み時間も終わりそうだからまた明日にしようか」
「えっ、もうそんな時間……!」
ここは学舎から遠い。急がなければ授業に遅れてしまう。
「あ、明日ですね!分かりました!それでは失礼します!」
「それじゃあ明日の放課後またここでね。……シェリア嬢」
「え」
やっぱり私の名前……
「ほら、急がないと授業に遅れちゃうよ?」
「はっ!し、失礼します!」
そのあとなんとか授業には間に合ったものの、名前のことで頭が一杯で、内容はまったく入ってこなかった。
◇
「つ、疲れた……」
学園から帰ってきてすぐ、ベッドに倒れこんだ私。
え?はしたないって?そんなの分かってる。
でも今日はあまりにも精神的負担が多すぎた。
「はぁ……これでよかったのかな……」
てっきり私のことなんて知らないと思ってたのに、本当は知っていて声をかけたの?
そんな素振りはなかったのに……それすらも演技だったり?もしかして私、早まっちゃったり?
「……ううん。もう考えるのはやめよう」
やると決めたのだから、今さら悩んだってもうどうにもならない。
それなら少しでもいい結果に繋がるよう、努力するしかないのだ。
――パチン
「……よしっ!がんばれ私」
頬を叩き気合いを入れる。
まずは明日。話はそれからだ。




