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『お前との婚約を破棄する!』
小説や台本でよく見かける、陳腐でありきたりな台詞……
まさかこの台詞が、私の運命を大きく変えることになるなんて思いもしていなかった。
◇
ここはイルミナス学園。多くの貴族子女が通う由緒ある学舎だ。
イルミナス学園を卒業することは、貴族にとって重要なステータスとなる。
しかしたとえそんな場所であっても、人が多く集まると様々な人間模様が生まれるもので。
今日も今日とて、この由緒ある学舎に似つかわしくない台詞が飛び交っていた。
『俺が愛しているのは君だけだ!』
『じゃあどうしてあの女と腕を組んで歩いていたのよ!』
『それは……そ、そうだ!ぐ、具合が悪かったから!だから腕を貸しただけなんだ!』
どうやら浮気がバレて彼女に問い詰められている、そんな場面のようだ。
(うーん……)
そしてそんな場面を、少し離れた場所からじっと見つめる人間が一人――それがこの物語の主人公、シェリア・ハジェットである。
「……あれはないでしょ」
今のは誰が聞いても嘘だって分かる。というかなーにが『そうだ!』なのよ。
彼女がそんな思いつきの嘘に気づかないわけないでしょう。
それにあんなに目を泳がせちゃって……
あれじゃあ私は嘘をついてます、って言ってるようなものじゃない?
『あら?そのあとカフェで仲良くパフェを食べていたのはどこの誰かしら?』
『ど、どうしてそれを!……あっ、いや、その……』
ほらね。
どうして男の人って、すぐにバレる嘘をつくのかしら。
その場さえ乗り切ればなんとかなるとでも思っているの?
はぁ、彼はダメね。
『あんな下品な女に鼻の下を伸ばすなんて……』
でも彼女はいいわ!
あの汚らわしいものを見る目……練習すれば私にもできるかしら?
『なっ!エリーは下品な女じゃ――』
――バチーン
……あら、すごくいい音。
臨場感を出すにはやっぱり本気でやらないとダメよね。
フリだとどうしても盛り上がりに欠けちゃうもの。
『もうあなたとはおしまいよ!さようなら!』
『ま、待ってくれ!』
あ、終わったようね。
浮気男に別れを突き付けて颯爽と立ち去る彼女……すごくかっこいい!
最近はこういった強い女性が主人公の作品も増えてきたし、とても参考になったわ。
『うぅ……どうしてこんなことに……』
それに比べて彼の方は……あら、みっともなく泣いてる。
泣くくらいなら、最初から浮気なんてしなければいいのに。
残念だけどさすがに参考にできないわ。ヒーローは王道の王子様が人気だから、あれじゃあちょっとねぇ……
あーあ。どこかにいないかしら。王子様のような素敵なヒーロー……
「……ってもうこんな時間!」
色々と考えているうちに、先程の彼の姿はなくなっていた。
それに時計を確認すると、もう間もなく昼休みが終わろうとしてる。
そろそろ教室に戻らないと、午後の授業に遅刻してしまう。それは避けたい。
「急がないと!」
開いていた手帳を閉じ、急いで立ち上がろうとしたその時だった。
――クスクス
「ねぇ、あれ見て」
「またやってるわよ」
「いやね。これだからはじうま令嬢は」
立ち上がろうとした足が止まる。
……またか。
この令嬢たちは、あえて私に聞こえるように話をしているらしい。
「大人しそうな顔してねぇ?」
「しかもわざわざ端っこで」
「私なら恥ずかしくてあんな下品なことできないわぁ」
「「「おほほほほ」」」
嘲笑い通り過ぎる令嬢たち。私はグッと手を握りしめた。
……好きなだけ言えばいい。
誰かに理解してほしいなんて端から思ってない。それにこれは私の夢のために必要なこと。
だから落ち着け、落ち着くんだ。大きく息を吸って、吐いて……
「……よし。教室に戻らないと」
授業に遅れるわけにはいかない。
再び足に力を入れ立ち上がった私は、急ぎ教室へと向かった。




