第72話 陰陽師の先輩達と降下作戦
アリサさんは歌の練習をしたいとか言ってたけど、それどころじゃなくなってしまった。
昼は作戦のため訓練。夜はダンジョンアタックと忙しすぎた。
「やっぱり参加するとか言うんじゃなかった……」
アリサさんの顔が少し青ざめていた。
「散々訓練したじゃないか。大丈夫だって」
「そうだけど……やっぱり陰陽師って普通じゃないわ……」
俺達は今、国境都市アザトスが一望できる山の上に立っている。
望遠の魔法を使って、実際に都市の様子を見ると、改めて国境都市だってわかった。
高く分厚い城壁が都市を囲み、城壁の上には、バリスタや投石器が置かれていた。
俺達からすると、城壁なんてあってないようなものだけどな。
この世界には飛行魔法があるから、上から攻撃すればいい。
しかし飛行魔法が使える魔導士は少なく、飛行魔法を制御しながら、強力な魔法を放てる魔導士はもっと少ないらしい。
俺達がポンポンとスキルや魔法を閃くのは、やっぱり普通じゃないらしいな。
城壁の外側には、都市を囲むように巨大なゴーレムが配置されていた。その数三十二体だ。城壁の内側にも、中型のゴーレムや石造の魔物――ガーゴイルの姿がいくつも見えた。
「まるで石像のテーマパークだな」
「都市の中にいるのがやっかいだね」
「そうだな。住民って避難してるんだよな?」
「うん。そのはず。逃げられた人はね……」
ゴーレムとガーゴイルの他にも、人型のモンスターがいるけど、今回は無視だ。ゴーレムさえ破壊すれば、後は王女様の戦力でどうにかなる。
「建物をなるべく破壊しないようにってのがキッツイなぁ」
王女様の要望で、都市への被害は最小限に抑えないといけない。ここは国境の都市だから、すぐにでも人を呼んで、守りを固めないといけないらしい。
今回は師匠や真田さん、御影さんも攻撃に加わってくれる。魔王軍襲撃より全然楽だな。
「やあ。秀一君。琴音ちゃん。久しぶりだね」
後ろから爽やかな男性の声がした。
望遠の魔法を解いて振り向くと、狩衣を着た二人の陰陽師がいた。
二人とも二十代前半で、男性の方が真田さん。
見た目は爽やかイケメン。性格も悪くないと思う。
「お二人共元気そうで何よりです」
女性の方は御影さん。黒髪ロングで落ち着いた雰囲気のお姉さんだ。
「お久しぶりです。真田さん。御影さん」
この二人、ダンジョン前で見なかったな。師匠と同じく、他のパーティのサポートでもしてるのかな?
「相変わらずイチャイチャしてるね」
「うへへ。ありがとうございます」
「いや、褒めてないし。僕も彼女欲しいなぁ」
「真田さんなら、すぐにいい人が見つかりますよ」
御影さんがフォローを入れた。
「それって私以外でってこと? 冷たいねぇ。まぁ御影さんはこっちからお断りだけど」
「酷いこと言いますね。流石に傷つきますよ」
「陰陽師は対象外なの! 変な人多すぎなんだよ!」
「私は普通ですよ」
「え? それ本気で……」
御影さんから強烈な呪力が溢れ出した。
「はい。ごめんなさい。とても魅力的なので……えっとお友達から?」
「お断りします」
「酷い! 勇気出して言ったのに!」
「冗談はこれくらいにしないと、沖田さんに怒られますよ」
「それはまずい。あの人おっかないからなぁ」
「誰が怖いって?」
「うあわああぁ!」
師匠が真田さんの後ろから現れた。いつの間に……
「よう。みんな集まったみたいだな。秀一。式神を出しな」
俺はアシリア、ジャネット、シルヴィアを呼び出した。狐鈴も含めて、四人同時は負荷が大きい。
師匠も千葉童子を呼び出し、これで合計十一名だ。でも十一名だ。この人数で国境都市アザトスを奪還するとか、何も知らない人が聞いたら、冗談だと思うだろう。
「んじゃ。降下作戦を開始しますよっと」
師匠は札を取り出すと空中に投げ、印を結び始めた。
「オン・ラヴィナ・シャルカ・マドゥラ・ソワカ! 雲を潮、風を波、空翔る深淵の影! 妖魚召来・天泳怪! 急急如律令!」
現れたのはエイの妖怪だ。
普通なら海底にいる平べったい魚だけど、今は宙に浮いている。しかも大きい。俺達全員が乗っても余裕ある大きさだ。
「よし。お前らバフの時間だ」
俺達は耐寒障壁など各自でかけていく。
そして最後に狐鈴が、強力な防御結界をみんなにかけてくれた。
「ぶよぶよしてきもいよ」
エイに乗り込んだ琴音が顔をしかめた。
「しっかり捕まってろよ。んじゃ、天ちゃんよろしくな」
師匠が声をかけると、エイの妖怪はゆっくり上昇を始めた。
「うひゃあああっ!」
アリサさんが目をつむって琴音に抱き着いた。
エイはどんどんスピードを上げ、どこまでも上昇していく。
もう地上からエイを目視できないだろう。
「ここらでいいか」
エイが国境都市の真上まで移動すると、みんなエイの端まで移動した。アリサさんを残して。
「アリサちゃーん、そろそろいくよぉ?」
師匠は優しく声をかけたつもりだろう。しかし煽っているようにしか見えない。
「大丈夫だって。何もしないまま地面に激突したって、狐様がかけてくれた結界があるから、怪我しないぜ。ってか降下訓練受けただろ?」
「も、もう少しだけ心の準備を……」
「はい時間切れ―!」
次の瞬間、エイが送還された。
足場がなくなり、みんな地面に向かって落下を始めた。
「ひぃぃやああああっ!」
「ギャハハハッ! 超ウケル! んじゃ、みんなよろしくー!」




