第63話 モーニングミーティング
今日の朝はゆっくりだ。
いつもは午前中に集まって冒険に出るけど、今日は夜にダンジョンに潜る予定で、それまで自由になった。だから朝早く起きる必要はない。
それでも朝ごはんはきっちり食べるので、朝八時にギルドの食堂で琴音と待ち合わせしている。
ギルドは享楽之神が作ったプレイヤー用の施設。だから食堂のメニューは現代日本のものだ。
こっちの世界にも、ハンバーグっぽい肉料理や、サンドイッチっぽいパンに具材を挟んだ料理もあるんだけど、名前が違った。
その点、ギルドの食堂だと、ハンバーグって言えば、期待したものが出てくるので楽だ。ただ、少し割高なんだよね。外のレストランとか酒場で食べた方が安い。それでも食堂がギルド内にあるのが便利なんだ。なんといっても外に出ないで食べられる。待ち合わせにも最適なので、多少割高でも、朝はギルドの食堂で食べるのが一番いい。
「やっと来たわね!」
ギルドの食堂で待っていたのは琴音じゃなくて、アリサさんだった。
いつもの四人がけのテーブルを確保して陣取っている。
「おはよう」
「おはよう。琴音ちゃんと狐鈴さんはまだみたいね」
「そのうち来るさ」
俺はアリサさんの真向かいに座った。食事はまだ頼まない。みんながそろってからだ。
しばらく雑談していると、琴音が来て隣に座った。
「おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
「う~。油断して寝坊したよぉ」
「今日はゆっくりだったからな」
「秀ちゃんが起こしてくれればいいんだよ」
「部屋に入れないだろ」
「囁きの呪符も使えないもんねぇ」
「何それ?」
「スマホみたいな呪符だよ。一方的に声を届けるだけなんだけど、お互い持ってたら話せるんだ」
「へぇ。便利じゃない」
「ただ、あの部屋だと呪術も遮断しちゃうから使えないんだよねぇ」
「それは残念ね。狐鈴さんも寝坊かな?」
「昨日遅くまで晩酌配信してたからねぇ」
しばらく雑談しても来なかったので、俺達は先に朝飯を食べることにした。
「ねぇ。まどか達のアーカイブ動画見た?」
「見てないな」
「私も、昨日は疲れて寝ちゃったよ」
夜にライブ配信したから、振り返り配信はしなかった。それに夜遅かったし、風呂に入った後はそのまま寝てしまった。
「まずいわよ。まどかに再生回数抜かれたわ」
「マジか!」
「ええっ!」
「凛にはかろうじて勝ったけど、キャサリンさんとレンさんもすごい伸びてる」
「あっちのパーティーすごいな」
「ランキングイベントがやばいわね。あんた達、二十位以内のカタログギフトを狙っているのよね?」
「あぁ。刀が入ってるから」
「今のランキングは?」
「……四十二位」
「全然だめねぇ」
「どうしよう」
「まどかと凛は元々ランキング上位だったのもあるけど、炎上効果でグングン上がってるのよね。一時的かと思ってたんだけど、二人が同じパーティーに入ってから、すごい盛り上がってるのよ」
「確かにアイドルVtuberが二人いるパーティーってすごいな」
「うちのパーティーだってアリサちゃんと狐鈴の人気がすごいけど……問題は私と秀ちゃんの知名度の低さだよね」
「それな。キャサリンさんとレンさんも結構人気あるしね」
「それだけじゃないわよ。昨日のアーカイブ見たんだけど、やられたわ」
「すごいことしてたの?」
「コスプレじゃな」
狐鈴が遅れてやってきた。トレイの上には雑炊が乗っている。二日酔いにいいのかな?
「おはよう」
「うむ。おはよう。アレの対策会議でもしているのか?」
狐鈴はアリサさんの隣に座って、雑炊を一口食べる。すると耳と尻尾がゾワゾワって逆立った。よっぽど熱かったんだろう。
「そうよ。まどか達、ダンジョンに入ったら着替えていたのよ。まどかと凛は、ステージのアイドル衣装。レン君は白いタキシード。キャサリンさんは……」
「サンバじゃな。アレは強烈じゃったぞ。あやつは一体どこを目指しておるいのかさっぱりじゃな」
サンバか……きっとド派手な衣装なんだろう。金ぴかの衣装であちこちにクジャクみたいな羽根が付いてそう。……戦えるのか?
「配信事故にならないか?」
「露出は控えめじゃったぞ」
「シールドが破壊されたら、即退場だからできる装備ね。私達も対抗するわよ! アイドル衣装はかぶっちゃうし、手始めに学生服なんてどうかしら? 琴音ちゃんって本物のJKだし! 制服でおっきな武器で戦うのってかっこいいじゃない! 中二病が疼くわ!」
「我は魔法少女がよいと思うのじゃが……」
「え!? 俺はどうなるの?」
「もちろん秀一も魔法少女じゃ!」
「馬鹿な!」
「うーん。ネタに走るのはちょっと後がいいかなぁ」
アリサさん、ネタじゃなくて反対しようよ!
「ふむ。ではまずは学生服にするかの」
「私と秀ちゃんはどうしようか? 転移の時は私服だったし。通販サイトで一式揃える? コスプレっぽいけど」
「手当たり次第買って試してみるのもありだな。人気あった奴を頻繁に着ればいいし」
「そっか。なんか制服デートの配信が懐かしいなぁ」
「こっちでもやるか。常夏の島って結構遊ぶところあるし!」
「いいね! デートしよ!」
「ちょっと! 脱線しない! まったくこのバカップルはっ!」
「ごめんごめん」
「琴音ちゃん絶対悪いって思ってないでしょ!」
「そ、そんなことないよ?」
「まぁいいわ。制服は適当にネット通販で買えばいいわね」
「話は聞かせてもらったわ!」
そこへ案内妖精のセレナが現れた。
「島に専門店がオープンしたから、そこで買いなさい」
「え! オープン!?」
普通の衣装は配信用にいくつか買ったことあるけど、コスプレショップなんて確かになかった。
「配信映えするために、あのダンジョンを作ったのよ。当然じゃない。防御力は低いけど、シールド補正が高い品物ばかりよ」
「あの島って物価が高いんだよな」
「ダンジョンでゲットした物を売ればいいのよ」
「そのための宝箱だったりするのか?」
「そのまま使える装備もあるでしょう。使えなかったら売って配信映えする装備を買えばいいのよ」
「なるほどな。やっとダンジョンの仕組みがわかってきた気がする」
「とりあえず行きましょう! ショッピングよ!」
「おー!」
アリサさんが宣言すると、琴音がノリノリで続いた。
狐鈴は興味なさそうにしているけど、尻尾が揺れていた。




