第56話 追放系アイドル ざまぁを決意する
俺達は狼を調伏した森に再び来ていた。目的はこのエリアの探索と、調伏できそうなモンスターを探すためだ。
「いやああ!」
「誰かあああ!!」
風にのって悲鳴が聞こえてきた。
「いくぞ!」
「うん!」
「ええ!」
「聞き覚えのある声じゃな。確か……まどかだったか」
「マジで!? 急ごう!」
俺達は狼を召喚してまたがった。
狐鈴はそのまま宙を舞った。まるで空を駆けるように並走している。狼に負けない速さだな。
そして悲鳴の方角へ、巨木の間を縫うように駆け抜けた。
風の音が耳元をゴウゴウと唸り、木漏れ日が激しく明滅する。
すぐに二人の女性を発見。
一人はまどかさん。もう一人は黒髪ロングの女性――まどかさんと同じく、アイドルVtuberの凛さんだ。
二人を追いかけているのは、緑色の巨大なミミズだ。顔は蛇みたいで、大きさは電車くらいある。
凝視すると、アナライズが発動。『フォレストワーム・レベル50』。結構強いぞ!
「まどか! 凛! こっちよ!」
「狼!? ってアリサァァア! 助けてぇえ!」
「ひいい!」
アリサさんが俺に目配せしてきた。
俺が頷くと、アリサさんが札を取り出した。
「オン・ナーガ・ラージャ・スヴァー! 北方の守護よ、地を鎮め、禍を退けん! 神獣招来! 来たれ! 玄武! 急急如律令!」
巨大な亀が現れ、ひと鳴きすると、フォレストワームの目の前に、見えない結界が現れた。
肺に響く重低音と共に、フォレストワームが結界に激突して跳ね上がった。
俺はババっと印を結び、琴音も俺に続いて印を結んだ。
「オン・ソラソバ・レイマク・サンバラ・カンマン! 火行の理よ、陽炎を纏いし紅蓮の業火となれ! 朱焔爆炎! 急急如律令!」
「オン・ラーダ・インドラ・ソワカ! 天釈の矢、万象を貫かん! 轟雷万貫! 急急如律令!」
炎と雷が絡み合い、フォレストワームを包み込んだ。
「マジカル・バスター!」
そして狐鈴が放ったレーザーがフォレストワームを貫いた。
フォレストワームは真っ二つに裂け、しばらく痙攣した後、動かなくなった。
「た、助かったぁ」
「あんた何休んでるのよ! 他のパーティーメンバーは!?」
「……いないわよ」
「え!? まさか……」
アリサさんがフォレストワームの死体を見る。すでに食われていたのか!?
「最初から私達二人だけよ」
「え? どう言うこと?」
「私達追い出されたの! 追放ってやつ!? ぜったいざまぁしてやるんだから!」
「事情があるようじゃな。ならば一度戻らぬか? 奴らを倒しつつ」
遠くから何かが這いずる音がする。それも複数。
「あぁ。今の戦いの音を聞いて、モンスターが集まってきた」
そして木の間を縫うように、二体のフォレストワームが向かってきた。
「まどかは私の後ろに。琴音ちゃん。凛を乗せてあげて」
「わかった!」
「じゃあ、さっさと帰ろう!」
俺は狼を走らせながら振り返り、追ってくるワームへ術を叩き込む。
「オン・アグニ・ガルダ・ジャラー!」 紅き翼よ、燃え盛れ――朱雀炎羽!」
火の鳥が羽ばたき、くねりながら追いかけてくるフォレストワームの頭部に特攻して、大爆発を起こした。
「オン・ヴァジュラ・サラナ・カヴァチャ・ソワカ! 式札よ、壁となりて厄を退かん! 符壁護陣! 急急如律令!」
隣で琴音が式札で盾を作った。
それに突っ込んだフォレストワームが跳ね返り、あっと言う間に後方に置き去りにして、距離を取ることができた。
「死体の回収は無理っぽいな」
そんなことを言うと、セレナが気まずそうに出てくる。
「ごめんなさい。でもワーム系は美味しくないからお金にならないの」
「それならよし!」
「あんなの食べないし!」
森から出ると、見晴らしのいい場所で一旦休憩になった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「……どうして追放されたの?」
アリサさんがまどかさんに、ちょっと気まずそうに聞いた。
「……言いたくない。切り抜き動画を見て欲しい」
「そんなんじゃ話にならないわよ。心配してるの」
「ちょっといいかい?」
「はい! 早川君!」
「少し前から、まどかさんの切り抜き動画を見てたんだ」
「えっ! ちょっと嬉しいんだけど!」
「前衛が活躍できない形になってた。……たぶん、それが積もりに積もったんじゃないかな?」
まどかさんの表情が揺れた。
「……はい」
「たまにすごく嫌そうな顔をしてたよ」
動画に反映されるアバターって、すごく良く出来てて、表情までちゃんと反映される。
「ぐっ……」
「あんた調子に乗りすぎよ」
「うう……だってぇ! あっちだってよいしょしまくりで、自分の意見、言わないんだもん!」
「大手企業のアイドルVtuberには言いづらいよ」
琴音がボソッと呟いた。
「琴音ちゃん。私には遠慮しなくていいからね! なんならもうアリサでいいからね!」
「アリサちゃんでもいい?」
「もちろん! あ、早川はだめね」
「なんでだよ!」
「琴音ちゃんがいらない誤解をしそうだし」
「うーん。アリサちゃんはちゃんとライン守ってるからもう大丈夫だよ。危険なのは式神の方!」
「アシリア?」
「そう! 新入りもだけど!」
「人と式神の恋愛ってありなの?」
「……わかんない」
「……あの」
「ごめん。まどか。凛も似たような感じ?」
「私は前衛だから、戦闘で目立ちすぎることはないと思うんだけど、まどかのパーティーと一緒に狩するようになって、ウチの魔法使いが目立たなくなったの。色々あってまどかをかばってたら、ギクシャクしだしてね。それなら二人で組めばいいじゃないって、喧嘩別れになったの」
「ごめんよ! 凛ちゃぁぁあん!」
「いいよ。まどか。友達を悪く言う人達とは付き合えない。あの人達よりまどかの方が大切よ。最初から一緒の拠点だったらよかったのにね」
「凛ちゃんありがとおおおお。もう大好き! ちゅっちゅしたい!」
「くっつきすぎ。もうそれがなければもっといいのに」
「残ったパーティはどうなったの?」
「あっちはあっちで統合して大パーティーになったみたいよ」
「ねぇ。アリサ。私達をアリサのパーティーに入れてくれない?」
「うーん。厳しいと思うよ。私でさえ足引っ張りまくりのおんぶにだっこよ?」
「アリサちゃん! そんなことないし! めっちゃ助かってるよ!」
「そうだよ。なんかもう、アリサさんに自信つけたい」
「ありがと」
「めっちゃいい人達じゃん! 推しすぎる!」
「まどか。落ち着きなさい。ごめんなさい。私は迷惑かける気ないから。ただ、どこかパーティーメンバーを募集をしてるところがあったら、教えて欲しいな」
「少人数パーティーなら師匠のところかな?」
「師匠ってキャサリンちゃんとレンちゃんの面倒見てるけど、ずっとパーティーにいるわけじゃないよね」
「それなら頼めるかなぁ?」
俺達は少し早めに切り上げて、いつものレストランで師匠達の帰りを待った。
今日もキャサリンさんとレンさんと冒険に出ているはずだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「よう。お前らも上がりか?」
「師匠もお疲れ様です」
「おう。ん? こりゃあトップランカーが揃い踏みだな」
師匠はまどかさんと凛さんを見て少し驚いた。師匠がアイドルVtuberをチェックしている姿が想像できないんだけど……。それはともかく、今の視聴率ランキングで一位がアリサさん、二位がまどかさん、五位が凛さんだ。
やっぱり大手事務所のトップアイドルは強い。
しかもまどかさんと凛さんは、パーティーから追い出されて炎上中だ。炎上効果もあって勢いに乗っている。
「師匠。相談があります」
「大方想像は付くが、言ってみろ」
俺は師匠に事情を説明した。
「調子ぶっこいて、ハブられた嬢ちゃん達に、少人数パーティーを紹介して欲しいと」
「はい」
「ふむ。秀一のところは四人。式神を召喚したら三人増えるからな。最大七人パーティーにできる。そうなるとキャサリンとレンのペアに補充した方がいいか。俺は修行が終わったら抜けちまうしな。キャサリン、レン、お前らはどう思う?」
「私はいいと思うわよぉ。確かにペアだと限界があると思うのぉ。それに私にビビッて人が来ないのも自覚しているわぁ。渡りに船ねぇ」
「僕はお試し期間が欲しいな! 一緒にやっていくなら、相性もあるからね!」
「そっちの二人はどうだ?」
「レンきゅんと同じパーティーになれるなんて! もう最高です!」
「私も迷惑でなければ」
「だ、そうだ」
「なら、明日にでも臨時パーティを組んで、冒険しましょう」
「その前にどんな戦い方するのか知りたいな。僕は攻撃魔法と回復魔法が使えるよ。ユニークスキルは植物を操る異能さ!」
そう言ってレンさんは、バラを取り出し、自分の周りにまとわりつかせる。まるで一枚の絵画のように。
「私は前衛の拳闘士よ。この拳でモンスターを殴り倒しているわ。ユニークスキルは筋力アップよ。ふんぬばぁ!」
キャサリンさんが気合を入れると、筋肉がはち切れんばかり盛り上がった。
「私は攻撃魔法に特化しています。高火力の魔法をいくつも使えるわ。ユニークスキルは認識阻害。相手から私が認識されなくなります」
「私にかけてみて」
「はい。むんっ!」
「まぁ! 姿が消えたわ! でもそこにいるのよね?」
「はい。おかげでモンスターに狙われても、魔法が撃てます」
「最後は私ね。私は未来視。スキルを使ったら、三秒先くらいの未来が見えます」
「すげぇ。ちょっと手合わせしてみたい」
「私もっ! ねぇ。私達も一緒に行ってもいい? 二人のスキル見てみたい!」
「もちろんよ。明日は土曜日だし、同時視聴者数がすごいことになりそうね」




