第48話 琴音視点 百鬼夜行
あぁ、やっぱり夢を見た。
平安時代の夢だ。琴音じゃなくて、琴姫としての私。
名前に姫って付くと、呼ばれるたびに、なんか恥ずかしい。
私と秀之介様は、妖怪退治のために、都の北部に向っていた。
私達だけじゃなく、京の都にいる陰陽師のほとんどが、北部に向かっているはず。
北部はまるで地獄だ。
強い怨霊に引き寄せられて、たくさんの妖怪達がそこら中にいた。
「ガハハハッ!」
笑い声と共に、輪入道が走り回っていた。
輪入道は牛車の車輪の中央に、大きな男の顔が張り付いている妖怪だ。
その車輪は常に燃えているんだけど……大きい。水車くらいある。
輪入道を見た人間は魂を抜かれてしまう。
ここに来るまで人が何人も倒れていた。きっともう助からない。
そして強い。気を張ってなければ、私も魂を持っていかれそう。
私は印を結びながら呪文を唱えた。
「オン・ヒマ・シタ・ソワカ! 水の理、寒威の気よ! 氷霜招来! 急急如律令!」
氷の槍が輪入道に直撃したが、全然効いてない!
輪入道がこっちに突撃してくる。あんなに大きな車輪に轢かれたら、ひとたまりもない!
「はっ!」
私はギリギリまで引き付け、横に飛んだ
輪入道は十字路を曲がって消えた。
――逃げた?
そんなはずはなかった!
次の瞬間、家の奥からバキバキを破壊音が鳴る。
「オン・カラマ・ヴァルダ・ナラカ! 符よ、結界を描け!」
輪入道が家の破片を撒き散らしながら、飛び出してきた。
「展符結界! 急急如律令!」
札で出来た障壁に、輪入道が激突した。
回転する炎の車輪が、結界を削っていく。
「炎華!」
「はいよ」
秀之介様の一言で、竜の角と尻尾を生やした美少女が現れた。
赤く長い髪は、まるで炎のようだ。
「琴姫! 下がれ!」
私は大きく下がってから、展符結界の維持を解いた。
「オン・アグニ」
炎華さんがマントラを二言発しただけで、巨大な火球が現れ、輪入道に向かって放たれた。
「炎は、より強い炎によって消される」
轟音と共に輪入道が爆発四散し、火の粉になって消えていった。
「凄い……」
「琴姫様、大丈夫か?」
炎華さんが心配してくれた。
「は、はい」
「魂の破損もないな」
「僕の心配は?」
「御主人の心配は無用だろう?」
「炎華は僕の式神だろう」
「そんなことを言っていると、また琴姫様に嫌味を言われるぞ」
「うぐっ……気を付けるよ」
「乙女心を考えろ」
「炎華さんはその……」
「私か? 何か勘違いしているようだが、私は白夜とは違う。私はただ、秀之介様に幸せになって欲しいだけだ」
胸が少し痛い。だって炎華さんは……
「二人とも! 次が来るぞ!」
いつの間にかお坊さんが立っていた。いや、お坊さんじゃない。僧侶の恰好をした鼠だ。
「鉄鼠だ。術を使うぞ!」
「ギュギャギャッ!」
鉄鼠が何かしゃべったと思ったら、地面が割れて、鋭い岩が突き出してきた。
「うひゃっ!」
私は秀之介様に襟首を引っ張られたおかげで、何とか助かった。
「しゅ、秀之介様!」
秀之介様に後ろから抱きしめられた。戦の中なのに顔が赤くなってしまった。
「大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫」
バッと離れて鉄鼠を見ると、炎華さんによって焼き殺されていた。
「俺の側から離れるな」
「私だって戦えるわ!」
まだ妖気が消えてない。どうなっているのよ!
塀の上に鬼がいた。背後からはカランコロンと下駄の音。一本足に下駄を履いた、大きな傘のお化けだ。
「まるで百鬼夜行だな」
「なんなのこれ……」
「朝霞行房公の怨霊が、悪鬼や妖怪を呼んでいるって噂だ」
「無実の汚名で処刑されたって噂の?」
「真相はどうあれ、恨みが怨霊となって、貴族達を殺し回っているらしい」
「私の家は、朝霞行房公とは関係なかったはず……」
「怨霊になったら見分けがつかないかもな」
「お父様とお母様が心配だわ」
「あぁ。こいつらを倒して、合流した方が良いな」
「ええっ! 後ろの唐傘は任せて!」
「なら僕は鬼を倒そう。炎華。琴姫に付け」
「承知」
「白夜」
「はい。ここに」
「僕と共に鬼退治だ」
「なんてこと……」
唐傘お化けの縁が、血で赤く濡れていた。
「オン・ヴァーユ・ヴァジュラ・チンダ・シュラーナ! 鎌鼬よ、刃を放て! 急急如律令!」
私が放った鎌鼬によって、唐傘お化けが切り裂かれていく。でも浅い!
「ベァア!」
唐傘お化けの一つ目がギラリと光った。これは催眠だ。体が動かない。
唐傘お化けの傘が、ガバッて開いて、回転しながら迫りくる。
や、やだ! 声すら出ない!
「オン・ラグア」
突如、唐傘お化けの真下から炎が噴き上がった。
唐傘お化けは、断末魔すら上げられず、真っ二つに裂けて燃え落ちた。
それと同時に催眠も解ける。
「……はぁっ。助かったわ。炎華さん」
「妙だな。妖怪達の妖気が強い」
「えぇ。あんなお化け程度に、後れを取るなんて……」
「やはり、怨霊から溢れ出した霊気か。それが妖怪を呼び寄せるだけでなく、強化しているのだろう」
「早く怨霊をどうにかしないと」
「そうだな。オン・シャク・ラフラ」
炎華さんに呪術をかけられた。体が軽い。呪力も上がっている。
「火の加護をかけた」
「ありがとうございます」
「ではいくぞ!」
壊れた家の陰から、犬の顔をした鬼が現れた。本当にキリがない。




