第43話 ヒュドラ調伏
「たまには我も活躍せねばな。後方腕組みキャラなどと言われとうない」
狐鈴が少し複雑な顔をしながら、ヒュドラの前に進み出た。
絶対コメントで言われたな。
「オン・アグニ・マーヤ・クルタ・フシャーラ! 妖狐の焔よ、此処に顕現せよ」
あ、まずい。
俺は普段オフにしているシールドを、咄嗟にオンにした。
「妖炎爆雷! 急急如律令!」
轟音と共に、真っ赤な炎が花が開くように広がった。
衝撃波で飛ばされそうになるのを、踏ん張って耐える。
気になってシールドゲージを見ると、ゴリゴリ減っていく。
心配になって琴音を見ると、琴音もちゃんとシールドをオンにしていた。
アリサさんは……
「ひぃいああああぁぁぁぁ……」
悲鳴が聞こえた瞬間、声が遠ざかっていく。
確かドップラー効果だっけ?
……多分大丈夫だろう。
哀れなヒュドラを見ると、首が一本残して吹き飛んでいた。首の断面は焼くというより、真っ黒に炭化していた。胴体ももボロボロだが、ゆっくり再生している。
「すっご……」
吹っ飛ばされてたアリサさんが、うつ伏せのまま顔を上げて呟いた。
キャサリンさん達を見ると、結界の中で抱き合って震えていた。
大丈夫。生きてる。
「ちょっとぉ! どこ触ってるのよ!」
「それは僕のセリフなんだけど!」
あの二人、結構仲いいよな。
「む。真ん中の一本が無傷じゃな」
「狐鈴。そのまま弱らせろ。伝承通りなら、真ん中の首は不死属性だ」
「ほう。それは好都合じゃ」
狐鈴は邪悪な笑みを浮かべた後、案内妖精にあざとい笑みを浮かべて、きゃるんと可愛いポーズを取った。
片足を可愛く上げ、右手をまっすぐ上に伸ばした。
すると、先端がハートになっているステッキが手の中に現れた。
あれってこの世界の武器じゃないぞ。ネット通販で買ったのか、魔法少女のステッキだ。ただのおもちゃだよ……
「魔法少女マジカルフォックス! いっくよー!」
は?
狐鈴が声を高くして叫んだ。まるでアニメのキャラみたいだ……え? マジか!?
「スターライト・シュート!」
星形の光がヒュドラの首を跳ね飛ばした。
「スターライト! いっぱい!」
「ええっ!?」
狐鈴が突き出した、ハートのステッキの周りに、無数の星が次々と現れる。
「シュート!」
ズドドドドド!
次々と放たれる星形の光によって、ヒュドラはサンドバックになった。
「マジカル・バスター!」
今度はピンク色のレーザーが放たれ、ヒュドラの首がくの字に折り曲がった。
……狐鈴が持ってるステッキって、なんの効果もないおもちゃだよな。つまり武器としての効果もゼロ。それでこの威力とはありえないだろ。
「クックック。やはりな。高レベルのモンスターに魔法を当てた方が、経験値が入るな。もう新しい魔法を閃いたぞ」
邪悪な笑みにヒュドラが怯んだ。
気のせいかな? ヒュドラは涙目になった視線を俺に向けてきた。
「狐鈴。もういいだろ。なんか可哀そうだ」
「ふむ。これ以上は視聴者も引くか」
「オン・マハー・ラギータ・ヴァジュラ! 星天の座、宵夜の天人、夜白を歩く霊天将。ここに応えよ。来たれ! アシリア! 急急如律令!」
「……来ないね」
「あれ?」
数秒遅れて金の襖が現れ、中からアシリアが出てきた。
「ご主人様! 遅れてごめんなさい。ちょっとトイレだったの!」
「……あぁすまない。あれの動きを止められるか?」
ヒュドラは心が折れたのか、ぐったりと動かない。
しかし油断させるためかもしれない。
「まっかせて! グロリアス・チェーン・バインド!」
空中から銀色の鎖がいくつも現れ、ヒュドラに巻き付いた。
「オン・カンマニ・パドマ・シャリラ・ソワカ! ヒュドラよ。調伏の印、いま結び奉る。縁鎖・魂縛・理鎖・封絶・従命! 急急如律令!」
不死で倒せないなら、調伏すればいい。
幽世に送るか。
そう思った瞬間、ヒュドラと目が合った。
胸の奥が、妙にざわつく。
その目はどこかで見たことがある気がする。いやいや、絶対ないだろ。
アシリアの時と同じように、幽世じゃなくて、浄土世界に送った方がいい気がする。良くわからないけど、こういう気持ちには、素直に従った方が良い。
「オン・アヌグラハ・スニティ・ナンダ・ソワカ! 暴威を慎み、妙光如来の慈悲にすがれ! 来迎之扉・開門! 救急如律令!」
ヒュドラの頭上に、巨大な金の襖が現れて、ゆっくりと左右に開かれていった。
そして黄金の手がいくつも伸び、ヒュドラを持ち上げて連れ去っていった。
「ご主人様。ヒュドラを浄土世界に送ったの?」
「……なんか幽世じゃダメな気がしたんだ」
「私も……なんだろう。懐かしい気が……。ヒュドラに知り合いなんていないんだけどなぁ」
「そりゃいないだろう」
「というか! 私アレと仲良く修行する未来が見えない!」
「え? ヒュドラに修行とかあるのか?」
「それもそっか。じゃぁまた呼んでね! 何でもない時でも呼んでよね! 一緒にご飯食べたいの!」
「そのうちな! 送還!」
「ちょ……!」
ふう。琴音は……不機嫌になってないよな?
琴音の方を向くと、琴音は難しい顔をしていた。
「琴音。どうした?」
「……うん。ギュッとして」
「どうした?」
琴音を抱きしめると、予想以上の力で抱きしめ返された。
「なんかデジャブを感じたの」
「……琴音。俺が付いてる」
「うん」
デジャブ。それはどこかで見たような体験とか、記憶の錯覚とか言われてるけど、陰陽師とか霊感がある者にとってそれは危険な予兆だ。
前世の記憶だったり、未来視だったり、予知だったり、とにかく何かが起こる予兆。それも良いことよりも悪いことの方が多い。俺がヒュドラを浄土世界に送った方が良いと思ったのと同じだ。もしかしたらあのヒュドラ、何かあるのかもしれない。幽世で大暴れするとか?
「今日はもう帰ろう」
「うん」
「ちょっとぉ! いちゃついてないで早く出しなさいよぉ!」
「そうだ! そうだ! 爆発しろ!」
あっ! キャサリンさん達、まだ結界の中だ!
狐鈴を見ると、腹を抱えて大爆笑していた。
悪い狐め!




