第37話 憑依型機動式神
みんな浮足立っていた。それでも誰も逃げようとしない。師匠がいるからだ。師匠の圧倒的な強者のオーラが、みんなを勇気づけている。
「よう。やっと戻ったか」
師匠は俺達を見ると、みんなに振り返った。
「作戦変更。ドラゴンはこいつらじゃ無理だ」
「……」
当人達の前で何も言えないけど、師匠の言うことは正しい。ここからは防衛省特別機関陰陽局所属の陰陽師の仕事だ。彼らは守られる立場の人間で、俺達は守る立場の人間だ。
「お前らよく頑張ったな。下がっていいぞ」
しかし誰も下がらない。アリサさんと同じく、恐怖を感じていても、まだ戦う意思がある。
「あん? あれを見てまだ戦おうって思うだけでも大したもんだ。でもなぁ。やめとけ。死ぬぞ。あーいうのはまだ早いんだよ。なんのためにレベルやブレイブハートがあると思ってんだ? 自分の強さを見せつけるためか? ちげぇな。こりゃあ神様の慈悲だ。本当の意味で、レベル差もわかんねぇド素人が、無謀なことして死なないためのな。わかったらとっと下がって、俺様達のライブでも見てな! あぁ? 悔しかったら強くなれ、なんのために俺様がわざわざ来たと思ってんだよ! 修行したかったらいつでもきな! あ、死んじゃうかも知れないけどな! ぎゃはははは!」
わざと反感を買う物言いと笑い。それでも誰も下がらない。
「足手まといなのはわかってる……」
アリサさんが一歩前に出た。
「それでも……機銃型の機動式神で援護射撃くらいできませんか!?」
「あぁ? 人の話聞いてた?」
師匠の笑いがピタリと止まる。
「後ろから撃つくらいできるわ。危なくなったら、即逃げます」
「……」
師匠がアリサさんを近距離で睨む。普通の人間だったら秒でちびるぞ。
「よし。気に入ったぜ。お前、やっぱこっち側の人間だな」
「私も砲撃くらいなら」
「僕も機銃に空きがあるなら」
「どうやら馬鹿が多いようだな。オーケーオーケー! 好きに使いな! ただし定員十五名までだ。呪力が多いやつから順番だ。それ以外は陣を描くから、その上でこれを読め。サンスクリット語で書いてあるが、ちゃんとふりがな振ってある。下手でも読め。大きな声でな。それだけで機動式神の能力が向上する。バフってやつだ。ちゃんと読めば、おめぇらのステータスが上がるかもな! そんなわけで、結城ちゃん。責任は俺が取るから、陣頭指揮よろしく。これも適材適所ってやつだ」
「結城ちゃんはやめてください。ですが了解しました」
「秀一ぃ! 琴音ぇ! とっととおめぇらの機動式神を出しな! 俺様が直々に回復してやる、気張っていけよ!」
「我も回復役になってやろう。存分に戦ってこい」
俺と琴音は、梵字がビッシリと書かれた陣の上で胡座をかき、印を結ぶ。
「オン・ブール・セー・ジャラ・ヴィマーナ・ソワカ! 魂無き形代よ。呪縛の傀儡なり! 来たれ! 黒鉄の物の具! 急急如律令!」
憑依型機動式神。それは意識なき人工の魂で作られた式神。人によっては外法と言うだろう。
陣の前に置かれた巨大な式札が、ボッと燃え上がり、青白い稲妻がバチバチと弾け、目が眩むような発光の後、そこには白い巨人が立っていた。
白い巨人は、機動性を重視したシンプルなデザインだ。戦車を人型にしたような形で、高さは約五メートル。素材は戦車の装甲と同じだ。更に呪術による防御結界まである。二重の防御を貫ける攻撃はそうそうないだろう。
迫りくるドラゴンを見る。……遠目で見ても巨大だな。よし、出来る限り避けよう!
「オン・ジャラ・クシャ・カジャ・ソワカ! 魂鎖の意交、魂の渡り、呪装の連結! 急急如律令!」
憑依の呪文を唱え、トランス状態から目が覚めると、俺の視点が地上約五メートルくらいの高さにあった。
機動式神は俺の意思によって遠隔操作で動かせるが、決して安全じゃない。機動式神が傷付けば憑依者も傷つく呪いの藁人だ。
「十九式・二十ミリ・アサルトライフル」
意識して言霊を発すると、機動式神の両手に巨大なアサルトライフルが一本ずつ現れた。
人間では決して持てないサイズの巨大兵器だ。マガジンの中身は式札で、金の術によって、弾丸が装填される。それもマントラが刻み込まれた聖なる弾丸だ。
「二十三式・百二十ミリ・榴弾砲」
今度は両肩に榴弾砲が現れる。こっちもただの榴弾砲じゃない。式札がこれでもかと仕込まれている。
「よし、準備オッケーだ」
琴音の機動式神は両手に巨大な刀を持ち、肩には二十ミリ・機関砲四門と少し軽装だ。
まぁいつでも再召喚で換装できるけどな。
俺達が憑依型機動式神の準備をしている間、アリサさん達が、重機関銃型機動式神を使い、迫りくるグレーターデーモンを迎撃していた。まるで恐怖を振り払うように、一心不乱に撃ち続ける。みんな結城さんから扱い方の訓練を受けているし、機動式神が自動補正してくれるから、大丈夫だろう。
それより俺達だ。憑依型機動式神も実験や演習でしか使っていない。実戦で使うのは初めてなんだ。




