第36話 開戦
俺達は飛行魔法を唱えて空に飛び立った。あっという間に地面が遠ざかり、地平線が緩やかな弧を描く高度へと到達する。
耐寒障壁や防御障壁等、様々な魔法を多重に張っているから、寒くないし、強風に煽られても吹き飛ばされない。
狐鈴は魔法じゃなくて、妖術で空を飛んでいた。飛ぶというより、まるで空を駆けているようだ。
遠目のスキルで敵航空部隊を見ると、先頭にいるワイバーンの背に、デーモンっぽい死体が乗っていた。きっと師匠が言ってた指揮官だな。
ワイバーン達は自分より高く飛んでる俺達が目ざわりなのか、咆哮をあげつつ突撃してきた。
「輝き燃えたる炎の精霊よ。我に灼熱の炎球を授けん。弾けよ。灼熱の鳳仙花! ファイア・ブロッサム」
まずは呪力を温存し、魔力を使う。魔力はポーションで回復できるからな。
炎の弾丸がワイバーンに直撃するが、一撃で倒せる程弱くない。ワイバーンも含め、どのモンスターもレベル四十台だ。相手と距離があるうちに、できるだけダメージを与えたい。
「炎の精霊よ。紅き業火を纏いて敵を討て! ファイア・ジャベリン!」
「風の精霊よ。我が意に従い雷光となれ! ライトニング・ボルト!」
俺と琴音が放った攻撃魔法が、ワイバーンやグリフォンに襲いかかり、足止め以上のダメージを与え、そしてアリサさんの長い詠唱が完成する。
「――雷光よ、雷雨となりて天地を繋げ! ライトニング・レイン!」
上空からいくつも稲妻が降り注ぎ、手負いのワイバーンやグリフォンを次々と落としていく。
「マジカル・ショット!」
狐鈴がアリサさんに合わせるかのように、撃ち漏らしを撃破していく。
相変わらず狐鈴の魔法はレベルが違うな。可愛い見た目を反して、破壊力が半端ない。狐鈴の高い魔力もあって、ワイバーンやグリフォンを一撃で爆砕していった。
「輝き燃えたる火の精霊よ。我ここに、火の円盤用いて理を示す。汝、盟約に従い、天焦がすの炎となれ! バーニングフレア!」
「あまたに漂う風の精霊よ。天空より御下りて敵を撃て。来たれ、蒼き稲妻! ブルーライトニングレーザー」
俺が放った灼熱の炎がワイバーンを焼き、琴音が放った青い稲妻がグリフォンを薙ぎ払った。
「――天地を繋げ! ライトニング・グレイン!」
そして再びアリサさんが範囲魔法で止めを刺す。
開戦直後はこっちが優勢だ。
距離が縮まってくると、ワイバーン達が火を吐いた。赤黒い炎が、蛇のように空を這いながら襲いかかってくる。火炎放射器が可愛く思えてくるぜ。
俺も琴音も余裕をもって炎を避ける。アリサさんは後退して支援攻撃に切り替えた。狐鈴はマジカル・ショットで炎を押し返しつつ、ワイバーンを撃破していく。
優先順位は遠距離攻撃できるワイバーンだ。俺達は後退しながら、攻撃魔法で迎撃する。そうすることによって、遠距離攻撃を持たないグリフォンとの交戦を遅らせ、ワイバーンに集中できる。それでもやっぱり空を飛ぶモンスターに追い付かれるが、その頃には敵航空部隊の四分の一を倒していた。
そしてとうとうゼロ距離交戦のドッグファイトが始まった。ここまで来たら温存していた呪力を使う。
「オン・アグニ・カジャラヤ・ソワカ! 天より降りよ、邪鬼断罪の刃! 召刃・天焔業刀! 急急如律令!」
「オン・カシャ・ザンマ・ソワカ! 天より降りよ、災厄を断つ刃! 召刃・天雷鳴刀! 急急如律令!」
俺と琴音は刀を召喚し、更に刀を呪術で強化する。そしてワイバーン目掛けて飛ぶと、視界が線になって流れ、あっという間にワイバーンに接敵した。
「クレセント・カット!」
すれ違いざまに、ワイバーンの足を一刀両断。踏ん張りの利かない空での戦いだけど、スキルを使う事によって何とか斬れる。
「オン・ギャラ・シェン・ロウ! 銀嶺咆哮、轟かせ! 雷光烈嵐! 急急如律令!」
続けて雷の呪術を至近距離で放つと、ワイバーンは黒焦げになって落下していった。
「クェェ!」
休む暇なくグリフォンが襲い掛かってくる。四方八方、敵ばかりだ。
「いぃぃぃやあああぁっ!」
一方アリサさんはもはや呪文を唱える余裕がなかった。避けるだけで精一杯だ。だがそれでいい。狐鈴がアリサさんに群がるワイバーンやグリフォンを背後から仕留めていくからな。こういっちゃなんだけど、良い囮役だ。
「秀ちゃん!」
琴音が俺の周りのグリフォンを切り刻みながらすり抜ける。
「あぁ!」
アリサさんもただ逃げてるわけじゃない。俺達の防衛ラインに向かっている。
俺と琴音も、ドッグファイトをしながら、徐々に高度を下げ、防衛ラインまで後退していった。
もしワイバーンやグリフォンが、人間の様に知能があったら、気づいていただろうか。自分達が誘い出されていることに。
ここまで高度を下げれば、地上からの攻撃も届くな。
「光の精霊よ! 我が声に応えよ! 輝け白の息吹の如く! グレア・フラッシュ!」
俺が放った光の魔法が空中で炸裂し、目を焼くような輝きを放った。
それと同時に俺と琴音は、アリサさんに続くように後方に飛ぶ。光の魔法は目くらましと同時に、味方への合図だ。
地上から矢が、魔法が、投石器による巨石が、ワイバーンやグリフォンに向かって飛んでいく。
命中率は良くないが、絶え間ない攻撃に晒されて、ワイバーンやグリフォンが次々と地上に落ちていった。
「ぬおおおおっ!」
地上から野太い声がしたと思ったら、目の前のワイバーンが爆発した。えっ? 爆発!? 一体何が起こった!?
地上を見ると、キャサリンさんがボーリングの球くらいの爆弾を拾い上げていた。
あれは試作でいくつか作った投石器用の爆弾だ。試作品だから小さくて、実戦では使わないから、倉庫に置いてたやつだ。
「嘘だろ……」
キャサリンさんの筋肉が膨れ上がり、二倍くらい大きさになる。
「ふんぬばぁっ!」
次の瞬間、哀れなグリフォンが一匹、爆発四散した。
キャサリンさんが投げた爆弾の威力は、作った俺が一番良く知ってる。
知ってるんだけど! いくら高度を下げたからって、人の手で投げた爆弾が届いた上に、一撃で爆殺できるなんてありえない!
他にも遠距離攻撃が可能なユニークスキルや、魔法が連打され、あっという間に敵航空部隊は全滅した。
「もういないか!」
「うん。もういないと思うよ」
「撃ち漏らした敵がいても、私達で対処すればいいよね」
「うむ」
師匠と結城さんが大丈夫だと判断したのか、後方で十人の仲間が空に上がった。
俺達は空を警戒しつつ仲間を護衛をする。そして不意な攻撃に備えつつ、マジックポーションで魔力を回復した。
地上から攻撃魔法や矢が放たれても届くことはない。
仲間達の爆撃により、一方的な蹂躙が始まった。同時に地上部隊からも投石が始まり、爆雷が仕込まれた巨石が、敵軍に向かって飛んでいく。
巨石が着弾すると大爆発を起こし、魔物達がまとめて爆死していった。
運よく爆撃を逃れたモンスター達は、それでも爆風や破片を喰らって、ボロボロな上に混乱状態だ。そこへ残りの地上部隊が、鬨の声を上げて突撃を開始した。
都市で籠城を決め込んでいた騎士団や魔導士団も、ようやく城門を開け、我先にと敵軍の追撃を始めた。一度も交戦しないまま終わっては、格好が付かないよな。それでも助かる。
千いた敵軍はあっという間に壊滅状態になり、敗走を始めた。
俺は空から敗走先を見て、やばい物を発見した。
「アレってアストラルゲートに似てないか?」
紫色の石で出来たストーンサークル。それも大きい。あんなものはなかったはず。
モンスター達はアストラルゲートを使って逃げるのかと思ったら、何かしら儀式を始めた。
「まずいぞ」
狐鈴が呪印を結ぶが、何もかも遅すぎたようだ。アストラルゲートが光り輝き、巨大な紫色の波紋が幾つも空にできた。
ひときわ大きな波紋から現れたのは、巨大なワイバーン――いや、あれはドラゴンか?
あまりにも巨大な空飛ぶトカゲだ。首が長く頭には角が生え、背中には巨大な翼がある。いわゆる西洋のドラゴンだ。圧倒的な大きさで、距離感がおかしくなる。ちょっと大きな体育館くらいあるんじゃないか?
そしてドラゴンのレベルは百だった。
「はぁ! はぁ! はぁ!」
アリサさんが身を抱きしめて震え始めた。
「……んんっ!」
しかしアリサさんは動悸を押さえ、歯を食いしばり、前を向いてドラゴンを睨みつけた。
ブレイブハートが補えるレベルなんてとうに超えていて、全く機能していない。それでも戦いの経験がアリサさんを強くした。ついこの間まで、戦いなんて無縁な場所にいた一般人なのに。
「上出来じゃ」
狐鈴は愛おしそうに、そっとアリサさんを抱きしめた。
ドラゴンの周りにいくつも波紋が広がり、アークデーモン達が次々と転送されてくる。
「みんな引くぞ。機動式神の出番だ」
「うん」
「うむ。アリサよ」
「わ、わかっているわよ」




