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第35話 都市襲撃

 決戦前夜、俺と琴音は、陰陽庁が用意したネットショップにアクセスしていた。

 このネットショップは俺と琴音だけの専用ショップだ。陰陽庁からの後方支援なんだけど、どれもこれも値段が高い。おかしいと思って、案内妖精に聞いてみると、享楽之神が介入した結果らしい。強力な武器や防具を格安で販売したら、ずるになるからだとさ。


「なぁ。この狩衣かりぎぬ、いつもとだいぶ違くないか?」


 狩衣かりぎぬとは平安時代の貴族の平服だ。現代だと神社の神主さんが着ている服なんだけど、ネットショップに並んでいる狩衣かりぎぬは、だいぶ改造されている……というか、ソーシャルゲームなんかに出てくる陰陽師っぽい服装だ。少し派手だけど、動きやすそうでもある。


 特に女性用は巫女装束っぽい。下はスカートに見える半ズボン――キュロットスカートに白いタイツという、可愛いけど露出が抑えられて、ちょっとホッとしている。


「これはちょっと恥ずかしいぞ」


「私は可愛いと思うけどなー」


 商品の説明もゲームっぽく書かれていた。もしかして配信用に変えられている?

 レアリティは星五。浄土世界で織られた布で作られていて、防御力が高く、闇属性攻撃の耐性アップまで付いてる。防御力が高いのは、俺と琴音が、普段シールドをオフにしているせいかもしれない。元々は清めの儀式を行った普通の服なのに、追加効果があるから、値段が高くなっているのかもしれない。


「秀ちゃんどう?」


 狩衣かりぎぬを装備した琴音がその場でくるっと回った。


「うん。可愛い」


「ありがと。秀ちゃんも早く着て!」


「わかったよ」


 俺はネットショップから購入して、アイテムボックスに入った狩衣かりぎぬを装備した。


「結構動きやすいな」


「ふおおっ!」


 琴音が案内妖精を呼び出して俺を撮っている。


「秀ちゃん! なんかかっこいいポーズ取って!」


「ええっ!? こ、こうか?」


「うんうん! いいよ! いいよ!」


「琴音。無理してないか?」


「……正直怖いよ。千の軍勢なんて見たことない」


「そうだな」


「もし私達が失敗したら、みんな死んじゃうかもしれない」


「俺と師匠がいる。大丈夫だ」


「そこは俺がいるが良かったな」


 琴音がゆっくり近寄ってきて、優しく抱き着いてきた。


「……ごめん」


 俺も琴音の背中に腕を回す。


「まぁ実際師匠って頼りになるけどね。……頼りかぁ。私、秀ちゃんみたいに、頼られるほど強くないよ」


「そんなことないぞ」


「ううん。秀ちゃんは自分が思ってるよりずっと強いよ」


「そうかな?」


「そうだよ。はぁ……機動式神を使うにしても制約ありすぎ。実戦テストなんてやってる余裕ないよ」


「それは俺も同じだよ」


「ふふ。秀ちゃんでも余裕ないんだ?」


「そりゃそうだよ。琴音の前でかっこつけたいだけだ」


「それ私の前で言う?」


「たまには俺にも弱音を吐かせてくれ」


「うん。いいよ。私が秀ちゃんを守ってあげる」


「俺も琴音を守るよ」


「うん」


◇◆◇◆◇◆◇◆


 遂に決戦の日が来た。

 千の大群が、地響きを立てて迫り来る。

 大きく足音を立て、銅鑼を鳴らし、雄叫びを上げて威嚇してくる。

 空にはワイバーンやグリフォンが編隊を組んで飛んでいた。よく訓練されているみたいだ。

 陰陽師として悪鬼や妖怪と戦ってきたけど、今までこんな数の敵と対峙したことなんてない。


 俺達は勝てるのか? 俺はちゃんとできるのか?


「情けねぇ背中見せんなよ」


 耳元で師匠の声がした。いつのまに後ろに!?


「考え込んでるんじゃねぇよ。悪い方向にいっちまうぞ。俺様がいるんだから、絶対成功するに決まってるだろ」


「……そうですね」


「囮作戦、ちゃんとわかっているのか?」


「はい。頭に叩き込んでます」


「ならよし。そんなお前にプレゼントだ」


「プレゼント?」


 師匠がアイテムボックスから、式札が何重にも巻かれた弓を取り出した。見ているだけで不安になる。そんな重圧を弓から感じた。


「陰陽師の戦いはな、面と向かう前から始まってるんだよ」


 師匠は神木の枝で作られた矢を取り出して、弓につがえた。


「オン・シチリ・マリシエイ・ソワカ……」


 空間がねじれるような圧力が発生し、静電気のようにバチバチと稲妻が走る。


「オン・ハラハラ・シタリ・センダ・マカロシャダ・ソワカ! 必中の矢、滅びの風、刺客となりて敵撃つ! 急急如律令!」


 放たれた矢が音もなく飛翔する。一直線に空を切り裂き、あっという間に見えなくなり、遥か遠くで真っ赤な閃光が弾けた。


「指揮官を潰した。後は烏合の衆だな。これで簡単だろ?」


 師匠はこっちに来た時に、ドローン型の機動式神で偵察をしていた。その時既にワイバーン部隊の指揮官に呪印をつけていたのだろう。


 師匠が持ち帰った情報によると、敵航空部隊は百体。その部隊を率いるのは、ワイバーンに騎乗した魔族だ。その魔族を師匠は超遠距離から倒してしまった。

 ワイバーンやグリフォンにどれだけの知能があるかわからないけど、指揮官を失った今、ただ直進するだけの烏合の衆なのかもしれない。


「師匠。ありがとうございます」


「それじゃよろしく。適当に暴れてこい」


「わかってます! 琴音! 狐鈴! アリサさん! ……ん?」


「ありえないでしょ! あの数見た!?」


 アリサさんが配信を通じて、視聴者に向かって叫んでいた。


「一応酔い止め飲んだわよ。あんた達、気が利くじゃない。バリアを張ったかって? 大丈夫よ! ってあんた達は私のママか!?」


 アリサさんは相変わらずオーバーアクションだ。それが癖になったのか、元々そうなのか、しゃべる時は身振り手振りが激しい。


「えっとね。今回はかなり高いところで空中戦やるから、万が一落ちた時のために、対物理防御障壁も張ってあるわ。それと高い空って寒そうだから耐寒障壁でしょ、ワイバーンが火を吹くみたいだから耐火障壁も。準備万端よ! 後は私の勇気だけ。だからみんな応援よろしくね!」


「よう。アリサちゃん」


「な、なんでしょう」


「俺からも応援だ。これもってけ」


 師匠が人型の呪符をアリサさんに渡した。


「これは……」


「身代わりの人型だ。死んでもそいつが代わってくれる。一回のみだけどな」


「ありがとうございます。……そんなにヤバいですか?」


「大丈夫だろ。だが絶対はない。ただそれだけ」


「……そうですか」


「そいつと秀一達がいる。大丈夫さ」


「はい!」


「そんじゃよろしく。あっ! リスナーの皆さん! おじさんのチャンネル登録もよろしくな!」

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