第33話 式神アシリア
誰だ!? ご主人様だと!? そんな呼び方をする式神なんていないぞ! こんな時に妖か!?
(ご主人様の式神アシリア。妙光如来様の命により、助太刀しちゃいます! さぁ私を呼んで!)
頭の中に呪文が浮かび上がってくる。これは……?
「オン・マハー・ラギータ・ヴァジュラ! 星天の座、宵夜の天人、夜白を歩く霊天将。ここに応えよ。来たれ! アシリア! 急急如律令!」
式札を宙に投げると、式札が金の襖になり、タンッと音を立てて開かれた。
そこから出てきたのは、美少女吸血鬼……なのか? 輝くような銀髪と深紅の瞳はそのままだけど、着てる服が記憶と違う。真っ白なフリフリドレスで、背中には大きな翼が生えている。もはや吸血鬼じゃなくて天使だ。
「……アシリアなのか?」
「そうよ。妙光如来様から、神気をこれでもかと浴びせられたら、反転して天使になっちゃった。妙光如来様はこっちが本来の姿だとか言ってたけど、意味わかんない」
調伏した時、自然と送り先を浄土世界に選んだのは、妙光如来様のお告げみたいなものだったのか? アシリアってもしかしたら、妙光如来様のお弟子様だった? 何らかの事故でこっちの世界に堕ちてしまったとか?
「反転した時、危うく昇天するかと思ったわ……」
どこか遠くを見るアシリア。その表情は無になっていた。そしてふよふよと漂い、地に足をつけた瞬間、石につまずいてビタンと転んだ。
「いだいっ!」
あ、こいつはやっぱりあの夜に戦った吸血鬼に間違いない。
アシリアは何事もなかったかのように立ち上がると、空に向かって手を掲げた。
「あの夜、可愛いって言ってくれたから、浄土世界で頑張れた! 今こそご主人様への愛を示す時! ホーリー・エクソシズム!」
暖かい光が吸血鬼やアンデッド達を包み込み、灰へと変えていく。流石に上級吸血鬼は灰になっていないが、ボロボロだ。
「はぁっ!?」
あっ、まずい。琴音が首だけこっちに振り向いた。紅蓮童子よりも鬼のようだ。
「馬鹿め!」
ヴォルフがその隙を見逃すわけもなく、間合いを詰め、真っ赤な剣を琴音目掛けて振るった。
「ふんっ!」
琴音は見もせず、ヴォルフの腕を斬り飛ばし、返す刀で胴を真っ二つにした。
「オン・タラカ・ホン! 爆破符・焔散! 急急如律令!」
更に琴音は式札をヴォルフの分かれた胴の間に、札を飛ばして爆発を起こした。
「お前の相手をしている場合じゃない! オン・スーリヤ・パーヴァナ・ナマハ!」
琴音の刀に光が集まり、いくつものリングになる。
アシリアのおかげで、敵の数が減り、詠唱の時間ができたが、まだ吸血鬼達が残っている。俺は式神達と一緒に吸血鬼を倒しにかかるが、それでも一体の吸血鬼が琴音に向かって魔力弾を連続発射した。まずい!
「琴音ぇえっ!」
俺は最後の吸血鬼を倒しながら叫んだ。
琴音は式札をばら撒いて、魔力弾を防ぎ、すり抜けてきた魔力弾だけを避けた。
「オン・アーラ・ヴァジュラ・カーンタ・ソワカ! 浄化の光輪により、穢れを焼き、闇を祓う!」
一方ヴォルフは爆発によって四散した体が、逆再生の様に集まって元に戻っていく。しかし琴音の方が一手早い!
「妖魔討滅! 浄刃・陽光輪! 急急如律令!」
次の瞬間、琴音の刀を中心に空気が震えた。刀身に沿って光が流れ、光の輪になって波紋のように輝く。
「はぁっ!」
琴音が刀を振るうたびに、ヴォルフの体が浄化の光によって、削られるように灰になって散っていった。
「秀ちゃん! その子誰!?」
ヴォルフを倒した瞬間、琴音が物凄いスピードで向かってきた。
「琴音!」
琴音の背後で不自然に灰が集まり、ヴォルフが復活していく。かなりのダメージを負っているためか、復活スピードは遅い。しかし完全に復活する前に、赤黒い光が琴音に向かって放たれた。
「アシリア! 頼む!」
「セイクリット・レイ!」
アシリアが放った聖なる光が、赤黒い光を迎撃した。
「しつこいわね!」
「アシリアは足止め! 琴音は浄化!」
弱った今なら祝詞で止めを刺せるはずだ!
「はい!」
「了!」
「セイクリッド・フィールド」
アシリアが放った光の波動によって、辺り一帯が神聖な空間になった。そのせいでヴォルフが灰から実体を取り戻す速度が鈍った。
「オン・アマリタ・シンダラ・ボダナン・ソワカ!」
俺は手早く印を結ぶ。
「オン・クティラ・カラシャナ・バザラ・サトバ・ソワカ!」
俺の手から黄金の光が放たれ、頭上に梵字と幾何学模様で構成された、巨大な魔法陣が展開する。
「天光満ちる神威の刃。穢れを断ちて輪廻を正す! 浄天滅闇! 悪鬼退散! 急急如律令!」
魔法陣から光の剣が次々と放たれ、ヴォルフを灰すらも残らず焼き尽くしていった。
しかしまだ邪悪な気配を感じる。
「……禍事・罪・穢れを祓い給い、鎮め給え。恐み恐みも申す」
琴音の祝詞によって、今度こそ邪悪な気配が消えた。




