第32話 式神VS吸血鬼軍団
「来たれ、下部達よ。無念を晴らせ」
ヴォルフの真下から、黒いドロドロとした液体が湧き上がり、貴族っぽい格好をした者達が現れた。全部で十体。吸血鬼か!? さっき灰になった吸血鬼達を復活させたのか!?
「琴音、こっちも出すぞ」
「了!」
「オン・アグニ・ガルダ・ジャラー! 南方の神鳥よ! 紅蓮の翼を広げよ! 神獣招来! 来たれ! 朱雀! 急急如律令!」
「オン・バク・ラン・シェン! 西方の獣王よ、白銀の爪を振るえ! 神獣招来! 来たれ! 白虎! 急急如律令!」
朱雀と白虎が吸血鬼達に向かって襲い掛かる。それと同時に後方から狐鈴のスターライト・シュートとアリサさんの妖術による援護射撃が開始された。
「白焔如来、光輪大明王、八界守護天、三界を超えし御霊に、穢れ魂を滅する力を乞い願い奉る……」
「させぬ!」
祝詞を唱え始めると、ヴォルフが魔力弾を放ってきた。余りにも禍々しい。絶対喰らっちゃいけないやつだ!
俺は祝詞を中断せず、いつもより余裕をもって魔力弾をかわす。
「闇に堕ちし不死の影、迷いを断ち、輪廻の岸へ還るべし」
今度は上級吸血鬼が襲い掛かってくる。
「はっ!」
しかし琴音の斬撃によって吸血鬼の首が飛び、返す刀で胴体が上下に分かれた。
「此処に集いし穢れの魂を見そなわし、常世に堕ちし不死の理、いま断ち給え」
更にヴォルフが魔力弾を撃とうとするが、今度は琴音がスキルを使ってヴォルフに接近。一太刀でヴォルフの右腕を斬り飛ばす。
「火の禊にて魂を焼き、塵となりて、祓え給え、清め給え、還り給え、恐み恐みも申す」
光が溢れ、上級吸血鬼達が一瞬で灰と化した。
「小癪な!」
ヴォルフが宙に向かって高く飛び、既に復活した右手に真っ赤な剣を召喚した。右手の復活、早すぎないか!?
「闇の極光」
ヴォルフが剣を一振りすると、巨大な闇の刃が琴音に向けて放たれた。
「クイック・ステップ!」
琴音がスキルで避けるが、ヴォルフが避けた先に向かって、闇の刃を連打する。単発攻撃じゃなかったのかよ! 琴音が連続でスキルを使って避ける。スキルの使い過ぎは後々ガス欠になりやすい。これ以上撃たせないためにも、俺もスキルを使ってヴォルフへと間合いを詰める。
「クイック・ステップ!」
「ちっ! 人間如きが!」
ヴォルフが闇の刃で牽制しつつ、蝙蝠の群れになって間合いを取り、少し離れた場所で人型に戻った。
「来たれ眷属達よ!」
再び黒い液体が地面に広がり、吸血鬼達が復活する。キリがないな。
「来たれ下僕達よ!」
更に下級吸血鬼なのかな? 追加で吸血鬼達が黒い液体の中から這い出てくる。数えてる暇はないけど、三十体以上はいそうだ。
機動式神を出したいところだけど、万が一壊されたら防衛に支障が出るし、師匠に怒られる。それだけは絶対に避けたい。ここは別の奥の手を使うか。出費が大きいけど。
琴音に目くばせすると、ババっと印を結ぶ。
「オン・グレンザラ・バッソ・カザン・レンレン・ハク!」
俺の背後に巨大な襖が出現した。大量の式札で封印された襖だ。
「猛き鬼よ、煉獄の底より吼えよ。来たれ! 紅蓮童子!」
バンッと炸裂音と共に式札が吹き飛び、大きな赤い手が襖をこじ開け、中から巨大な鬼が現れた。筋骨隆々の修行僧。そんな言葉がぴったりな鬼だ。
「……来たれ! 轟雷童子!」
琴音の術も完成し、巨大な襖から青い肌の鬼が現れた。紅蓮童子と対なす轟雷童子だ。
「ふははははっ!」
「がーはっはっはっ!」
二体の鬼の笑い声に、向かってきた吸血鬼達の足が止まる。
「ここが異世界か!」
「千葉童子から聞いておるぞ!」
「上手い飯と酒!」
「用意出来てます」
「それと強い相手だ」
「目の前に……」
「……弱すぎないか?」
「雑魚ばかりではないか?」
「延々と復活するので、手が足りません」
「……ふむ」
「一匹強そうなのがいるが、あれを倒したら修行にならぬな」
「まぁよい。露払いをしてやろう」
紅蓮童子と轟雷童子が、巨大な刀を抜き、吸血鬼達に突撃する。朱雀と白虎も続き、式神と吸血鬼の乱戦が始まった。
「ふはははっ!」
紅蓮童子がダンッと踏み込みながら巨大な刀を振りかぶった。
その刀に赤い炎がまとわりつき、うねり、とぐろを巻く。
「散れいっ!」
その斬撃は破壊のそのものだ。技術などない。斬るのではなく、叩きつ潰すかのようだ。
もう棍棒の方がいいじゃないか?
しかしその威力は絶大だ。赤い軌跡が通った後には、バラバラに砕け散った吸血鬼の欠片が、燃えながら舞う
「がーはっはっ!」
轟雷童子も同じだ。巨大な刀を力の限り振り回し、刀に帯びた稲妻がバチバチと弾け飛ぶ。
吸血鬼の手や足が舞い、稲妻によって黒焦げになった。
注意すべきは始祖のヴォルフのみだ。っておいおい。吸血鬼の始祖様は臆病者か? ヴォルフは更にゾンビやスケルトン、レイスやグールなど、無数のアンデッド達を呼び出していた。もはやアンデッドの軍隊だ。
そしてアンデット軍団が紅蓮童子と轟雷童子を飲み込むように襲い掛かった。
「だーしゃあっ!」
紅蓮童子が飛び上がってアンデットの群れに飛び降りる。
炎が螺旋を描きながら舞い上がり、紅蓮童子が回転しながら巨大な刀を振るうと、まるで炎の竜巻が起きたかのようだ。
「がああっ!」
轟雷童子が大きく刀を振りかぶると剣先に稲妻がバチバチと宿る。
「そうらよっ!」
そのまま刀を地面に叩きつけると、稲妻が弾け飛び、アンデット達を焼き殺していく。
鬼達が大暴れし、吸血鬼やアンデット達を蹴散らしていくが、それ以上に敵の数が多すぎた。
圧倒的な物量の差だ。さらに上空からヴォルフが闇の魔法を連打してくる。短い詠唱の術や魔法ならまだしも、長い詠唱と集中がいる祝詞は厳しくなった。それを覚悟の上で祝詞を唱えようとすると、ばっちりと警戒しているのか、吸血鬼達から魔法の集中砲火で邪魔される。いくらなんでも多勢に無勢だ。
乱戦の中、琴音が再び飛行魔法とスキルを使って、ヴォルフとの間合いを詰めた。
繰り広げられる激しい攻防。琴音が押しているが、ヴォルフが直ぐに再生するので、琴音の顔に焦りが見える。
せめて長い詠唱できる隙があれば……一旦下がるか?
強い式神はもう出せない。狐鈴になんとかしてもらうか?
そう思った時、頭に最近聞いたことのある声が響いた。
(私を忘れたの? ご主人様)




