第31話 始祖ヴォルフ
アンデッドを浄化しながら進んで行くと、成仏したいという思いがあるのか、まるで火に群がる蛾のように、アンデッド達が集まってきた。
アリサさんもヒールの魔法から始め、今や上級の聖属性魔法まで習得できた。
そして聖属性魔法を使ってアンデッドを浄化していき、全員のレベルが四十を超えたあたりで、古城が見えてきた。
森の中央はぽっかりと空いた草原になっていて、その中央に古城と城下町があった。ただし生命が感じられない。遠目に見えるのは幽鬼のようにさまようアンデッド達だ。夕日の光に照らされ、まるで終末の世界のようだ。
「ねぇ。ちょっと疑問があるんだけど……」
アリサさんが遠くにいるアンデッド達を指さした。なるべく見たくないのか、アンデッド達に背を向けて。
「なんでゾンビは日の光を浴びても、燃えたり灰にならないの? 吸血鬼は灰になるんでしょ?」
「正直わからん」
「……えぇっ!?」
「そうだな。吸血鬼の伝承とか物語の話になるけど、不死性と引き換えとか、強い力の代償に、日の光が弱点になったってさ。あくまで設定の話だし、この世界でも当てはまるかわからないぞ」
「……確かに思い込みだったわ。アンデッドが日の光に弱いって」
「でもさ。この世界の吸血鬼は日の光に弱いかもよ? 夜にしか襲って来ないし」
「吸血鬼は確かにそうね。ゾンビも日の光で燃えちゃえばいいのに」
「今は放置だ。浄化してたら奇襲にならない」
「それじゃあ。機動式神出しちゃう?」
「そうしよう。ここからは任務だ。私情は挟まない。殲滅戦だ」
俺も琴音も陰陽師だ。陰陽師として与えられた任務はきちんと遂行しないといけない。
俺と琴音は、アイテムボックスから榴弾砲型の機動式神を取り出した。この式神は所有権が自分じゃないから呼び出すことができないんだよ。
機動式神が現れると、その巨体がズシリと大地を揺らした。
榴弾砲型の機動式神は、三脚で支えられた筒状の大砲だ。普通だったら一抱えある砲弾を、手作業で装填するけど、こいつはセットした式札が砲弾を召喚して装填してくれる。
機動式神は、人工的な魂が宿っているが、独立した意思がない。与えられた命令を実行するだけの式神だ。
機動式神を計六体取り出した後、古城に向けて命令すると、重い金属音を響かせながら、角度を微調整していく。ここまでは演習通りだ。実戦で使うのは初めてだから緊張する。
「我は耳を塞いでおくとしよう」
「口も半開きにしておいて」
「わかった」
「跡形もなくなるまで撃ち続けろ!」
耳が馬鹿になる程の爆発音と共に、計六発の榴弾が古城に向かって発射された。
榴弾は着弾と同時に内部の火薬が炸裂し、轟音と共に爆発した。
更に仕込んであった爆破の呪符が、連鎖的に爆発し、城壁が吹っ飛び、高い塔が砕けて落ちる。
古城は現代兵器と陰陽術の合わせ技の前に、なすすべもなく破壊されていった。
三回程一斉射撃した後、角度を調整して一斉射撃したら、急に暗くなった。
どう言うことだ!? まだ夕方だったはずだ! 上空を見ると、真っ黒な雲が空を覆い、太陽を隠していた。吸血鬼の魔法か? だとしたら天候すら操るヤバいやつだ。
「照明弾装填! ってー!」
空に向かって六つの照明弾が飛び、まるで真昼のように辺り一帯を照らした。もちろんただの照明弾じゃない。浄化の光を放つ呪符がこれでもかと仕込んである。
「ぎゃあああああ!」
いつの間に接近したのか、少し離れた所で灰となった吸血鬼がいた。
空を見ると、あちこちで灰が風に流されて消えていく。
「もうここまで!?」
「狐鈴はアリサさんを守って」
「それが良かろう」
「え? え? どういうこと? 近くにいた吸血鬼は、倒しちゃったよね?」
「嫌な視線を感じる。浄化の光にも耐える吸血鬼がいるってことだ」
明るく照らされた雲の下に、人の形を保ったまま飛んで来る吸血鬼が十体いた。
「榴弾砲を送還。重機関銃の実戦テスト開始!」
榴弾砲型をしまい、今度は三脚に乗せられた重機関銃型の機動式神を二基展開し、式札をセットする。重機関銃型の式神は榴弾砲型の式神と違って、自分で引き金を引かなくちゃいけないタイプだ。俺と琴音は機銃の後ろに周り、安全装置を解除して引き金を引いた。
耳をつんざく爆発音と重低音。吸血鬼が豆粒にしか見えない距離でも、機動式神が狙いを補正してくれるおかげで命中する。
吸血鬼はまさかこの距離で攻撃してくると、思ってもみなかったのか、不意をつかれて次々に灰になっていった。でもあの気配、あの視線は消えない。より強くなった。
「琴音! しまえ!」
「了!」
機動式神をアイテムボックスに閉まった次の瞬間、真っ赤な三日月状の刃がいくつも降ってきた。
「ひあああっ!」
狐鈴がアリサさんの襟を掴んで、後ろに大きく飛び退いた。
俺は赤い刃を避けつつ、後方をチラ見すると、狐鈴が結界を張って防御していた。
あっちは大丈夫そうだな。
「家畜の分際で、あれを避けるのか」
気づいたら空に男がいた。黒いスーツ……燕尾服だっけ? まぁどっちでもいいか。黒い燕尾服に黒いマント。銀の髪はオールバック。誰がどう見ても吸血鬼としか思えないような男が、宙に浮かんでいた。
「我は始祖の吸血鬼! ヴォルフ!」
始祖の吸血鬼はマントをバサッとひるがえし、牙をむいた。
「この名を魂に刻め! 貴様達の主人になる名だ! 貴様らは己の不遜な行為を、未来永劫、後悔し続けることになるだろう!」
始祖の吸血鬼様はどうやら怒りマックスのようだ。そりゃそうだろう。奇襲で根城を徹底的に破壊され、下僕の吸血鬼達も皆殺しだ。俺達と戦う前に文句の一つや二つは言いたいだろう。だけど俺や琴音の前に、それは愚策だ。
俺と琴音は刀を召喚し準備万端。更に琴音の祝詞が完成する。
「……祓え給え、清め給え、還り給え、恐み恐みも申す」
清らかな光がヴォルフを包み込んだ。
「礼儀を知らん子供だな」
しかしそれで終わってしまった。
「むぅ」
ヴォルフはデコピンされたくらいにしか効いてないのか!?
「クイック・ステップ!」
琴音が一瞬にしてヴォルフの間合いに入る。その手には既に天雷鳴刀が握られている。
「はっ!」
琴音が刀を横なぎに振るい、ヴォルフが紙一重に避ける。
「愚かな」
ヴォルフの目が真っ赤に光った。
「虜にしてや……」
「残念。私に魅了は効かないよ?」
琴音はそのまま返す刀で横薙ぎ一閃。
ヴォルフの胴が上下に分かれるが、瞬く間に引っ付き、琴音を掴もうと手を伸ばした。
「クイック・ステップ!」
間一髪、琴音はスキルを使って後退した。
「秀一ちゃんへの愛は、誰にも汚させはしない!」
「アリサよ。精神魔法の対抗札じゃ。身につけておけ。始祖の魅了は強力じゃ」
「ありがとう」
「琴音に効かなかったのは、あやつの愛が……ちょいとおかしいだけじゃ」
「うん。私もそう思う」
アリサさんの視線が俺の背中に刺さる。
実は俺もこっそり、精神魔法に抵抗できる札を背中に貼ったからな。いや保険だよ。保険。




