第25話 鬼と修行2
「秀ちゃん!」
「……琴音?」
俺は琴音に膝枕されながら治癒を受けていた。ヒールじゃなくて、治療の呪符だ。そんなに危なかったのか?
「死んじゃうかと思った!」
「えっ!? そんなに?」
「首が変な方向に……ね」
「それ以上は聞きたくない」
「心配したんだからね!」
琴音のホッとした顔に気まずさを覚えていたら、千葉童子が寄って来た。
「スキルは単調だ」
「そうですか……」
だめだ。スキルが通用しない。俺はスキルが使えるようになって、強くなったつもりでいただけなのか?
「工夫をしろ。単発で使うな。スキルを使って、斬撃の角度を変えろ。連撃に繋げ。それに耐えられる体作りをしろ」
「……はい!」
「ならもう一度だ」
今日の訓練で、身の程を嫌というほど思い知らされた。異世界でモンスターを倒して、いい気になっていたんだ。今日の訓練が実戦だったら、何度死んでいたかわからない。
琴音には格好悪いところを何度も見せてしまった。それでも琴音は、俺を何度も癒してくれた。身も心もだ。俺はどうだ? 琴音に何かしてやれたか?
「秀ちゃん、大丈夫?」
一方琴音は、俺ほど怪我をしていなかった。ホッとした半面、悔しさもある。
「俺はもう大丈夫だ。琴音こそ大丈夫か? 見えないところを傷めてないか?」
「一応大丈夫だと思うけど、やっぱりあちこち痛いし、痕残ったりしたら嫌だし、秀ちゃんのヒールが欲しいなぁ」
「任せとけ。ヒールだろうが、治癒の呪符だろうが、なんだってしてやる!」
「ありがと」
「お、おう」
俺は琴音の少し上気した笑顔にやられた。もう何度もやられている。俺は色んな意味で琴音に勝てないかもしれない。
そして地獄のような特訓の日々が続いた。コメント欄のみんなの励ましが嬉しかった。その応援に応えるためにも、今日こそ千葉童子から一本取りたい。そろそろ一本取らないと炎上しそうだしな。
「秀一。琴音」
「なんでしょう。童子師匠」
「今日は鹿児島の芋焼酎だ」
千葉童子に一本も取れない場合、酒を奢ることになっている。アリサさんに代理購入してもらうのはもう嫌だ。また負けたのとか言われるし。
「今日は奢りませんよ!」
「そうだよ! 作戦があるんだから!」
「ちょっ! 琴音!」
「しまった! どうしよ!」
「ふっ……ふはははっ! 策があろうとなかろうと関係ない。さぁ、かかってこい!」
「琴音。いくぞ!」
「うん!」
俺は琴音の手信号を見て左に回り、琴音は右に回る。
「はっ!」
「やあっ!」
千葉童子は俺と琴音のほぼ同時の斬撃を、たった一歩下がっただけでかわした。
俺と琴音はわずかな時間差をつけ、返す刀で連撃へと畳みかける。
俺は刀を袈裟斬りに振り下ろしながら、剣のスキルを乗せた。
「スラッシュ!」
刀が光り、途中からスピードが上がる。
「クレセント・カット!」
琴音も横薙ぎの斬撃を放ってから、剣のスキルを乗せ、インパクトの瞬間をずらす。
それでも届かない。千葉童子は俺の斬撃を紙一重で避け、琴音の斬撃を刀で受け止めた。
「クイック・ステップ!」
琴音がスキルを使って瞬時に下がり、俺はそのまま千葉童子に攻撃を続ける。
「ふんっ」
俺の斬撃が弾かれ、千葉童子の斬撃が来る。
「くっ!」
早くて重い。それでもなんとか刀で斬撃を受け止める。
その瞬間どうしても動きが止まるはずだ。その隙をついて琴音が斬りかかった。
「やああっ!」
一瞬千葉童子の意識が琴音に向く。
「クイック・ステップ!」
今度は俺が下がり、千葉童子の隙を探す。
琴音が千葉童子の斬撃を受けた瞬間を狙って、スキルを使って踏み込む。
「クイック・ステップ!」
俺と琴音は移動スキルを駆使して、入れ替わり立ち代わり攻撃をしかけた。
「エア・スキャフォールド!」
空中に足場を作るスキルを駆使し、立体的に攻撃を仕掛けた。時に真横から、時に真上から。更に斬撃スキルで機動を無理やり変え、入れ替わり立ち替わり、予測不能な攻撃を繰り出した。
「はあああっ!」
「やあああっ!」
段々と速度を上げていき、三半規管が悲鳴を上げる。
「ふん」
千葉童子が合気道のような技を使ったと思ったら、俺も琴音も吹っ飛ばされていた。
「ぐはっ!」
「きゃんっ!」
背中から地面に叩きつけられ、胃の中の物が全部出そうになった。
「……やったよ。秀ちゃん……」
琴音が痩せ我慢しながら親指を立てた。
ハッとなって千葉童子を見ると、左手から血を流していた。
「見事だ」
「……やった」
「準備運動はこれで終いだ。次は術を交えた訓練だ」
「……吐きそう」
千葉童子との模擬戦と、改善のための稽古だけでもいっぱいっぱいなのに、特式――機動式神の訓練まで始まってしまった。
いくつかある機動式神の中でも、とある機動式神は動かすだけで呪力をごっそり持っていかれ、足りない分は魔力を根こそぎ持っていかれた。こんなの使う方が頭がイカれてるよ。




