第22話 都市襲撃と作戦立案
「嘘……この都市襲われるの!?」
クエストを大雑把に説明すると、魔王軍がそれぞれ三つの都市に向けて進軍中。各都市に到着するのは三週間後。それまでに襲撃の準備を整えよ。という内容だった。
各都市へ向かう魔王軍の数は約千ずつ。愉悦之神が享楽之神の邪魔をしようとしているのなら、俺達を狙ってくるのは当然だ。
「千って嘘だろ……」
「ウチらだけだと三十倍の戦力じゃないか!」
転移させらたのは百名だけど、このギルドにいるのは三十三名だ。
「いやいや、他の冒険者ギルドもあるだろ!」
「早川君達ってどこまで戦えるの?」
「出し惜しみはなしだぞ!」
「俺達競いあってるわけじゃないしな!」
「百鬼夜行みたいなのできないの? こう……妖怪をたくさん召喚して、突撃させるみたいな……」
「弱い式神なら同時に複数出せるけど、力ある式神だと三体か四体が限界だよ」
「そんな……」
「私達も修行中だしね……」
「ちょっといいか?」
二十代後半くらいの男性が手を挙げた。どこかで見た気がする。
「陸上自衛隊特殊災害連隊所属、二等陸曹の斎藤だ。元が付くがな」
斎藤さんは俺達と言うより、みんなに説明するために続けた。
「私は元陸上自衛官。小隊や分隊の指揮経験がある。早川君達は違う小隊だったから、私のことを覚えてないと思うが、同じ釜の飯を食った仲だ、協力できないかな?」
「その節はお世話になりました!」
「お世話になりました!」
俺と琴音は立ち上がって敬礼した。
「もう退役したから、敬礼はいらないよ」
「そうですか」
「ちょっと! 自衛隊ってどういうこと? あんた達陰陽師じゃないの!?」
アリサさんが詰め寄ってきた。
「防衛省特別機関陰陽局所属の陰陽師だよ。自衛隊も防衛省の機関だから同じ組織なんだ。だから自衛隊の訓練に参加させてもらっていたんだよ」
訓練と聞いて琴音が苦い顔をした。
俺と琴音にとって、夏休みは地獄の始まりだった。自衛隊の特殊災害連隊。通称特災に混じって訓練が始まるからだ。
普段は月数回、基礎訓練に参加している。中途半端じゃないかって思うかもしれないけど、本業は陰陽師だからな。陰陽師としての修行がメインで、体力筋力精神力は、自衛隊の方で鍛えてもらっている。もちろん普段も自主練で鍛えている。自主練が足りないと、訓練の時に地獄を味わうことになるから。
そして夏になると、自衛隊駐屯地で合宿ってわけだ。俺と琴音以外にも同年代の陰陽師が、日本各地から集まって一緒に訓練するから、少し楽しみでもある。訓練は楽しくないけど。
同期は辛い訓練を一緒に乗り越えた戦友であり、そしてライバルだ。
訓練は自衛官達と一緒に訓練するんだけど、流石に同じ班じゃないと顔を覚えられない。
俺達陰陽師は霊的災害が起きると、自衛隊のバックアップの元、現場に急行するから、目立っていたのだろう。特に夏は霊的災害が起きやすいからな。
俺達は学生組だから、大人の陰陽師の補助が大半だけど、時には人手が足りなくて、俺達だけで対応することもあった。そんな姿を斎藤さんは見ていたのだろう。
「……そうなんだ。どうりで動きが素人っぽくないっていうか、普通じゃなかったわ」
「君達、特式は使えないのか?」
「特式の使用には、局長の許可が必要です。それに専用の式札がありません」
「局長とは連絡取れるか?」
「チャンネル登録してくれているので、配信で呼び掛ければ返事が返ってきます。ただ、許可が下りるまで時間がかかりそうです」
「魔王軍が来るまで三週間か。間に合うか?」
「享楽之神の強制力に期待です」
「まさに神頼みだな」
「はい」
「式札は作れるのか?」
「式札は複雑な術式で書かれているので、陰陽局のサーバーからデータをダウンロードする必要があります。許可が下りたらアドレスとID、パスワードがもらえます」
「そこから式札を作るには?」
「二人がかりで三日」
「問題は許可か……」
「ねぇ。特式ってなに?」
アリサさんが答えづらい質問をしてきた。まぁ当然だけどさ。
「陰陽術には陰陽五行思想ってのがあるんだ。万物は木、火、土、金、水の元素から成り立つっていう思想。金の元素の術を使えば、金属を操る事ができる」
「金の術と陸上自衛隊……。それって物騒な気がするんだけど……」
「物騒だよ。それに国家機密だから許可なしに使えないし、配信もできない」
「配信できないって……」
「享楽之神が怒りそうだよな」
「そんなこと言ってられない。人命がかかってるんだ」
斉藤さんが言うことは、凄く当たり前のことだけど、周りはそう思わなかったみたいだ。
「そんな物騒な方法、使わなくてもなんとかなるんじゃないか? イベントだろ?」
「そうよ。襲撃イベントだし。今の私達で何とかなるレベルじゃないの?」
「斎藤さん。ちょっといいかしら」
アリサさんが斎藤さんに向き合った。
「私達は配信者よ。さっき競ってないって言ってた人もいるけど、配信上では競いあっているでしょ。視聴者数や登録者数で。あなたの作戦だと、早川君達だけ盛り上がるわ。命がかかってるから、そんなこと言ってられないかもしれないけど、それこそ享楽之神が望んでいることと違うわ。私達全員が主役にならなくちゃいけないのよ」
アリサさんの言葉に共感してる人や、嫌な視線を送ってくる人がいた。俺達だけ目立ちすぎたな。
「まずは享楽之神が用意した作戦を実行すべきよ」
イベント告知には、投石器や罠を用意するように書かれていた。
「街に投石器があるなら、使わせてもらうか、石を用意しましょう。罠がいるなら、それこそ自衛官さんに教わって作りましょう。私達に出来ることを最大限にやる。やることやってダメだったら、その……特式って奴の出番じゃないの?」
「さすがアリサさん!」
「そうだ! 俺達にも活躍させろ!」
「……そうだな。みんなすまなかった。それでいこう。ただ、保険は必要だと思うんだ」
「そうね。奥の手として、特式はあっていいと思うわ。もしかしたら、私達だけじゃどうにもならないことがあるかもしれないし」
「……何かあったのか?」
「えぇ。ちょっとね……」
「どんな些細なことでも教えて欲しい」
「ここからは我が話そう。アリサよ。神に目をつけられるかも知れん。お主には荷が重いじゃろう」
「狐鈴さん……」
「今配信してる者はおらぬな?」
誰も案内妖精を出していないな。
「今から話すことは配信上で言えぬことじゃ。言おうとしても口が動かぬ。そういう呪いの類いじゃ。ちなみに聞かぬという拒否権はない。聞かねば死ぬぞ?」
狐鈴が妖気を発しながら言うと、皆静まり返った。
「この世界には享楽之神の行いを、邪魔しようとする存在がおる」
口止めされていたけど、やっぱり話すのか? 上手く誤魔化してくれるといいけど。
「今回の襲撃事件も、その存在の仕業じゃ」
「存在ってなんですか?」
「そんな中途半端なこと言われても……」
「ノコよ。状況が状況じゃ。話しても良いか?」
狐鈴が呟くと、案内妖精のノコが現れた。
「仕方ありません。ですがそのお口、制限かけさせて頂きます」
「うむ。気を付けて話そう。この世界に享楽之神以外の神がおる。初めは享楽之神を手伝っておったが、それは謀りじゃった。その神は享楽之神に恨みがあったそうでな。この世界を滅茶苦茶にして、享楽之神の神格を上げさせまいとしておる」
狐鈴の話に周りが騒めいた。
「昨日、我が遭遇したモンスターは危険じゃったぞ。配信で見た者もおると思うが、冒険者がむごたらしい死に方をしておった。もし我らではなく、お主達だったら、同じ様に殺されていたかもしれん」
再び静まり返った。
「このことは配信できぬよう、呪いがかかっておる。昨夜試したが我でも無理じゃった。余程都合が悪いのであろう」
「そんな!」
「俺達守られてるんじゃないのかよ!」
「それって死ぬってこと?」
「俺達がスキルとか魔法を貰ったのって、その別の神が動き出したからか?」
「じゃあこの襲撃イベントって、イベントじゃないの?」
「マジの襲撃なのか?」
「ってことは街の人達ってこのことを知らないのか?」
「それって本当なのか?」
「事実確認はお主らの案内妖精に聞くがよい。我らも案内妖精から聞いたのでな。それを信じるか信じないかは、お主ら次第じゃ。我らがやっていることは神々の代理戦争じゃ。生き残るには享楽之神の力を上げ、介入して来た神をどうにかしてもらうしかなかろう。ならばアリサの言う通り、皆で配信を盛り上げ神力を集める。じゃが相手は本気で殺しにきておる。ゲーム感覚で戦うのは終いじゃ。今回の襲撃もそのまま勝てればそれで良し。無理なら特式とやらの出番じゃ。そうであろう?」
狐鈴の話を聞いて、みんな騒めいていた。
突然の都市襲撃、享楽之神と敵対する存在、そして物騒で怪しい特式。きっと整理しきれないし、どうしたらいいのかわからないだろう。
「まぁ後詰めは秀一達に任せよ。死ぬことはないじゃろうて、皆安心して頑張るがよい」
「俺達は程々に暴れて下がれば良いってこと?」
「それならできそうかな?」
「いや! 俺はやるぜ! ヒーローになるんだ!」
「お前それフラグじゃないか?」
「不吉なこと言うなよ」
「正直魔王軍と戦うとか無理だと思ってたけど……」
「いや、投石器とかバリスタとかでいけるって!」
「まずはいくつか確認や裏付けを取りたい。街のギルドに行って、モンスター襲撃の情報が出ているか、連携できるかの確認したい」
この場にいない者を呼びに行ったり、細かい打合せをしていると、ギルド員が王立騎士団の騎士を連れてきた。
「こちらは王立騎士団。力を貸して欲しい」
「確認に向かう必要はなさそうだな」
騎士の話によると、魔王軍が大規模な侵略を開始。進軍の方角から予測すると、大きな都市の占領だろう。ここフェルミアも侵略対象と考えられるそうだ。
ここフェルミアに向ってくる魔王軍の数は約千。その殆んどが人型のモンスターだけど、中には空を飛ぶモンスターも確認されたらしい。
人型のモンスターの大きさは、人とそれ程変わらない奴から、巨人と言えるほどの大きさの奴までいるらしい。
強さ的には今まで倒してきたモンスターとそう変わらないでいて欲しいな……
既にフェルミアから複数のアストラルゲートで飛んだ先の街が、避難を開始したそうだ。更に一つ先の村は、モンスターの軍勢に飲まれて壊滅したらしい。
モンスターの軍勢がそのまま進軍してここに到着するのに、約三週間はかかるそうだ。イベント情報と同じだな。
俺達には王立軍と共に戦って欲しいとのことだ。と言っても、王立軍と連携が取れるわけでもないし、王立軍もそれを期待していない。遊撃部隊として、少しでも敵の数を削って欲しい。ただそれだけだった。
まぁ要するに。逃げずにちょっとは手伝えよと。そういうことなんだろう。




