第119話 まだ変身が残っているだと……
この世界のモンスターは人の手にかかることによって、輪廻転生の輪に戻れる。
ということは、アルベールに殺されたデーモンは、戻れないんじゃないか?
それは話が違う。許せないな。それが顔に出てしまったのか、琴音に抱きつかれた。
「だめだよ。秀ちゃん。怨霊を作るようなことはしてはだめ。私達陰陽師の役割を思い出して」
琴音に優しく抱き着かれ、落ち着いた声で囁かれたせいか、じんわりと怒りが鎮まっていく。
「そうだな。サンキュー琴音。俺達陰陽師は道を外れた者を救い、元の道へ戻す。そうだったな」
「うん。悪い子にはお仕置きだね!」
(みんな! アルベールに集中だ!)
式神達に命令を出すと、すぐに月華の指示が始まった。
「アリサさん。露払い頼める?」
アルベールの周囲にはまだデーモン達が残っている。
「え、ええ……いいわよ! 任せなさい!」
「俺達のもいるぜ!」
「ええ。雑魚くらいならいけます」
真田さんと御影さん駆けつけてくれた。
その直後、空が光ったかと思ったら、稲妻がデーモン達に降り注いだ。
「ギャハハハハ! 俺様! 復! 活!」
師匠! 式神達に当たったらどうするだ!
「マジカルフォックス! いっくよー!」
今度は図太いレーザーが幾つもの放たれ、デーモン達を飲み込んだ。
「……ごめん。私、あの中に入っていく自信がない」
アリサさんの顔が引きつった。
「まぁ。今は力温存で……」
「……うん」
一方式神達はやる気が爆上がりしていた。
「狐に負けるな!」
月華が叫ぶと、白夜達が一斉に気合を入れた
「もちろん!」
「おう!」
「ええ!」
「承知!」
「……負けない」
白夜が手を頭上にかがげた。
「オン・キリ・キラナ・ソワカ!」
そして勢いよく手を振り下ろした瞬間、真っ白な光の激流がアルベールに向かって放たれた
「ぐっ!」
アルベールはとっさに避けたが、右腕の肘から先が飲み込まれて消滅した。
そして避けた先に炎華が待ち構えていた。
「オン・アグニ・ヒラ・ケン・ソワカ!」
炎華の剣がオレンジ色の炎に包まれる。
「はあ! 浄炎斬!」
デーモンの左腕が宙を飛ぶと同時に、真っ白な炎に包まれて灰と化した。
「オン・ルーク・アーバー・ソワカ!」
月華が放った光弾の群れが、アルベールの翼にいくつも穴を穿つ。
「それがどうしたぁあ!」
アルベールが叫ぶと、両手が生え、翼の穴が塞がった。
「……えい」
紅羽が持つ大鎌が真っ赤に輝き、アルベールの両足を切り落とした。
「ぐああっ!」
「オケツがガラ空きだ!」
いつの間にか後ろに回っていた蒼蓮が、アルベールの尻尾を斬り裂いた。
「おのれぇ!」
追い詰められたアルベールの周りに、黒い炎が幾つも現れた。
その瞬間、式神達が一斉に離れた。
いくつもの札だけを残して。
「オン・ラウマク・プラバ・ソワカ!」
球状の結界がアルベールを包み込み、アルベールは自らの放った炎に包まれた。
「ぐああああ!」
アルベールを包み込むような球状の結界が展開し、アルベールは自らの放った炎に包まれた。
「オン・キリ・ヴァジュラ・ソワカ!」
そして結界が解けた瞬間、煌姫が放った六つのレーザーが、アルベールを次々と貫いた。断面から白い炎が広がり、徐々に灰へと変えていく。
もはや穴の方が多い状態になったアルベールが墜落し、轟音と共に地面に叩きつけられた。
その衝撃によってアルベールはバラバラに砕け散り、そして……黒い霧が吹き出した。
それを見た式神達がビクッと硬直した。
どうした? みんな若干恐怖を感じている?
「……いけない。あれは怨霊。アルベールは怨霊と化したんだ!」
怨霊から黒い触手のような霧が伸び、式神達に襲いかかった。
「これはまずいですね」
月華の顔に焦りが見えたその時、月華から念話が送られてきた。
(秀一様。祝詞をお願いします。我々は使えないので)
(了解だ)
「白焔如来、光輪大明王、八界守護天、三界を超えし御霊に……」
祝詞を唱え始めた瞬間、怨霊が反応した。
黒い霧が波打ち、後方にいる俺めがけて一斉に触手を伸ばしてきた。
「くっ!」
怨霊は式神達の攻撃を無視して、俺に向かって突っ込んできて、次々と触手で攻撃してくる。
「やらせない! そして秀ちゃんは私が守る! オン・カシャ・ザンマ・ソワカ! 天より降りよ、災厄を断つ刃! 召刃・天雷鳴刀! 急急如律令!」
琴音の手に天雷鳴刀が現れた。
「はああっ!」
琴音は次々と襲い掛かってくる触手を斬って斬って斬りまくる。
「白焔如来、光輪大明王、八界守護天、三界を超えし御霊に、穢れ魂を滅する力を乞い願い奉る……」
琴音が守ってくれている間に、俺は再び祝詞を唱える。
「闇に堕ちし不死の影、迷いを断ち、輪廻の岸へ還るべし」
しかし触手の数が多い。琴音一人じゃさばききれない。
そこへ蒼蓮と紅羽が加わった。
「此処に集いし穢れの魂を見そなわし、常世に堕ちし闇の理、いま断ち給え」
蒼蓮が両手に持つ短刀が、紅羽の大鎌が、触手を切り裂き、弾き、破壊していく。
「此処に集いし穢れの魂を見そなわし、常世に堕ちし闇の理、いま断ち給え」
祝詞が完成するにつれ、黒い霧のあちこちに、取り込まれたデーモン達の顔が浮かび上がった。
「オォォォォオオオ!」
そして最後にアルベールの顔が浮かび上がり、怨嗟の叫びを上げた。
「火の禊にて魂を焼き、塵となりて、祓え給え、清め給え、還り給え、恐み恐みも申す」
ついに祝詞が完成し、清らかな浄化の光が怨霊を包み込んだ。




