第7話:始まりの扉と完全自動経験値加算システム
草むらの奥から、“俺の始まり”を見つめる。 あの巨大な扉――ゴブリンとして最初に目覚めた場所。そこに、リーダー格の個体が再びゴブリンを招集していた。距離は約10メートル。新たな生命が並び立つ、戦力の原点。
俺はカバンを軽く叩き、小さな声で呼びかける。
「ラノ」
「うん?」
「10メートル先に、扉がある。“壁”って表現のほうが近いかもしれない。その先に……一緒に抜けてほしい」
沈黙の後、しっかりとした声。
「……うん。激痛は覚悟済み。やるよ、タクさん」
そこに迷いはない。 カバンの中でも、彼女は前だけを見ていた。
「ちなみに、俺の外見……ゴブリンだから」
「うん。でも、タクさんはタクさんだし。何だって受け入れるよ」
その言葉が、静かに胸を突いた。
俺は身を低くして移動を開始。扉の前では、続々とゴブリンが生まれ、リーダーの前で整列していく。 その合間――一瞬の隙。
「今だ……!」
俺は走り込み、扉の前へ。カバンを開いてラノを解放する。
「ラノ、出す!」
光と共に彼女の姿が現れる――その瞬間、絶叫。
「ぐあああああっ!」
膝をついてうずくまりながら、ラノが詠唱を始める。
「この世における……あまたの軌跡よ……」
――魔法詠唱。苦痛に引き裂かれながらも、彼女の声は確かだった。
HPゲージが急降下。血が滲み、視線は虚ろになっていく。
「間に合え……!」
次の瞬間、視界が暗転。岩肌が赤く染まり、空気が熱を帯びた――《壁抜け》が発動した。
「ラノ、収納!」
俺はすぐにカバンへ回収。中で、彼女が力なく微笑む。
「痛すぎて何も考えられなかったけど……ちゃんと抜けた、ね」
「よく耐えた。次は、俺のターンだ」
崖の橋の先――鏡の前で佇む一体のゴブリン。 俺は躊躇なく走り込み、容赦なく蹴り飛ばす。
「ギャッ」
奴は溶岩へと落下し、焼けて消える。
「ウィンドウ」
ステータス画面が表示された。――ポイント、+10。
カバン内のラノにも、同量の経験値が加算されていた。
「収納状態でもシェアされるのか……?」
鏡に視線を向けると、次の個体が生成され始めている。 俺は再び疾走。出現したばかりの個体を蹴り飛ばす。溶岩、消滅。
そのとき――気づいた。
鏡の端。押すと、わずかに“動く”。
「……調整できるってことか?」
俺は鏡の向きを変更。出現地点が橋上から、直接“溶岩の上”へ。
結果――次のゴブリンは生成と同時に、地獄へ落ちていった。
ステータスは――しっかり加算。 しかも鏡の生成サイクルは約2分。ならば、1時間で30体は処理可能。
俺はカバンを撫でながら、呟く。
「完全自動、経験値加算システム……完成だ」