第6話:ラノ
爆音が空を裂いた。 地面が揺れ、星の瞬きすら遮るほどの砂煙が立つ。
俺――タクは廃墟の外へ飛び出す。 空を見上げると、燃えながら落ちてくる軌道の終点が刻まれていた。
瓦礫の隙間を踏み越えて近づくと、血まみれの少女が倒れていた。 服は破れ、腹部に大穴。魔力の残響がまだ身体から漏れている。
「嘘だろ……生きてるのか?」
声をかけると、異国の言語で返答が返ってくる。 だが、意味は理解できた。《いしのそつう》――異言語理解スキルの効果だ。
「……たすけて……」
タクは即座に《マジックBOX》を発動。 手のひらが発光し、少女の身体が魔力粒子となって吸い込まれていく。
*
BOX内部。 そこは痛みも恐怖も遮断される、魔導空間。
ラノは静かに横たわり、眉間の歪みが消えていく。 身体はまだ損傷しているが、表情は不思議なほど穏やかだった。
「……ここ、安心する。痛くない」
どうやらBOX内では、痛覚も不安も遮断できるらしい。
「そこから、俺の姿は見えるか?」
「ううん。でも、不安じゃない。不思議だけど」
「空から墜ちてきた。腹に穴が空いて、瀕死だった。俺がBOXにしまった」
「……黒い服の人たちに追われて……それから落ちてきたの」
黒服――敵勢力。彼女を狙っていたなら、探索部隊が来る可能性もある。
「確認される前に、ここを離れる」
「……うん」
夜の森を抜けながら、俺は星空に目を向ける。 この世界の星座は地球に似ている。だが、星の配置が妙に歪んでいる。
岩陰でカバンを開き、ラノのステータスを確認する。
らの
ねんれい:17
しょくぎょう:まほうつかいあぷれんてぃす
れべる:13
けいけんち:4000
HP:80/180
まほう
ふぁいやーぼむ Lv1
ふぁいやーあろー Lv1
かべぬけ Lv1
ふゆうひこう Lv1
「壁抜け……」
このスキル、いけるかもしれない。俺のサバイブと、こいつの命――。
「おい」
「えっ、あ……さっきの人?」
「ラノ、だろ?」
「え、なんで名前知ってるの?」
「それは後だ。俺の名前はタク。ラノ、お前のスキル“壁抜け”って、どんな魔法だ?」
「ん、その名の通り、壁を抜ける魔法」
「一人しか使えないのか?」
「ううん、4人までなら同時に抜けられる。5人は無理」
「どのくらいの厚みの壁までいける?」
「厚みなら……15メートルくらいかな」
15メートル?メートル法か? いや、俺の認識している単位に自動補正されているのだろう。
「扉は?」
「問題ない」
「よく聞け。お前は死ぬ寸前だ。たぶん、このカバンから出したら、1分ももたない」
「……うん。かなり痛かったし、お腹に穴も開いてるし、背骨も多分折れてる」
「助かる方法がある。だが、お前の“壁抜け”が必要だ」
「うん」
「ある場所で、お前をカバンから出す。でかい扉の前だ。激痛が走るだろうが、こらえてその扉を抜けてほしい。できるか?」
「……やるしかないんだよね。やるよ」