第5話:墜落
――星々の間を、火線が走る。 暗黒に満ちた夜空に、雷球が爆ぜ、光の残像が焼け付いたように広がる。 魔力が風を裂き、耳鳴りが空気の震えと重なっていく。
ラノ・シュトラウスは、息を荒くしながら高度1,300メートルの空中を旋回していた。 片手で魔法陣を維持し、浮遊魔法によって辛うじて浮いている。 背後には5人の魔導士――敵編隊が三層構造の網を形成しつつある。
「速すぎ……こいつら、殺す気か……!」
空域の支配が一瞬で奪われる感覚。魔力の圧が肌に直接圧し掛かる。 ラノは眼を走らせ、最も危険な詠唱を探す。 その直後――隊長格と思しきサインが叫んだ。
「《ヴェノム・ストライク》開始! リズ、拘束を!」
リズがすぐさま詠唱を開始。魔力の揺らぎが空気を硬直させる。 ラノは回避に入ろうとしたが――魔法が脚部に絡みついた。
「うそ、拘束魔法……!」
《エア・バインド》が脚を締め上げ、浮遊制御を阻害。旋回できない。 ゴンとジンが左右から魔弾を撃ち込み、ラノの回避軌道を完全に潰す。 上下からも魔力干渉が波のように押し寄せる。
逃げ道は、ない。
そして―― 上空500メートル。そこから雷撃を纏ったインクスが急降下してくる。
「《ブーストブレイク》!!」
インクスの身体が雷そのものとなって、ラノの背中へ直撃。 激震が身体を貫き、骨が軋む音が内側から聞こえる。
「っぐぅ……!!」
視界が弾け、世界が反転する。 息が詰まり、魔力の流れが崩壊。体が自由落下に入った。
そして。
「《ヴェノム・ストライク》!」
サインが放った毒属性魔弾が、追撃のように腹部へ撃ち込まれる。 紫の光が臓腑を焼き、意識が霞む。 吐血とともに《バリア》の詠唱が遅れ、防御が間に合わない。
ラノの身体は、魔力の残光を引きながら―― 真下に広がる廃墟群へと吸い込まれていく。
――墜落。