第4話:ウィンドウ
岩陰に身を潜め、息を殺す。 乾いた風が耳を撫で、背後の小隊の気配が徐々に遠ざかっていく。
《……よし》
俺は静かに立ち上がる。 前線に出れば、確かに経験値は稼げる。 だが――今の俺に必要なのは“勝利”じゃない。“生存”だ。
焼け焦げた集落へ再び足を踏み入れる。 血と煙の臭いが空気を支配し、死と災害が混ざったこの場所は、数分前とは思えぬほど現実味を帯びていた。
半壊した小屋へ滑り込み、扉を閉める。 静寂と闇の中、俺は膝を折る。
まずは、変化を確認する。
身長は150→175センチへと成長。 四肢は筋肉質に変化し、皮膚は緑褐色ながら滑らかさが増していた。 人間らしい――そう、皮膚も、声も。
「あいうえお……かきくけこ」
出てきたのは、くぐもった唸りではない。 明瞭な日本語だ。声帯すら“再構築”されたらしい。
俺はそっと呟く。
「ステータス……オープン」
沈黙。
「……ウィンドウ」
その瞬間、空気が“揺れた”。
空間に浮かぶ、透明なパネル。 そこには見慣れた文字列が、やわらかな光で並んでいく。
なまえ:たくと
ねんれい:16
しゅぞく:ごぶりんこーぽらる
れべる:5
けいけんち:350
HP:100
MP:0
すきる
ういんどう Lv1
いしのそうつう Lv1
まじっくぼっくす Lv1
「……これが、“ウィンドウ”か」
夢じゃない。脳が過去に触れてきたRPGの構造を、“現実に再現している”のかもしれない。
項目”ごぶりんこーぽらる”をタップ。
《つぎのしんか→ ごぶりんさーじぇんと》
俺は”まじっくぼっくす”を起動。
《まじっくぼっくす:しょうかばん》
しゅうのうすう:10こ
たいしょう:むきぶつ・せいぶつ
ほぞん:しゅうのうじのまま
しょじあいてむ:しょうぽーしょん ×4
カバンの中には、確かに4本の水色ポーション。 混乱の中でも、ちゃんと持ち込めていたらしい。
「……回復手段あり。これで“生存確率”は跳ね上がる」
喉の奥から、静かな笑みが漏れる。 そうだ。俺は、ただのゴブリンじゃない。
言語を理解し、スキルを起動し、そして――ウィンドウを開いた異端。
選択肢を持つ存在。
俺はゆっくりと立ち上がり、浮かぶウィンドウに目を向ける。 光の向こうに――次の進化が待っている。
「この世界のルール……だんだん見えてきたぜ」