第2話:新たな世界、ゴブリン分隊へようこそ
まばゆい光が消えた瞬間、拓斗は目を細めた。 肌を刺す熱気、鼻をつく焦げた臭い――そこは、さっきまでの世界とはまるで違っていた。
《……ここ、本当に同じ空間か?》
広がるのは、荒れ果てた原野。 石造りの砦が点在し、中世の戦場を思わせるが、至る所で炎が燃え、空は鉛のような雲で覆われていた。 空気には血の匂いが混じり、それでも身体は妙に“現実”を感じている。
振り返ると、崖の縁に巨大な扉。 両脇にはかがり火が焚かれ、炎の揺らめきが異様な影を形作っていた。
《もしかして……地獄に来ちまったのか?》
そのとき、視界の端で何かが動いた。 十数体のゴブリンが広場に集まり、中心には大きさの違うゴブリンがいた。
《あいつ……ゴブリンの進化形態か……。ゴブリンリーダーと名付けよう》
警戒しつつも接近すると、ゴブリンリーダーが咆哮をあげる。 意味不明な言語――いや、言葉ですらない“音”。 だが次の瞬間、彼は拓斗にこん棒を差し出した。
《……持てってことか?》
受け取ろうとした瞬間、口を開いた拓斗から出たのは、うめき声。 声にならない――人間としての“発声”ができない。
《嘘だろ……喋れねぇのか、俺!?》
その時、リーダーが手振りで「ついてこい」と合図を送る。 まるで“新人研修”の始まりのように。
周囲のゴブリンも武器を手にし、隊列を組み始める。 剣、弓、槍――個体ごとに装備も違い、役割も分かれているようだ。
《……これ、ただの獣の群れじゃない。軍隊だ》
広場の端に差しかかると、別の分隊が視界に入る。 どうやらこの世界には、多数のゴブリン部隊が存在しているらしい。
《こいつら……本物の軍事組織か?》
構造化された組織、役割分担、命令系統――夢じゃ説明がつかない整合性。 だが、状況を理解する暇はない。
目前のゴブリンが立ち止まり、拓斗をじっと見つめる。 挑発的な視線。続いて、手で「イキがるな、ひよっこ」と言いたげなジェスチャー。
《チッ……元人間なのにこんな下等な奴に……》
だが、今の姿じゃ何もできない、なにしろこんなこん棒ですら重たく感じる…。 せめて、内に灯る意志だけは捨てるまい――
《……この世界がどうなっていようと、生き抜いてやる》
その瞬間、空が鳴った。 曇天の中、黒い翼がちらりと現れ、遠くで獣のような咆哮が響く。
拓斗は空を見上げ、呟く。
《この世界……想像以上にヤバい……まずはサバイブだな……》
そして彼は、こん棒を握り直し、黙って隊列に加わった。
物語は、いま始まったばかり――。