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第五話 魔法発動。でも猫耳は変ですか

部屋でストレッチとスクワットをした後、竹刀を持って部屋着姿で蓮は庭にいた。


朝の5時。


次に素振り稽古を始めた。


上下素振り。


正面素振り。


左右面素振り。


跳躍素振り。


次々に基本の練習を行い、もっとも今、練習している「飛び込み面」の練習を始める。


蓮は集中力を極限まで高めている。




小一時間ほど経っただろうか。


縁側から母親が声をかけてきた。


実は、先ほどからずっーと、蓮の練習を見ていたのだ。



「蓮ちゃん」


母・千代子が声をかけるも、蓮には聞こえなかった。



しかし、汗が目に入り、首に巻いていたタオルで汗を拭った時、自分の名前を呼ぶ声が蓮の耳に入った。


声のする方へ顔を向け、気がついた。


「あっ、母さん。おはよう。居たのか」




「今日も熱心ね。でもそれ日和の部屋着。‥‥あっ、そうか」


「着る服がないのね」


千代子はすぐに理解した。



「そうなんだ。Tシャツはこれでいいとしても、ジャージもトレパンもサイズが合わない」


「先に走るつもりだったけど、仕方ないよ」



「あと‥‥」


そこで蓮は言葉を止めた。



「あら、どうかした?」



母親の問いかけに、少し躊躇いながら恥ずかしそうに蓮が答えた。


「‥‥んー、‥‥胸」


「‥‥揺れる。だからタオルで縛ってる」



ああ‥‥


千代子はすぐに察した。


「蓮ちゃん。今日、買って来なさい。わたしがお金を出してあげるから、必要なもの買って来なさい」


「日和ちゃんについていってもらうといいわ」


千代子はどこまでも蓮を応援したいのだ。



「すまない、母さん」



───



その日の夜になり、宗俊は会社から帰宅し夕食を取った。



もう夜の10時だ。


そして、応接間で日和の話を聞いていた。


「わっははは。そうかそうか」



部屋の外で父親の笑い声を聞いた蓮は、少々不安げに応接間の中に入って来た。


「父さん、これからのことを聞きに来た」


そう、ぽつりと話した。



すると今度は日和が口を開いた。


「あっ、蓮ちゃん。噂をすれば何とやら、だね」



日和の言葉に嫌な予感がする蓮。


「蓮。お前、ナンパされたのか。わっははは」



父親のその言葉に、「やはり」と思う蓮。


午後になって日和と買い物に出かけた蓮は、買い物の途中でナンパされたのだ。



「こらっ!日和!」


蓮は恥ずかしさのあまり妹を叱ってしまう。しかし日和は「えへへ」と笑顔で返すばかりだ。



「父さん。その話はもういい。それよりも俺はこれからどういう訓練をすればいいのか、それを教えてほしい」


蓮は、話題をそらすかのように話を本題へ向けた。



───



蓮の言葉を聞き宗俊も厳格な父親に戻った。


「うむ、そうだな」


「お前も知っているように、魔法は呪文を唱えて発動させる。そして様々な技を繰り出す」


「種類としては、攻撃魔法。防御魔法。回復。支援などがある」


宗俊は語る。



「ふーん、ゲームの魔法と同じみたいだ」


蓮は少しワクワクしてくる気がした。



「ワシはゲームはやらんが、まあ、そのようなものと思えばよい。ただ、ワシらが使う魔法は、映画などに出てくる魔法と少し違う点がある」


「昨夜も話したように、この力は神様から授かった神技ということだ」


「たとえば、呪文を声に出して唱えることが一般的な魔法の発動というなら、神技の場合は心の中で技を念じるだけで発動できる」


宗俊は、間を置きつつ話した。



「へぇー、セーラーハニーのように、その都度、声に出す必要がないのか‥‥便利だな」どこか呑気になる蓮。



「うむ。そして、もうひとつ大事なことがある。『集中力』が必要ということだ。技の威力を最大限に発揮させるには、この『集中力』が欠かせない」



今度は「集中力」という父親の言葉にびくりとする蓮。



「この『集中力』を欠いた場合、技を失敗したり、ぶれたりする。そして、さらに強力な技を出す場合、それまで以上に『集中力』を高める必要がある。剣道の技と同じと思えばわかりやすいだろう」



「なるほど、『集中力』か‥‥」


蓮はそうつぶやきながら剣道の試合を想像した。



「お前に小さいころから剣道を習わせていたのも、もちろん武士の家系ということもあるが、『集中力』の鍛錬をさせていたのだ」



「そうだったのか‥‥」蓮は深く頷いた。




「ワシも魔法の練習を始めた時は、失敗を経験している」


「変身に失敗して牛になったこともあるぞ」


宗俊はかつて自分が失敗した話を語りだした。


「部屋の中での変身の練習中のことだ。しかし、運悪くその場へ、じいさんがやって来てな。じいさんは部屋の中に牛がいることにびっくりして、腰を抜かしてしまった。という笑い話だ」


「『集中力』とは、とても重要なのだ」



「よし、では変身の呪文は『神技解放』だ。やってみろ!」



蓮は、宗俊の牛になった話を聞き、笑っていいのかどうか迷ったものの、とにかく父親の言葉で変身の訓練を始めた。


「神技解放」。心の中で蓮は念じた。


しかし、やはり最初はうまくいかない。体がぶれたり、からだが光出すものの途切れたりする。


集中力を高めているが、どうもうまく行かず、失敗が続く。




「よし。蓮。少し聞け」


宗俊が蓮の訓練を止めさせた。



「どうして変身の失敗が多いのか」


宗俊は続ける。


「お前は女子ということに躊躇いがあるようだ。昨日も気にしていたが、だが気持ちはわからんでもない。特に男子ばかりの中で剣道をしているので、女子、あるいは『魔法少女』ということに抵抗があるのだろう」




「しかし、よく聞け」


宗俊は大事のことだと改めて蓮に告げる。



「剣士には、女子も数多くいる。お前ではまったく歯が立たない強者の女剣士も数多くいるぞ」


「力では男子は有利だが、対戦する相手の様子。呼吸や、重心の取り方。癖を見抜く力。隙を見つけ出す力。反射神経。瞬発力。そして何より『集中力』。そして凄まじいまでの気迫だ」


「心技体。ひとたび剣を持てば、男も女も関係ない」



宗俊の言葉には偽りはない。蓮は頷いた。



「一度、一流の女性剣士の試合を見てみるといい」


「お前には『師』となる剣士がいると思うが、もしかすると、女剣士こそが、ほんとうの『師』であるかもしれん」


「それがわかれば、躊躇いも何もかも、実にくだらんことだとわかるであろう」



蓮は、じっと宗俊の言葉に耳を傾け、そして考え込んでしまった。


蓮の父・宗俊もまた剣の使い手。剣道での段位は蓮よりも格上だ。全国大会に出場し武道館で試合をした経験の持ち主なのだ。



宗俊の言葉を聞き、蓮は再び変身に挑戦する。今度は「女子であること」への抵抗感を振り払うかのように、集中力を高めていく。


そして、蓮の体が光に包まれる。


その光が収まると、そこには美しい魔法少女の姿が ── ではなく、頭にふさふさとした可愛らしい猫の耳がピンと立っている蓮がいた。



「キャーッ!カワイイーー!!」


ずーっと蓮の訓練の様子を見ていた日和が、突然、叫んで目を輝かせて蓮のもとへ駆け寄った。



「パシャリッ!」


そして日和はすばやくスマホを構え、まばゆいフラッシュと共に蓮の猫耳姿を撮影した。



「こらーー!!日和っ!!」


蓮は思わず叫ぶ。しかし、妙にリアルな感じがするため、思わずその耳に手を当ててしまう。


「ううぅ‥‥また黒歴史が増えた‥‥」


蓮は、小さく唸りながらぶつぶつと、つぶやいた。その姿は、なんとも言えない情けなさと、どこか可愛らしさが入り混じっていた。



結局、蓮はその後も変身に失敗し続けたが、何とか元の女子の姿に戻ることが出来た。


ただし、ツヤツヤしたロングヘアの黒髪は、まさかのピンク色に変わってしまい、蓮はどっーと、疲れが出たまま、肩を落として自分の部屋へ戻って行った。


第五話・完


※次回。第六話 「山に穴をあけたのは誰だ」

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